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another  作者: 加藤イノリ
第1章 変わる日常
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9ー与えられた選択肢

 園田は何を言っているんだろうか。


「10年?そんな……だって」


 そう言いかけて、僕は一度言葉を止める。あれこれと理由をつけて、最後にそんなはずないと言うつもりだった。しかし、園田の顔を見て次の言葉が出てこなくなった。


―――彼の目は今日一番と言っていいほど真剣で、嘘をついている可能性など微塵も感じられなかった。


「先ほど君が言った通り、あと2、300年は大丈夫と一般的には言われている」


「それが全くの虚実というわけではない。実はもうはっきり200年という数字が出ている」


 園田の意味するところが分からない。そこからどうやって、10年という数字に行きつくというのだろうか。


「……なら」


「地球上の全ての資源が尽きるまで、あと200年だ」


 園田はきっぱりと言い切る。だが未だに僕の疑問は晴れない。納得のいっていない僕の顔を見て、園田が説明を続ける。


「考えてみるんだ。全人類が当たり前の生活を送るために資源を消費し続ける」


「そしていざ200年後になって、急に綺麗さっぱり全資源のなくなるだろうか?」


 園田は疑問形で話したものの、僕に答えを求めているわけではないようですぐに言葉を続ける。


「答えは否だ。200年もせずに無くなってしまう資源の方が多いはず。そうなると全人類が問題なく生活することができるのは実質150年ほどだ」


 先ほどとは少し状況が変わったとはいえ、依然として僕の疑問は解消されない。


「でもそれなら、まだまだ時間はあるじゃないですか。今の研究のペースなら……」


「ああ、火星に移住するのはさほど難しいことじゃない。何なら既に基地も存在している。


「―――でも必要なものがあるだろう?」


「必要なものですか?」


「資源だよ」


 園田は簡潔に告げる。


「もちろん永住するとなると、資源・食料を手に入れるサイクルを作る必要がある。だがそれは一日二日でできるものではない。」


「安定した供給を得ることができるようになるまで、数十年かかることも考えられる。じゃあ、どうするか」


「有る場所から持って行く」


 園田の話から僕も一つの答えにたどり着き、無意識にそれを口に出す。


「そう。なら私たちも悠長に留まっているわけにもいかないね。じゃあ、みんな仲良く火星に行こう!なんてなると思うかい?」


 話の深刻さに反して、園田は少し茶化したような言い回しをする。その態度に少し不信感を覚えながらも黙って説明の続きを待つ。


「まずそれは物理的に不可能だね。今一番高性能な宇宙船の最大人員は約100人。ある程度の必要物資を含めてね」


「この間の最短記録がだいたい往復で3ヵ月でしたよね?」


 僕は以前、学校でムツキや玲奈と話したニュースを思い出す。


「ああ。そして、世界に存在する打ち上げ施設は全部で15。世界の人口は約10億人」


「……到底間に合わない」


 突然突き付けられた現実に、それ以上の言葉が出てこない。


「さあ、それを知った各国のお偉いさんたちが考えることは何か」


「自分のことだよ」


 園田は冷たい目をしながら、低い声で呟く。


「そんな時、彼らが目を付けたのが―――私たちIFSだ」


「IFSは世界のあらゆる所に拠点を構え活動をしている。特に宇宙開発の技術においては圧倒するものがある。それゆえ現在では、ほぼ全ての宇宙関連施設を管理している」


 園田の言う通り、宇宙開発についてはIFSが他の数歩も先に行っていて、他が取って変わるなんてことは起きないだろう。


「だがうちの会社もそれだけではない。世界中から選りすぐられた、各分野のスペシャリストたちもいる。そしてその一部の人たちが各国で出されている、向こう2、300年は問題ないという説に疑問を唱えだしたんだ」


 確かに数年前、そんなニュースが報道された時があった。しかしその話は数日間だけでぱったりと止み、人々には忘れ去られていた。


「そこで、彼らはIFSにこんな話を持ち掛けてきた。世界の要人とその家族を優先的に火星に連れ出せば、その研究に関わった者とその家族にも等しく移住する権利を与える、と」


「彼らは"アドバンス計画"などと大層な名前を付けて呼んでいるよ」


「そんな……」


 自分たちの知らないところで進んでいた衝撃の事実に息を呑む。


「しかも、仮に計画に賛同せず、に事実を世間にを公表した場合は全社員とその家族を殺す、とまで言ってきたそうだ。」


「彼らも死の危機に晒されているとなっては、なりふり構ってもいられなかったんだろうね」


 話している内容に反して、相変わらずの余裕な態度を見せる園田に違和感をを覚える。まるで自分には関係のないことだ、と言わんばかりの口振りだ。


「そこからは容易に想像が付くだろう?だから今、IFSの研究員のほとんどが何らかの形で手を貸し、宇宙開発を急いでいる、というわけだ」


 ここ数年、宇宙分野以外でIFSの名前を聞くことは以前より少なかった。どの分野もある程度研究し尽された影響だと言われていたが、そういうことだったのか。


「そして、その出発が8年後から順に開始し、条件を満たす全員が移動を終えたら終了だ。もちろん資源も持てるだけ持って行くだろう。地球のその後など考えずにね」


「それじゃあ、残された人たちは……!!」


 僕はやっとの事で、ずっと閉じていた口を開く。口はカラカラに乾いていて、掠れた声しか出てこない。


「資源はほぼ無く、各国の要人や宇宙開発の主だった研究者も消える。ただ、死を待つだけだろね」


「そんな……」


 あっさりと口にする園田に、僕はついていけない。そんな中ふと疑問が浮かぶ。


「……園田さんもその計画に加担してるんですか」


 僕からの急な質問に園田は少しだけ驚いた表情を見せるが、あくまで口調は変えずに答える。


「いや、残念ながら違うよ。私の場合、宇宙開発には全く関わっていないからね。私も火星には行けないんだ、君ら同様にね」


「どうして研究に協力しないんですか?自分は助かるっていうのに」


 研究を手伝うだけで救われる立場にありながら、それをせずに僕らと同じだと言う園田に、僕は苛立ちを隠せない。


「私はお偉いさん方に使われるようなことはしたくないんでね。それに……」


 園田はあえて間を置く。


「私は地球が大好きなんだ。だから簡単に捨てるつもりも、諦めることもできない」


 正直、僕は本気で園田の頭はどうかしていると思った。この期に及んで何を言っているのか、理解に苦しむ。


「そんなこと言ったって、いつかは!」


声を荒げた僕に対し、園田は全く冷静さを崩さない。


「ああ、そうだね。"この地球"で暮らすのはもう無理だ」


「この……地球?」


 園田の言葉に引っかかり感じ、そう口にすると、園田はニヤリと笑った。その表情を見て、僕は一つの可能性にたどり着く。


「まさか……!!」


 やっとここまで来たというように、園田はポンと手を叩いた。


 お読み頂きありがとうございます。一日空いてしまいました。今回の内容は1章の中でとても重要な話だと思います。小難しい部分もあるかと思いますが、楽しんで頂ければ幸いです。

 感想・評価などお待ちしていますので、よろしくお願いします。

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