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デュークと女子大生  作者: 若松ユウ
Ⅱ それぞれの事情
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K 厩で白馬と対面する

K 厩で白馬と対面する


――石と煉瓦によって作られた重厚な建物から出るだけでも、結構な解放感になる。天井が高くて広々とした空間が確保されていたはずなのに、どうしてあんなに息苦しかったのだろう。

「ここが、厩舎だ。さぁ、どうぞ」

 サーラは、木の柵から閂を外すと、人一人が通れるだけの隙間を空け、先に行くように促す。ヤヨイは、興味津々の様子で中に入る。

「お邪魔しまーす。あっ」

 ヤヨイが大口を開けて驚くと、サーラはヤヨイの口に急いで手を当て、辺りの様子を窺いながらヤヨイに注意する。

「静かに。馬の耳は、人間より鋭いんだ。いきなり大きな音を立てたら、驚いて暴れることもある」

 ヤヨイは、サーラの手を退けながら、小声で謝る。

「ごめんなさい」

――だって、今までの人生で、こんなに間近で白馬を見る機会が無かったから、ビックリしちゃったんだもの。それにしても。見れば見るほど、白さが目に沁みる真っ白さね。中でも、長い(たてがみ)と気品ある顔立ちが目を惹くわ。フフッ。吾輩の辞書に、不可能の文字は無い、なんてね。

 ヤヨイが居並ぶ白馬たちを見ながら、頭の中でナポレオンの肖像画を思い浮かべているのを尻目に、サーラは慣れた様子で奥へと進み、ある雌馬の前で手招きする。それに気付いたヤヨイは、トテトテと覚束ない足取りで近寄る。馬まであと一馬身というところで、サーラは片手を突き出して制止を指示し、人参を持ってヤヨイに近付きながら言う。

「一旦、そこまで。あの馬がヨハナだ。で、これを渡すから、片手で葉のほうを持ってゆっくり接近してみてくれ。幼い頃から世話をしてるんだが、気難しい性格で、私以外の人間には懐こうとしないんだ。ニッシは手首を噛まれ、グレイは脇腹を蹴られた。まぁ、後者は自業自得なんだけどな。無論だが、危ないと思ったら間髪を入れずにに止める。だから、安心して欲しい。はい」

 ヤヨイは、サーラから人参を受け取り、やや及び腰で足音を忍ばせながら距離を縮めていく。ヨハナは、そんなヤヨイを品定めするように流し目で見ていたが、差し出された人参を食べると、目を細めて頬をすり寄せる。

――友好的じゃない。怖がって損しちゃった。

「ヨハナ、くすぐったい」

 ヤヨイが身を捩りながら笑っているのを見て、サーラは驚きを隠せない様子で、目を丸くして言う。

「一回で懐くはずがないと思っていたんだがなぁ。思い込みは、間違いだったようだ。――ヤヨイのこと、気に入ったんだな、ヨハナ」

 サーラが髪を梳かすようにしてヨハナの鬣を撫でながら問い掛けると、ヨハナは短く嘶きを返して応じた。

――ありがとう、ヨハナ。あなたが気付いてくれなかったら、私は泉の畔で行き倒れたままだったわ。


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