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デュークと女子大生  作者: 若松ユウ
Ⅱ それぞれの事情
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J 市民議会を見学する

J 市民議会を見学する


――朝食のとき、午前中に市民議会が開かれると聞かされ、二階席で見学させてもらうことになった。なったのだが、ここまで白熱した議論が展開されてるとは、予想だにしなかった。シートは自由席制。議員は名誉職で無給なので、意欲ある志の高い人間しか出席していないとのこと。全員が一言一句聞き逃すまいとステージに向かって真剣な眼差しを送っていて、どこぞの極東の島国みたいに、名札だけ立てて居眠りするような税金泥棒は皆無だ。

 階下を眺めれば、半円のステージの中心に一人の女が立ち、演説をぶっている。

「我がエンリ公国の識字率は、八割を超えている。これは非常に喜ばしいことでありますが、あくまでこの数字は、国民全体に対する割合でありまして、ことを我らが市民に限定いたしますと、何と六割まで下がるのでございます。この、貴族と市民との教育格差が広まりますと、階級が固定化する一方でありまして、生まれながらにして非常に不公平な環境に置かれるのでございます。まこと由々しきこの事態に、我々市民議会は、声を大にして議論すべきである。と、私は思う所存であります」

 得意気に言い切った女に対し、男が挙手をして意見を述べる。

「ご高説、ごもっともだがね。具体的には何をすべきだというのかな。理想を述べるばかりで実際性が乏しければ、机上の空論に過ぎんぞ」

 男の発言に対し、ステージの女が答申する。

「ご指摘の通りであります。そこで私は、公教育の場を増設すべきだと考えるのでございます」

 ステージの女に向かい、先程の男が再び挙手をして意見を述べる。

「待ち給え。そう簡単に、教師の数は増やせんのではないかね。徒に数だけ合わせても、それでサービスの質が落ちれば、本末転倒では無いか。真っ当な教育が行き渡らなくなれば、声の大きい誰かのいい加減な発言を妄信してしまい、まともな意見は淘汰されて民主政が破綻してしまうのだぞ」

 男の意見に便乗するように、別の女が挙手をして加勢する。

「そうよ。衆愚により独裁体制が誕生するのは、歴史が証明してることだわ」

――何だか、よく分からないけど、話の規模が凄く大きくなってる気がする。教育の大切さについての話だったはずなのに、いつの間にか政治の難しさについての話になっちゃってる。ハイレベルすぎて、ついていけない。

 ただ座って見学してるだけにも係わらず、ヤヨイが疲れた様子でグッタリと背凭れに背中を預けて脱力していると、その隣で、背筋を伸ばして身じろぎ一つせず座っていたサーラが立ち上がり、ヤヨイに向かって腕を伸ばして手を差し出しながら言う。

「昨日の今日であるし、慣れない討論を聞かされて疲れただろう。新鮮な空気を吸って、気分転換をしよう。引くから立て」

 ヤヨイはサーラの手に掴まり、腕を引かれて立ち上がる。

――声さえ聞かなければ、素敵な王子さまそのものなのよね、サーラは。女の子だって知らなかったら、うっかり惚れてしまうところだ。


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