Q 地震雷に次ぐ災害
Q 地震雷に次ぐ災害
「ずいずいずっころばし、ごまみそずい。ちゃつぼにおわれて、どっぴんしゃん。ぬけたら、どんどこしょ」
公邸の客室で、ヤヨイが窓辺に立って歌っている。すると、階下で黒っぽいケープに身を包んだ数名が、庭を横切って外へ行くのが見える。
――誰だろう。フード部分を目深に被ってるから、顔が分からないなぁ。
ヤヨイは、その様子を気にしながらも、歌い続ける。
「たわらのねずみが、米食ってちゅう、ちゅうちゅうちゅう。おっとさんがよんでも、おっかさんがよんでも、いきっこなしよ。いどのまわりで、おちゃわんかいたのだぁれ。もう、いいかい」
「今度は何をしてるんだ、ヤヨイ」
歌いきったヤヨイが振り向くと、そこには首を傾げたサーラが立っていた。
「サーラ。貴族議会は、もう終わったの」
ヤヨイは、サーラに疑問を返した。サーラは、ヤヨイに応じながら、辺りを見回して言う。
「あぁ。つい今しがた、結論が出たところだ。ところで、シエルの姿が見えないが」
――議会が終わったところなら、さっき見たのは、議員さんの従者が誰かだったのかな。
「それを捜すのが、鬼の役目よ。かくれんぼで遊んでるの」
「なるほど。私も捜して良いか」
ヤヨイがサーラに了承の返事をしようとしたとき、階下から悲鳴と叫び声が聞こえてくる。サーラは、素早く廊下に飛び出し、音のした方向へ走っていく。ただならない様子に、ヤヨイも不安げな顔で追いかけていく。
*
「議員たちは、ひとまず避難を完了した」
「誘導、ご苦労」
敬礼しながら報告するニッシに対し、サーラは短く礼を述べる。どちらも、表情は硬く、険しい。
「火の手は、議事会場の裏から上がり始めたものらしい。詳しくは、消火が済むまで何とも言えないが」
「そうか。厨房や水廻りとは反対方向だな」
サーラは顎に指を当て、首を捻る。
「不可解だろう。俺も、放火の疑いが高いと睨んでる」
「フム。おそらく、その線で間違いないだろう。容疑者に、目星は付いているのか」
「おおよそは。ヤヨイが、直前に怪しい二人組を見たという。それと、その話を聞いたグレイが、急に表情を曇らせて、どこかへ行った」
「心当たりがある、ということか」
「あぁ、たぶん。憶測の域を出ない話ばかりで、申し訳ない」
「いや、充分だ。助かる」
二人のあいだには、しばらく、気まずい沈黙が流れた。