プロローグ2
「やっぱり友達を作るには何か対策をしなきゃいけないのか?」
羽山に声をかけられてまだ気づいていない彼は未だに呟いていた。
返事が返ってこないと思った羽山はもう一度声をかける。
「ねぇ、君。」
先程より強めに声をかける。周りの生徒はまたざわつく。明らかにギャラリーが増えてきている。が、それよりも気になるのが彼だ。まだ気がついていない。
「対策と言うより作戦だな。」
よほどの馬鹿だ。彼の耳はどうなっているのだろうか。それに気づいた羽山はムキになり、彼の肩を叩く。
「ねぇ、聞いてる?」
「うるさいなぁ。俺は今ね、人生に関わる大切な大切な考え事をしている真っ最中なの!」
と言い返して再びつぶやきだす。
「……ったくもう。今良い案が浮かびそうだったのに……え!?」
彼はようやく自分が声をかけられている事に気がついた。
「え、え!?な、ななな何かな?」
「もう、」
羽山は呆れた顔でそれに返した。
すると、彼女はポケットに手を突っ込み、何かを取り出した。
「はい、これ。」
そして、それを彼に渡し、無言でその場から立ち去った。彼女がいなくなった瞬間、教室はスタジアムの中にいるようにうるさくなった。
「何々!?ラブレター?」
「いや、あの羽山が?ありえないだろ。」
「何かあいつに借りてたんだろ?」
などと、ギャラリー供らが一斉に口にする。
一方、彼は人に声をかけられたと言う事で嬉しさのあまりその問題の物が何か考えてもいなかったが、数分後、それが「手紙」だとわかった。
「なんで羽山が俺なんかに…。あいつと話した事あったっけ?……いや、あるわけない。まず、あまり接点もないし、でも、じゃあ、これは…。」
と呟きながら考えてみたが、答えは出てこなかった。なのでそれを見ることにした。
そこには
《あなたのことが好きです。放課後屋上で、待ってます。 羽山より。》
と書いてあった。
彼は確実にそれを読みとると、何かを確信した。
そう、これは《ラブレター》であると。
放課後。
彼はゆっくりと呼吸を整えながら階段を登る。
階段を一段ずつ上がるたびにコツコツと音が響き渡る。そして、登り切ると目の前に屋上への扉があった。ドクンッドクンッと心臓の音が聞こえてくる。ドキドキしているのが彼自身わかった。そしてドアノブを握り、思い切って扉を開けた。
「ガチャッ。」
するとそこには、誰もいない。
あれ?と自分の目を疑う彼。
「……は?」
と後ろを振り返ったその時だった。
「うふふふ……あはははははっ!」
聞き覚えのある声だった。
まぁ、もちろんその声の主は羽山だった。
「うふふふふ……。」
「……お、おい。」
彼女は笑い続ける。
「あはははははっ。」
「おい!」
彼の暴力的な言葉で彼女の笑い声は途切れる。
「嘘だったのか…。」
「当たり前じゃない。」
彼女は当然のように言う。
「なんのために!なんのためにこんな事したんだよ!俺が陰キャラだからか?俺が寂しいからか?俺が醜からか?」
千切れそうな思いで彼女に問う彼はとても悲しそうに思えた。しかし、その羽山はこう答えた。
「君がどうとかじゃないわよ。君が陰キャラだろうが、変態だろうが、童貞だろうが関係ないわよ。誰でもよかった。つまりは暇つぶし。そんだけ。」
冷たい彼女の言葉の数々に彼はイラだつ。
「ふざけんな!人間としてどうなんだよ!」
「何?そんなに怒ることかしら?」
とても反省しているとは思えない。
「そりゃ、俺とお前だから捉え方が違うんだよ!お前、高校生活なめまくってんだろ?」
「まぁ、それなりにはね」
ふっと鼻で笑い、上から見るようなそぶりをする羽山。すると今度は逆に羽山が彼に質問をする。
「なら、聞くけど、あなたは見たところ友達も居なさそうだし、毎日退屈してるんじゃないの?」
ぐさりと痛いところを疲れる彼。
だが、意外にも彼は冷静であった。
「あぁ、確かに退屈だね。」
「フフっ。だったらそんな事言えないじゃない。」
「確かにそうかもしれない。けど、明日行けば友達が出来るかもしれないって毎晩思うんだよ。ほら、宝くじだって買わないと当たらないだろ?考え方は一緒なんだよ。だから、お前も、こんな事しずに行動しろよ。」
男らしい一面を見せた彼であったが、次の瞬間。
「パンッ!!」
クラッカーの音がした。
羽山の仕業だ。
「合格〜〜。」
と、彼女が言うと彼は察した
「お前、まさか。」
そう、暇つぶしと言っていたが、本当は彼を試していたのだ。つまり、羽山は彼をまた騙したのだ。
「そう、ドッキリ大大成功ってやつね。」
花吹雪を降らせ一人で喜ぶ羽山。
「もちろん、不合格であったなら真実は言わなかったわ。」
「ま、待て、ならもう一度聞くが、なぜ俺なんだ?」
と聞かれたので手を止めキョトンとした顔で言う。
「適当?詳しく言うとクジ。」
「……もう何も言うな。」
がくりと肩を下ろした彼は一気に力が抜けた。
「あ、最後にもう一つ!学校の『多目的1号室』って分かる?」
「あぁ、分かるけど?」
「そこの1番後ろの窓側の席見てね!」
と、羽山は今日1番の笑顔を彼に見せた。
「それじゃ!」
羽山はそう告げると走り去る。
「え?お、おい!」
と、それを追いかける彼。
どんどんと階段を降りていく羽山を必死に追いかける。
「おい!待てって!」
大声で叫ぶが、羽山はなぜか待ってくれない。
「おい……。」
ついに疲れて追うのをやめてしまった。
「おい!!!!!」
そこで目が覚めた。
ピピピッとなり続ける時計のアラーム。
「はぁ。」とため息をつく。
東 一郎 高校一年生。
先程の夢と人格は変わらないが、
羽山という女子高生と出会ったのは夢の中。
つまり、空想だ。
よって、彼はまだ友達0人。