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デュークと女子大生  作者: 若松ユウ
Ⅰ 到着から現状把握まで
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H 第二王子は幼すぎる

H 第二王子は幼すぎる


「あら。そういえば、フィアは、どこへ」

 二人とも皿の中身が半分ほど無くなったころ、ヤヨイは部屋の周囲をキョロキョロと見回しながら言った。すると、サーラはフォークを口に運ぶ手を止めて言う。

「シエルのところに、食事を持って行ったんだろう」

「シエルというのは」

 ヤヨイがグラスの水を一口飲んでから言うと、サーラは嬉しそうに顔を綻ばせて言う。

「良い質問だね。シエルは、私と十一歳違いの弟だ。王位継承順は、第二位になる。正直、三十歳を過ぎた両親は子宝に恵まれると思ってなかったらしい。私も、弟が出来るとは思わなかった。でも、おかげで私は、あくまで中継ぎ役に過ぎないことになって負担が軽減したし、私が退位したあとの後継者問題も、一旦、終息した。嬉しい誤算だよ」

――サーラと十一歳違いってことは、五歳児か。可愛い盛りだから、サーラが興奮するのも解るなぁ。

「良かったわね、サーラ。ところで、そのシエルは、今どこにいるの。一緒に食べたら良いのに」

 ヤヨイが、食卓を囲む空席を見ながら言うと、サーラは興奮を抑え、少し気まずそうにしながら言う。

「あぁ、それなんだけど。シエルには、ちょっとばかり、困ったところがあってさ。まっ、食事が済んだら案内しよう。口で説明するより、実際に見てもらったほうが手っ取り早い」

――百聞は一見に如かず、ね。

  *

――お人形さんみたいという形容ではもの足りないくらい、可愛い。とにかく、可愛い。ひたすら、可愛い。天使か。ここは天国だったのか。

 フィアが隅に控え、ヤヨイが脳内で大妄想劇場を繰り広げているところで、シルクのパジャマを着た少年は、サーラのスラックスの裾をギュッと握りながら、おそるおそる様子を窺っている。

「シエル。そうやって私の陰に隠れてたら、先に進まないじゃないか。挨拶の仕方は、この前も教えただろう。完璧に出来なくても良いから、堂々と前に立って言ってみな。ほら」

 ヤヨイが微笑ましげに見つめる中で、サーラはシエルの背中を押し、ヤヨイの前に立たせる。シエルは、もじもじとしながら、鈴を転がすような透き通った声で言う。

「僕は、シエル。シエル・エンリ。公爵で、第二王子。よ、よろしく」

 言い終わるか終わらないかのタイミングで、シエルは再び、サーラの背後に回り、サーラのスラックスに額を押し付け、顔を隠す。

「よろしくね、シエル」

――甘えん坊で、恥ずかしがりやさんなのね。だから今まで、私の前に姿を現さなかったんだ。なるほど、納得。

 ヤヨイが一人で合点していると、サーラがシエルを横目で見ながら言う。

「どうしようもない人見知りで、私としても困ってるんだ。第一王子になる前に、何とか矯正しないといけないとは思ってるんだが、なかなか癖が抜けなくて」

――思い出すなぁ。今では生意気盛りのキサラギも、昔は私の後ろにべったりついてたのよねぇ。ヤヨイと一緒じゃなきゃ嫌だって、よくごねてたっけ。懐かしい。

「無理に直すこと無いんじゃない。そのうち人付き合いに慣れるって。――私は、ヤヨイ。櫻井ヤヨイよ。ヤヨイって呼んでごらん」

 ヤヨイがシエルのほうを覗き込みながら言って、サーラの背後に回ろうとする。シエルは、サーラの正面へと回り、上着の裾を掴む。

「そうだと良いんだが。――シエル。服が伸びるから、引っ張るんじゃない」

 サーラは視線を左右に走らせ、ヤヨイとシエルを交互に見ながら言った。

――反応が、いちいち可愛すぎる。可愛すぎて、可愛い以外の言葉が見付からない。ボキャブラリーを崩壊させる愛くるしさだ。

 部屋の中をクルクルちょこまかと動き回る三人を、フィアは翌朝の献立を考えながら、見るともなしに見ていた。

シエル・エンリ:五歳。公爵。第二王子。赤色(レッド)の瞳。白髪。

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