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another  作者: 加藤イノリ
第1章 変わる日常
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1-当たり前の日常



 そう、僕は気づいていた。いつかはこの日が来てしまうことを。


「どうして?ねえ、答えてよ!セン!」


「嘘…だよな?おい、何とか言えよ、兄弟!」


 叫び声が空間に木霊する。今日の二人の声を忘れることはないだろう。でもそれでも―――


 目の前の光に包まれれば最後、もう引き返すことはできない。それでも一歩、また一歩と歩みを進める。


「い…嫌だ!行かないで!!」


 白い光に足を踏み入れる。色彩のない、真っ白な世界。先ほどまで絶えず響いてきた二人の声も、もう聞こえない。耳に入ってくるのは自分の足音だけ。

 

 ああ、僕たちはいつ、どこで道を違えてしまったのだろう。そんなことを考え、そのまま光のトンネルを抜けた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 西暦2450年、世界情勢は安定を保ち、平和と呼べる日々が世界中で続いていた。そんな平和が実現されたのは、何も前向きな理由ではない。今までの歴史がそうだったように、ついこの間までは人類は不毛な争いを繰り返していた。70年前、大国の一つが近隣国の紛争介入を実施したことから戦火が広がり、大国同士の戦いに発展。そこから各国は大国のどちらにつくかを選ぶ必要に迫られ、世界を二分することとなった。2年ほど一定の膠着状態が続いていたが、一発の核が落とされたことにより事態は一変。歴史上初の核戦争の火ぶたが切られてしまった。

 核による影響はすさまじく、世界人口は半分に減少し放射能の影響で自然環境は破壊の一途を辿っていた。そんな状況を変えたのがIFSという世界機関だ。日本に本拠地を設置し、世界中の

それを支えているのは間違いなく科学技術だ。特にここ最近の発展は著しく、おかげで一昔前のような発展途上国は存在しない。

 

 しかし、いくら技術が発展しようと資源が無限に沸いてくるわけではない。それを求める国が増えれば、自ずとその消費も加速する。ただ、現在の予測では向こう2、300年は問題ないとされていて、その頃には他の惑星に移住できるだろう、というのが通説だ。


 僕の名前は高木(たかぎ)セン。星乃瀬(ほしのせ)高校に通う、高校二年生。特に何かの才能があるわけでもない、ごく普通の高校生。学力はそこそこ、部活には所属していない。クラスの中でも目立つ存在ではないし、かといって極端に地味なわけでもない。

 

 だから‟普通‟という言葉が一番しっくりくるし、自分もそれでいいと思っている。ただ当たり前に、平凡な生活が送れればそれだけでいい。


「おっす!相変わらずしけた顔してんなぁー。」


 こいつは清水(しみず)ムツキ。僕の幼稚園からの幼馴染。典型的なお調子者で、僕とは違い、目立ちに目立ちまくっている。これでいて意外に勉強もできるし、スポーツ万能。そのうえ185cmの高身長。これだけ揃えば女子からちやほやされるはずだが、そういった噂はあまり聞かない。


 今は別のクラスだが、少しでも時間が空けば僕のところにやってきて、さっきの調子。


「ムツキが朝から元気すぎるんだよ。はぁー、眠い」


 僕はあくびとともに大きな伸びをする。


「まあな!今日も5時起からの筋トレだったし!」


 そう言ってドヤ顔をするムツキに、僕は心の中で‟どんな生活だよ!‟と突っ込みを入れる。こいつは最近、筋トレにはまっているらしく、二言目には~筋が、などと言っている。全く興味のない僕には、何を言っているかさっぱりだ。


「あーあ、また朝からうるさいのがうちのクラスに。」


「嫌だなぁ、中学からの仲じゃないですか。玲奈ちん!」


「ちょっと!気持ち悪いからその呼び方と喋り方やめて」


 彼女は木藤玲奈(きとうれいな)。玲奈とは中学の時からずっとクラスが一緒で、ひょんなことから仲良くなった。三人とも家が近所で、登下校も基本的に一緒だ。しっかり者の彼女はクラスの委員長を任されている。容姿端麗で学年一の秀才、そして次期生徒会長候補としても名高い。当の本人は立候補するつもりはないらしいが。

 

 そんな感じで、さっきのやり取りも中学の時から見てきた光景。当たり前の日常って感じ。


「なあなあ、それより見たかよ!今日のニュース」


「えっと、火星への最短渡航記録更新ってやつよね?」


 ムツキの話題転換に玲奈がすぐに反応する。実際、このニュースはかなり大々的に取りざたされていたから、まず知らない人はいないだろう。


「そうそう!いやぁ、俺が火星に行く日も近いな!」


「人類初!火星で腕立て伏せをした男!!ってグネス記録に載ることが俺の目標だ」


 ムツキはそう言って腰に手を当て、胸を張る。


「いや、他にもっとやることあるでしょ」


 僕はムツキのあまりにマニアックな発言に、僕は苦笑いしながら突っ込みをいれた。


「なら、お前はまず何するんだよ?」


 当たり前だが、ムツキに素朴な疑問を返された。ああは言ったものの、いざ訊かれてみるとなかなか思いつかない。


「んー……」


「誰かと一緒に写真を撮るとか?」


 我ながら、あまりにつまらなすぎる答えだったかな、と思っていたら案の定、


「やることがちっさいなぁ、セン君よ。うん、‟セン‟スがないな!がははははっ」


 とまあこの調子。「そのギャグセンスはどうなんだよ」とは突っ込まないでおく。今度は面白いギャグを言えなんて言われたら、たまったもんじゃない。

 

 そんなムツキの寒いギャグには一切反応せず、


「私は良いと思うな」

 

 と玲奈が小さく呟いた。


「そうだ!もし一緒に火星に行けたら、その時は二人で写真撮ろうね、セン!」


 そう言って、僕に向かってとびきりの笑顔を見せる玲奈。もちろん断る理由などない。


「そうだね。‟二人で‟一緒に撮ろうか!」


 玲奈の提案に僕も笑顔で返す。


「ん?待て待て、何で今‟二人で”のところ強調したの??俺は?!仲間外れにしないでよーーー」


 僕の言葉の意図に気づき、泣きまねをしながら訴えるムツキ。


「あんたは一人で腕立て伏せでもしてなさい」


 そんなムツキの態度は気にせず、玲奈は容赦のない言葉をぶつける。先ほどに引けを取らない満面の笑みで。玲奈さん?ちょっと怖いですよ?


 そうこうしているうちに結構時間が経ったらしく、始業のチャイムが鳴る。


「やべ、早く戻んないと足立先生に怒られる!」


 それだけ言い残して、ムツキは走って僕らの教室を出ていった。僕と玲奈もそれぞれ自分の席に戻る。それから間もなくして、担任の加地先生がやってきた。


「さあ、ホームルーム始めるぞー。委員長、号令かけて」


 先生からの指示に、玲奈が声を出す。


「起立、礼」



 事態が動き出したのは、それから一か月ほど後のことだった。

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