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黄昏に沈む  作者: 鯉々
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第壱拾弐話:黎明と黄昏

 私達は由紀さんの作戦を聞くためにその場に座り込んでいた。

「まず、最初にするべきことはヒツケさまの排除だ。あれがいる限り、いくら町の怪異を排除してもきりがない」

「ん……簡単に言うけどさ?どうするの?相手は一応神様なんでしょ?そんな簡単に倒せるものなの?」

「そうだね。普通は無理だよ。……でも、やっぱり私はツイてたんだ。賽ちゃん、君が来てくれた」

「わ、私ですか?」

 突然、話題が私に来て驚いてしまう。私でいいのだろうか?

「賽ちゃんがの能力。それがあればアイツを倒せる筈」

「私の能力のこと、知ってるんですか?」

「君がここに来た時から知ってるよ。私はこの町を維持するために造られたんだから。この町の事は何でも分かるんだよ」

「由紀、それでどうするって言うの?」

「ヒツケさまは普段は姿を見せない。炎だけで相手を消滅させようとする。だから私が一緒に行く。私の奇跡の能力ならアイツが姿を現すはず」

「そんな都合良くいく?」

「……アイツは私の事が目障りなんだよ。私がいる限り、アイツはこの町の真の神にはなれない。だからアイツとしては私を直々に殺したい筈」

「出てこない可能性の方が高いんじゃないの?」

「所詮は人間が造ったものだよ。完璧じゃない。それに私の奇跡の力と、アイツの忘却させる力。私の方が強いよ」

「……分かった。信じるよ」

 由紀さんの作戦を纏めるとこうだ。私達は火ノ神神社へ向かい、ヒツケさまを誘き出す。ヒツケさまが出てきたら、由紀さんが能力を使ってヒツケさまの本体を出現させる。そこで私が能力を使ってヒツケさまの魂を消滅させるというものだった。


 私とユカリちゃんは作戦通り火ノ神神社へ向かった。私の気のせいかもしれないが、前よりも町全体が暗くなっていた様な気がした。まるで、町全体が終わりに向かっている様で、私は不安に駆られた。

 神社内に入ると私はまずは蝋燭を見た。蝋燭には以前と変わらず火が点いており、夜闇に揺らめいていた。

 由紀さんは鳥居前の階段に身を屈めて隠れていた。ヒツケさまが出てきたら、由紀さんが出てくる予定だ。

「サエ。空気の流れが変わった。来るよ」

「うん…!」

 私は気を引き締めた。ここに来るのは二回目と言う事もあってか、私にも空気が変わったのが分かった。

 すると、あの時の様に蝋燭の火が一斉に消えた。私の体が少し震える。これは恐怖から来るものなのだろうか?それとも武者震いだろうか?

「サエ。大丈夫。私がいるから」

 ユカリちゃんが私の手を力強く握ってくれた。その手は小さいものの、とても暖かく、死んでいるという話が嘘の様だった。


 一瞬の事だった。突然私の横を熱風が横切った。だが私はヒツケさまを恐ろしいとは思わなかった。自分の命を狙われる事よりも恐ろしい事が起きたからである。

 手の感触が無かった。先程まで感じていた暖かさが突然消え、私の手は冷たい夜闇を握っていた。ユカリちゃんがいなくなっていた。

 私の足元にはユカリちゃんがつけていた髪留めゴムが落ちていた。

 私の手が震えているのは恐怖のせいだろうか……?

 私の横を由紀さんが横切った。彼女の顔にははっきりと怒りが見えた。

「許すわけにはいかない!お前みたいなのが、神を名乗るなぁ!!」

 由紀さんが叫ぶと共に炎の中に仏像の様なものの影が現れた。あれが、本体なのだろうか?

「何が救済だ!何が忘却だ!こんな世界要らない!お前なんか要らない!!」

 由紀さんの叫びを聞いてか、ヒツケさまが由紀さんに突っ込んで行った。

 私は咄嗟に駆け出す。もしここで私が動かなければ、全てが台無しになる。由紀さんのためにも、ユカリちゃんのためにも!

 手を伸ばし、炎の中に手を突っ込む。以前とは違い、まるで本物の炎の様に熱かった。だが、そんなことを気にしている暇はなかった。私は更に奥へと手を突っ込んだ。すると私の手先に固い何かがあたった。私の手は最早火傷によって感覚がなくなっており、何に触ったのか分からなかった。

「賽ちゃんっ!」

 由紀さんは私を抱きかかえるとそのままヒツケさまから引き離した。周りを見ると、暗闇にひびが入り、そこから眩い光が入ってきていた。

 ヒツケさまの炎は消えており、地面には壊れた木彫りの仏像が落ちていた。

 私は由紀さんに抱きかかえられたまま地面に倒れこんだ。周囲の光は次々と大きくなっていき、私達の体を包んでいった。

 その光はずっと暗闇にいた私にはあまりにも眩しく、まるで光そのものに焼かれている様だった。

 私は最早目も開けられなくなっており、周囲の状況が認識出来ていなかった。一つだけ確かだったのは由紀さんが側にいるということだった。私は光の中手を伸ばし、ユカリちゃんの髪留めを掴んだ。ユカリちゃんの事を忘れたくなかった。





 私は林の中で目を覚ました。辺りは明るく、日が昇っていることが分かった。

 周囲を見渡すと、火の消えた蝋燭が大量に落ちていた。それ以外は木や草などしか無く、他の物は見当たらなかった。ユカリちゃんも由紀さんもいなかった。

 私は寂しさを感じながらも家に帰ることにした。他に帰る場所などなかった。


 結果としては、私は孤独だった。

 お母さんは私の事を覚えてなかった。いつもは私を怒ったり、叩いたりしても私の事を忘れるなんて事は無かった。なのに忘れられていた。これもヒツケさまの力……なのだろうか。




 結局私は孤児院に入る事になった。警察の人達は身元不明の人間として私の親を探してくれた。でも、もうそんな人はいない。私は完全に身元不明の人間になった。


 そんな私の下に一枚の手紙と小さな袋に入ったプレゼントが届いた。施設の管理人さんが私に届けてくれた。

 私は手紙を開いた。


「お元気ですか?

 こちらは夜が開け、美しい夕焼けが街を照らし始めました。

 私の思惑通りには行きませんでしたが、街は平和を取り戻しています。

 やはり、私はこの街にとって都合の良い存在なのでしょう。消える事は許されないのでしょう。

 あなたが心配しているでしょうからここに書いておきます。

 あの子は無事です。あの後、再び姿を現しました。

 しかし、あなたのことは覚えていないようです。

 一応こちらでも何とかならないか手は尽くしています。

 あなたへこの手紙とプレゼントを贈ります。

 あなたのこれからの人生が幸せに満たされますように。

                      黄昏街代表 木船 由紀より あなたに愛を込めて」


 私は袋を開け、中身を確認した。

 それは私にとって大切なあの子そのものだった。

 私の顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。

ここで一応最終話です。

ここまで読んでいただき有難う御座いました。

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