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苦手な方はご注意ください。

★たまり短編小説集

禁じられたポッキーゲーム

作者: たまり


 ――感染症予防ため『ポッキーゲーム』は禁止とする。


 ※11月11日(土)はポッキーの日


 ◆


 放課後、保健室の前に張り紙がしてあった。

 人気のない廊下は静かで、通りかかる生徒もあまりいない。


 と、二人の制服を着た男子高校生が足を止めた。


「……ハルカ、これはどういう意味だ?」


 男子生徒が張り紙を睨みつけた。

 ハリネズミのようにツンツンと尖った短髪で、目つきが鋭い。

 背が高いので少し前かがみになり壁の掲示板に顔を近づける。一直線の眉に着崩した制服が不良っぽい雰囲気だ。

 隣りにいた背の低い男子生徒に顔を向け、尋ねた。


「感染症……病気予防ってことだよ。カイト」

 くすっと、ハルカと呼ばれた男子生徒が微笑んだ。


 ハルカと呼ばれた背の小さな男子は、ナチュラルでふわっとした栗色の髪。くりくりとした丸い瞳が小動物のリスを思わせる。中性的な美少年の可愛らしさがある。


 制服の袖は長めで、『萌え袖』のように指先が覗いている。


「病気って、なんでポッキーの日でそうなるんだ!?」


 ツンツン頭のカイトが掲示物に向き直り目つきを鋭くする。再び真横に並ぶハルカに視線を向けながら、唇をへの字に曲げた。


「そりゃまぁ、ポッキーゲームだからねー」


 ハルカが上目遣いで、意味ありげに唇を人差し指で持ち上げる。


「なんだそりゃ意味がわかんねぇ。っていうかポッキーゲームってなんだよ? 表面のチョコを舐めとる競争か!?」


 何故か苛立たしげなカイトが、ハルカを見下ろす。二人は頭2つほど背の高さが違う。


「え!? カイト……まさか知らないの!?」


 ぷっくく、とハルカが小馬鹿にしたように身を逸らす。


「知らん」

「あらら」


 カイトの硬派で直球な答えに、ハルカは呆れたように柳葉のような眉を持ち上げた。


「じゃぁ、僕が教えたげようか?」


 小悪魔のような光を瞳に宿すと、思いついたように肩掛けカバンを開く。


「お、おう?」


 ハルカはゴソゴソと鞄を漁ると、ポッキーの箱を取り出した。校内は持ち込み禁止だが小腹が空いた時のために密かに持ち込んだものだ。


「まずは……これを一本あげるね」


「おっ? いいのか? サンキュー」


 一本のポッキーを差し出すハルカに、単純に喜ぶカイト。


「カイトがそれを咥えて。チョコが付いていない方をだよ?」


「こうか? むぐ」


 ツンツン頭で目付きの悪い男子生徒が、ポッキーをタバコのように咥える。これだけでも生活指導の教師がすっ飛んできそうだ。


「今から、お互いにポッキーを両側から食べます、多く食べたほうが勝ち。わかった?」


「はっ……ハハハ!? 簡単だな? ポッキーゲーム恐れるに足らず」


「じゃ、カイト少し前かがみになってよ、僕が届かないから」

「おぅ、さぁ来い……!」


 カイトが勝負する気満々で前かがみになると、ハルカがポッキーの先端を「ぱく」と唇で受け止めた。


「うんっ、じゃぁ……スタートね」


「ふっ!? ハルカ……おま」


 だがそこでカイトが動揺する。なんだか、顔が近い。


「僕が……全部食べちゃうよ?」

「ふがっ? そうはいくか……!」


 ショリショリ……とハルカが食べ始めると、カイトも負けじと食べ始める。

 

 夕日の差し込む放課後の廊下。


 遠くから部活の掛け声が聞こえてくる。 

 男子生徒二人が両側からポッキーを食べているという構図は、さながら透過光を多用した、背景が美しい青春アニメのワンシーンのよう。


 だが、カイトがあることに気がついた。


 ――このままだと唇が……ぶつかるんじゃね!?


 これでは……このままでは正面衝突、唇の接触事故だ。

 つまり、世に言う「キス」のような事案が発生する。


「ハルカ……」

「カイト……」


 幼いころからいつも一緒に遊んでいたカイトとハルカは、気の置けない友人だ。

 見た目が不慮っぽいせいで、クラスではすこし浮いた存在のカイトに、ハルカはずっと変わらずに接してくれた。

 背が小さく可愛い顔のハルカが妬んだ女子に絡まれれも、カイトが助けてくれる。


 互いを大切に想う気持ち――。

 それは確かに「友情」と呼べるものだ。


 いや、あるいは友情さえ超えた感情――かもしれない。


「……だがッ!」


 幼なじみとはいえ、ここで負ける訳にはいかない。


 勝負は勝負、勝負は気合!

 気持ちで負ければケンカは負ける。カイトがと気合を入れ直す。

 

「負けんぞハルカ!」

「えっ、んっ!?」

 ハルカがカイトの気合に思わず気圧される。奥手で何も知らないカイトを弄んでやろうと思ったのに、逆に追い詰められていたのはハルカのほうだった。


 ポッキー残量あと一センチ……と思った次の瞬間。


 ガラッ! と保健室の扉が開いた。


「くッぉらあああ!? 張り紙の前でなにやっとんだぁッ!?」


 バァンと白衣から伸びた腕と細い指が、掲示物の張り紙を叩いた。

 

「……あ?」

「ちぇっ」


 そこには、丸い眼鏡を夕日で光らせた、29歳独身、彼氏無し歴25年の女保健教員が立っていた。

 はぁはぁ……と肩で荒い息をしながら、キッ! と二人の男子生徒を睨みつける。


「保健室の前でBLか!? あぁ、耽美だわ、美しいわ! 『恋の感染症に気をつけろ』って意味じゃねぇよ! わかってんのかコラァ!?」


 何故か女保健教員が目を吊り上げ叫び散らす。


「先生なんでキレてんだ!?」

「やばいよ逃げよ、カイト!」


 ハルカはカイトの腕を引っ張ると、オレンジ色と影に染まる廊下を駆け出した。


「それにポッキーの日は明日だろうがあああ!?」


 ――11月11日はポッキーの日。

 ――感染症予防ため『ポッキーゲーム』は禁止とする。


<おしまい>


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