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朽ちる  作者: だーいし。
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つづら折り

ベッドの質感で、今いる場所が家ではないことに気付いた。 

窓から見える景色はすっかり夜に飲みこまれていて太陽の存在が嘘みたいに感じる。

鈍い痛みが走った。


そうか、私は死ねなかったのか。


鈍い痛みが生きていることを証明している。

幸い、大事には至らなかったの花壇に引っ掛かったせいだった。

運なんかじゃない。私は覚悟を決めきれなかっただけ。


中途半端だ。自ら飛び降りたくせに未だに生きるすらも捨て切れていないんだから。


 数日安静、と言われて真っ白な総合病院で寝泊まりを繰り返して2日目を迎えた。

 

今私がこうしてベッドの上にいることは雄哉には言わなかった。

負担になりたくなかったから。昔からそうだ。変な所で意地を張ってしまって失ってから気付く。

頭では分かっていても本音は喉で引っ掛かってそれ以上先には進まない。

 

会社には洗濯物を取ろうとして落ちてしまったと伝えた。

馬鹿みたいな嘘をついてしまった。

いい歳してベランダから落ちた馬鹿な女として知られていくんだろうな。


会社に連絡して、大輝にも連絡した。もちろん馬鹿みたいな嘘をついて。

 

それでも大輝はお見舞い来てくれた。

分かり易い程に心配そうな顔をして。


優しさが染みる。

染みるというよりはズキズキと痛む、と言った方が正しいのかもしれない。


私は裏切ったんだ。大輝の優しさを。被害者づらをして。


大輝は私の手を握ってくれた。

熱かった。


大輝と会うのはこれが最後にしよう。

私は大輝に唇を求めた。

なにもこんなときに、なんて彼は笑って呆れている。


病室に夕陽が射し込む。

彼の顔がオレンジに染まり、変に色っぽく見えた。

大輝の顔が近付いてくる。

 

黒い瞳のなかに私の顔が映りこんだ。

現状を受け入れるように、瞳を閉じた。

大輝の唇が私の唇に触れる。

 

温かく柔らかく、淡かった。

すぐに忘れてしまいそうになる感覚を、忘れないように記憶に刻み込む。

 

 「それじゃあ、また来るから。」

大輝は私にそう伝えると2度頭をポンポンと叩いて病室から出ていった。


窓の外から子供の笑い声が聞こえてくる。不意に小学生の時の記憶がリフレインする。

 

 小学生の頃、将来の夢の欄には「幸せになりたい」と書こうとしていた。

周りの人に、友達に、笑われるのが怖くて書けなかった。

最終的にはぶっきらぼうに「特に無し」と書いた。

 

言霊というものは実際するのだと思う。 

まさに今、「特に無い」人生を歩んでいる。

もしあの時に言いたいことが言えていたなら。「幸せになりたい」と書いていたなら、少しは人生が変わっていただろうか。

 

少しだけ開けた窓からすきま風が吹き抜けた。7月の終わりのことだった。

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