15.こわくなんてない
最近あまり物語に変化がなかったので、唐突なフラグ立てです。回収できればいいんですけどね。
最近、ゲームやらアニメやらで小説書くのが大変。他の人の小説も読ませてもらい、どのようにしたら上手くかけるかなど、日々精進の毎日です。
「大丈夫か!!意識を保つんだ!」
「うぅ……ぅ…」
お昼になってお客の波も落ち着いた頃、事件は訪れた。
冒険者と見られる一行が慌てて店に入っていたのだ。何事かと尋ねると、パーティの一人が死に瀕しているから助けてほしい。と駆け込んできたのだ。
連れてこられた法衣の女性の胸元には、見るも無残なほどに大きな傷を負っていた。
「見せてくれますか?」
「え、あ、ああ…」
「この抉るような傷…もしかして鳴音熊と出くわしましたか?」
「ああ!そうなんだよ!俺たちはこの周辺に生息する薬草を集めに来ただけの低級パーティなんだ!太刀打ちなんてできないから逃げたんだ…でも……」
「鳴音熊の一撃を受けたってことですか……」
この鳴音熊というモンスター。この村近辺でもあまり見られず希少な上、危険度がAという厄介なモンスターだ。(危険度Aとは上級冒険者がパーティを組んで倒せるほどの脅威)
そしてこの鳴音熊は全員特殊な固有スキルを持っている。《鳴動爪》という自身の爪を震わせて威力を上げるスキルだ。これを直に食らうとそこら辺の鎧などひとたまりもなく、かするだけでも抉るようなキズを受ける。
「ここは薬屋なんだろ!?何とかならないのか!!」
「うっすらだけど治癒がかけられている…でもこの状況だとあと数分も持たないですね……」
「何とかならないのですか!?お願いします!!」
「こんな重度のキズは上級ポーションでないと治らないんです。うちにはそんな高価なものはホイホイと置いていませんし…」
なんとも手詰まりだ。裏を探せば古いのが一本はあるかもしれないけど…そんな時間はない。もういっそのこと治療魔法で治すか…?
「……?にいさま〜、ことりさんがおてがみもってきたよ〜?」
「手紙?誰からなの?」
「んーとね…とうさまとかあさまからって」
「父様と母様から?ミザリー、急いで呼んでもらえる?」
「うん!とりさーん!はやくこっちにきてー!」
最近、ミザリーに特殊な体質があると発覚した。それは動物と対話をすることができるというものだ。前からやけに動物たちに好かれると思っていたけど、これが原因の一つらしい。
僕は小鳥が運んできた手紙を受け取る。
それにしても父様たちから手紙…?一体何があって手紙をよこしたんだろうか?
「シャマラさん!とりあえず中級ポーションでいいからキズにかけてあげて!」
「っ!は、はい!」
呆然と立ち尽くしていたシャマラさんに指示をして、延命措置を施させる。
その間に僕は手紙の封筒を開けて中を読んでいった。
『クリートへ、この手紙がちゃんと届いているかな?父さんたちは野盗の元凶を処罰したところだ。ママが処罰を全部やってたんだが…父さん、男として生きていける気がしなくなったよ…』
「ちょ…母様一体何したんですか…処罰ってことはもう解決したのかな。じゃあもう帰ってくるかも」
『父さんたちはもうすぐ帰る…と言いたいんだがな。そうはできなくなってしまった』
「え?帰って来られないって…何が変なことに巻き込まれて…!」
『父さんな……ママとこっちでラブラブな旅行をすることにしたから!半月は帰らないからよろしくな!』
「…………は?え?旅行…?そんな勝手な…」
『ミザリーのことよろしくな!困ったらリベネさんを頼るんだぞ!』
「ここで終わってる…なんて自分勝手な親なんだ…信頼されてるってことは伝わってくるけど………ん?まだ手紙入ってた?」
『追伸。多分、鳴音熊から一撃を受けて大怪我を負った下級冒険者たちがやってきて困っていると思う』
「予知!?」
『実は倉庫の地下の奥深くに秘密の金庫が置いてある。第3部屋の麻袋の下に隠してある。お前の魔力波紋を登録してあるから触れて魔力を流せば開くぞ。それじゃ、頑張れよ!』
まさかの最後にとても有用な情報が流れてきた。前半ほとんどどうでもよくなるほどに今の状況を打開できるものだった。
「大丈夫ですか!」
「頑張れ!」
「死ぬんじゃないぞ!」
「気をしっかり持つんだ!痛みに耐えて…たえ…はぁ、はぁ、想像すると…やっぱり私が受けるべきだったか…」
女性の周りではパーティの皆が励ましの言葉を送っている。一人変態が混ざってるが。
「リベネさん!その人を見てて!僕はポーションを取ってくるから!」
「は、はい!わかりました!」
その場をリベネさんに任せ、僕は手紙に書いてあった場所に向かう。
「地下倉庫の第3部屋…ここだ!」
地下倉庫の第3部屋。ここは古くて使わなくなった魔道具や武具が保管されている。
「麻袋……麻袋……」
麻袋と言われても、ここにはいろんなものが適当に積まれている状態だから何が何だか…
「これですか」
「あ!そうそれそれ!……ってええ!?リベネさん!?どこにいたの!?」
「ずっと後ろにいましたよ。お店が繁盛している時から」
「え…全く気配を感じなかったんだけど…?」
「そこは…メイドですので」
「そっかー、メイドだからかー。じゃないよ!……って!こんなことしてる場合じゃなくて、なんでそれをリベネさんが持ってるわけ?」
「頼まれていたんですよ。旦那様に。『もしも何かあったらクリートにこれを渡しておいてほしい』と」
「用意周到なんだか、それとも心配性なだけか…」
手紙に加えて言伝まで…親バカゆえか…?
「と、とりあえず!これを開けて……どうやるの?」
「やはり知りませんでしたか。なに、簡単です。そこのくぼみに手を当ててください」
「ここ?」
知らなくて当然でしょうが!いまさっき知ったばかりなんだから!
そう思いながら僕は金庫のくぼみの部分に手を当てる。
「……?別に何も…」
「少々お待ちを……………開きました」
「え?もう?別に何も音とかしなかったけど…」
「ええ。魔法で鍵をかけているだけですから。音は必要ないですね」
「はあ……まあ、この中に上級ポーションがあるわけだね?」
「はい。腐ってなければですが」
……無いよね?そんなことあって欲しく無いんだけど?もしそんなことがあったら困るんだけど?
金庫の中は2段の引き出し状になっていて、どちらかに上級ポーションが入っているのだと思う。
「とりあえず上!」
僕は引き出しの上の段を開けた。
中には様々な形のビンが並べられていた。
「んー…たくさん種類があるけど、探すしか無いかな…」
「ですね。私でもパッと見ただけでは分かりかねます」
拡張世界で見える範囲のビンを調べ上げていく。
───完全解毒薬×3
───蘇生薬〈悪質〉×2
───身体能力超強化薬×4
「……ない。上の段には上級ポーションは見当たらないなぁ…」
「そのようですね……下の段にあるのでしょう」
「だね。そこにかけるしかないよ…」
上の段はハズレ。ならば下の段にかけるしか他ない。蘇生薬とか気になるものはあったけども…
「頼む頼む頼む…ていっ!」
───狂戦士化薬×3
───限界魔力増幅薬×2
───不思議な薬×5
くっ…次で最後の一つ…!
───上〈・〉級〈・〉ポ〈・〉ー〈・〉シ〈・〉ョ〈・〉ン〈・〉×1
左から順に確認していく、そして右端一番奥にそ〈・〉れ〈・〉はあった。
「やった!一個だけある!これであの人を助けることができる!」
「………………はい」
「急ごう!今にも危ない状態なんだ!さ!早く!」
「…了解致しました」
僕は上級ポーションを抱き、急いで負傷した彼女の元へ向かった。
地下から出て、家の裏口から店の方へ急ぐ。
だが、そこで不思議な音が聞こえてきた。
──キィィン!カァン!
「これは…金属音?」
その時僕は全身の毛が逆立つほどの嫌な予感がした。
そしてその正体を確かめるべく、皆の場所へ急いだ。
進むにつれ大きくなる金属音、うっすらと喧騒の声が聞こえ始めてきた。
そして音の現場にたどり着いた。そこには…
「くっ!このぉ!」
「どらぁっ!」
「弱いな。所詮低級か」
「ああ、そうだな弟。さっさと始末して報告しよう」
「だな、兄者。ふっ!」
「っ!ごはっ!!」
「うがっ!」
兄と弟と呼び合う二人の黒装束の男が先ほどのパーティと戦闘を行っていた。
「…チッ!『風よ薙げ!《切断風》!』」
「っ、あぶねぇ」
「おうわっ!かすったぁ…」
リベネさんが到着と同時に戦況判断、詠唱省略で風魔法《切断風》を撃った。
「え?え?どうなってる…の…?」
「クリート様、お下がりください。こやつらは巷で噂の殺し屋兄弟です。何とも実力はランクA相当だとか」
「ほう、その姉ちゃんは俺らのことを知ってるようだな」
「どうする兄者。全員ヤるか?」
「野暮な事を聞くじゃねえか弟よ。分かってんだろ?」
「あいよ。《瞬歩》」
巷で噂の殺し屋。そしてAランク相当……確か一度耳にしたことがある………違う!考えるよりも今はリベネさんの戦闘範囲から全員退避させることだ!
「《視覚不能な手》!」
僕はよく使っている無属性魔法の《視覚不能な手》で倒れている冒険者パーティをこっちへ引き寄せていく。
ちなみに、ランクとは冒険者ランクのことであり、ランクAとなると相当な実力者という意味になる。
──ギギィン!
リベネさんがいつの間にやら手にしている短刀で二人の暗殺者の攻撃を防いでいる。
暗殺者兄弟は兄弟の連携を活かしたコンビネーション攻撃を行っており、右から左から、上から下から様々な角度からナイフ、短矢、剣などのバリエーション豊富な攻撃をしてきていた。
それを全て防いだり、かわしているリベネさんだが、今のところ危なげなく受け流しているがこちらに攻撃が流れないように意識しているのが伝わってくる。そのせいで本領を発揮しきれていないようだ。
リベネさんの邪魔をしないためにも、急いで引き上げなければ!
「…………っ!うぐっ!」
リベネさんがこちらを意識していた時に死角を突いて出てきた弟と横蹴りを腹にもろに受けてしまった。
「リベネさん!!」
「ゲフッゴフッ…大丈夫です。ですから早くお逃げください!」
「でも!」
「いいから早く!」
「……っ、わかった!」
少しずつ引っ張っていた気絶した冒険者だったけれど、こうなったら仕方ない。気絶しているところ悪いけど揺れるよ!
「えぇい!」
後方、店の廊下側に思いっきり投げた。そして僕もその方向に走る。
(この2人を安全なところに置いたら戻るから!それまで無事でいて!リベネさん!)
2人を追い越す際に再び《視覚不能な手》で掴み、引きずっていく。
「あーあ、逃しちまったよ。こりゃめんどくさいぞ、弟よ」
「さっさとこいつ片付けて追っかけようぜ、兄者」
「そんなこと…私がさせるとでも?」
「へっ!俺の蹴りを直に受けといてまだ減らず口を叩くか!」
「綺麗な容姿してるから持って帰ると喜ばれるんだが…そんなことはもう構わん、殺すだけだ」
「…………ふぅ」クイックイッ
挑発に乗り、そして再び戦いが始まる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ…はぁ…ここなら…安全でしょ…」
僕は再び地下倉庫に来ていた。なぜかというと、この2人を安全な場所に置いておくためである。
そんな安全安心な場所が地下倉庫の一室にある。言わずもがな、牢屋部屋である。
鋼鉄製で外からも中からも攻撃に耐える頑丈な設計になっている。
その中に2人を入れ、扉を閉める。これならもしものことがあっても安心だ。
「リベネさんの…援護に行かなきゃ…!」
まだ息も整っていない中、僕は走る。
大した距離じゃないのに遠く感じる。それだけ恐怖を感じているのだろうか。
『恐怖』それは少し前にも感じたばかりのもの。そして…僕が暴走した原因。
「怖い…だけど、またあんな状態になる方がよっぽど怖い!」
祝福《勇敢心》は恐怖を勇気に変えるというもの。そして前回、あまりにも過大な恐怖を勇気に変えてしまい、勘違いを起こして使命感になってしまった。
「僕自身でもあまりコントロールが出来なくなる…あの時はアベルがいてギリギリ対応してくれた。またそんなことさせるわけにはいかない…!」
恐怖を乗り越えること。それが《勇敢心》のさらなるステージへとトリガーとなる!
『祝福《勇敢心》の条件達成。祝福《勇者魂》に変異しました』
「《勇者魂》…?なんだろう…心の中に温かいものが湧いてくる…それになんだか身体能力も上がってる………リベネさん、今向かうよ!」
決死の覚悟を決め、僕は戦場へと突き進む。
誤字・脱字等ありましたら報告してくださるとありがたいです。