E 騎士団の副長はツンデレ狼
E 騎士団の副長はツンデレ狼
「人生百年か。それだけ長生き出来るなら、色んなことができるだろうな」
――そうでもないみたいよ。どれだけ長生きしても、いや、長く生きれば生きるほど、やりたいことが雪だるま式に膨らんでいって、生きることに対する執着は増していくらしいもの。
サーラは瞳を輝かせながら、ヤヨイはサーラを横目で見ながら並んで歩いている。そこへ、正面からフィアが駆け寄ってきたので、二人は足を止める。フィアは、サーラから三歩手前で片膝をついて述べる。
「サーラさま。ニッシさまが応接間でお待ちです」
「わかった。すぐに行くと伝えてくれ」
サーラは、毅然とした態度で言う。そこに、先程までの興奮に満ちた少女の面影は見られない。
「承知いたしました」
フィアは短く応答すると、素早く元来た道を引き返していく。サーラは、もの問いたげなヤヨイの表情を読み取って言う。
「ニッシというのは誰か、とでも思っているのだろう。顔に出てる」
――はい、その通り。ご名答。
ヤヨイが照れ笑いを浮かべながら頷くと、サーラはヤヨイに説明を始める。
「騎士団の副長をしてる男で、爵位は男爵。公名はヘルム。気安くニッシと呼んで構わない。彼も、フィアや私と同じで、ヤヨイがいた国では未成年だ」
――フィアは十五歳で、サーラは十六歳。平均寿命が短いだけあって、若い人が多いなぁ。
「ニッシは、何歳なの」
「十七歳。私より年上だが、ヤヨイよりは若いだろう」
――おぉ。お隣のヤンキーかぶれと一緒か。それは、興味深い。
*
「偵察の結果、異常はありませんでした」
軍服を着た精悍な男が右手を胸にあて、片膝をついたまま述べる。男の正面には、厳粛な顔つきで高い背凭れが付いた椅子に座るサーラが、左手には、戸惑いの色を見せながら長椅子に座るヤヨイが居る。
――狼みたいな鋭い眼をして、忠誠心に篤い熱血漢みたいだけど、その情熱は、単なる任務のためだけでは無さそう。
「ご苦労だ、ニッシ。ヤヨイの隣に掛けなさい。楽にして良い」
「はっ」
ニッシはスックと立ち上がり、ヤヨイの隣に座る。すると、サーラも椅子から立ち上がって長椅子のほうへと歩き、ヤヨイの反対隣に座る。
――あれあれ。何で、こっちに座るのよ、サーラ。ニッシの隣のほうが、スペースが空いてるのに。ニッシも、心なしかガッカリしてるわよ。
「王子と副長にしては仲が良さそうだけど、二人は、どういう関係なの」
ヤヨイは、視線を左右に動かし、二人を交互に見ながら言った。すると、ニッシは顔を赤らめながら言い、次いでサーラも早口で同意する。
「どういうって、ただの幼馴染なだけだ。親しくさせてもらってるが、断じて、それ以上の関係では無い。そうだろう、サーラ」
「あぁ、もちろんだ。ニッシの父が団長で、私の父と馬が合うものだから、自然と一緒に居ることが多かっただけだ。それだけだから、これ以上は詮索するな」
――目が泳いでるわよ、お二人さん。何があったか知らないけど、素直に認めれば良いのに。特にニッシは、強く否定しすぎよ。今の発言でサーラは傷付いてるわよ、きっと。
ニッシ・ヘルム:十七歳。男爵。騎士団の副長。琥珀色の瞳。赤毛。