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デュークと女子大生  作者: 若松ユウ
Ⅲ 放火事件発生
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T お役御免となれば

T お役御免となれば


――臨時議会は幕を下ろし、公邸には、再び平和な毎日が戻ってきた。とは言っても。

「改めて仔細を確認したが、思ったより焼けた範囲が広かった。抜本的な工事をしなきゃいけないから、作業が本格化する前に、一旦は仮住まいへ移る必要がありそうだ」

 スライスしたレモンが浮かんだ紅茶を飲みながら、サーラが渋い顔をして言った。それを聞いたヤヨイは、スコーンを割り、柄の長いスプーンで蜂蜜を塗りながら言う。

「そっか。引越し先に当てはあるの、サーラ」

「ここより手狭だが、海沿いに別荘がある。船で来る賓客を迎えるために建てられたものだから、造りはしっかりしている。――食べ過ぎると、夕食が入らなくなるぞ、シエル」

 サーラはヤヨイの質問に答えたあと、シエルに向かって注意した。シエルは、ナプキンの敷かれた籠に盛られたスコーンに手を伸ばしたまま、一時停止して言う。

「グッ。大丈夫だもん」

 シエルは、そう言いながら、スコーンを自分の取り皿の上に乗せた。

――まぁまぁ。ちょっとくらい大目に見てあげても良いんじゃない、サーラ。

  *

――ちょっと食べ過ぎちゃったかなぁ。

 ヤヨイは、片手で腹の上を摩りながら、ソファーで寛いでいる。

――いけない。このまま横になったら、セイウチになる。

 ソファーから立ち上がろうとしたヤヨイは、自分の身体の向こうに、ソファー座面やカーペットが透けて見えることに気付く。

――えっ、ちょっと、何なの。私の身体、幽霊みたいになってる。

『気がついたかね、櫻井ヤヨイよ』

――誰っ。どこにいるの。

『君たちの言葉を用ゆれば、神託(オラクル)とでも呼ばうべき存在かな。あぁ、いくら声のするほうを見渡したって、無意味だよ。姿を持たないからね』

――胡散臭いけど、この場は、そういうことにしておくわ。それで、オラクル。あなたは、私に何の用なの。

『オホン。それでは、本題に入ろう。君は今、二つの世界の狭間に立っている。この世界に留まるか、それとも元の世界に戻るかは、トレードオフの関係にある。すなわち、ここで一度決めてしまえば、選び直しが利かないということだ。その上で、問おう。君は、これから先、どうしたいかね』

――この世界は、現代日本に比べれば、何かと不便なことが多い。でも、これまでの出来事を夢物語としてしまうのは、もったいない気がする。うぅん。

 ヤヨイが迷っていると、部屋にシエルが入ってくる。

「ヤヨイ、どこにいるの。かくれんぼの続きをしようよ」

――シエルだ。どこを捜してるの。私は、ここよ。

『無駄だよ。今、君の姿は、この世界の住人には一切感知出来ないようになっている。さぁて。少年は、本棚の隙間や花瓶の裏を見出したよ。どうする、櫻井ヤヨイ』

――私は、私はっ。

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