暑い夏の始まり
30分前
鈴ノ音は教室に1番早く着いていた。
と言っても、いつもの事なのだが。
そんな彼女は何やら歌を口ずさみながらカバンから筆箱を取り出す。
「大型バスーに……乗ってます〜♪」
懐かしい歌を口ずさむ彼女はさらにメモ帳も取り出して、何やら書き始めた。
「今日こそは友達作るぞー……。」
『友達を作るには』と1番上に書き、その下から箇条書きでどんどん書いていく。
「うーん。積極的に声をかける…とか。身近な事から話す…とか。声をかけられたら明るく返す…とか。」
次々に浮かぶもそれはすぐに崩れ落ちる。
「…って、そんな事私に出来るかな…?」
そう悩んでいると、教室のドアから次々と生徒たちが登校してくる。
みんな複数人で会話しながら教室に入ってくるので、鈴ノ音はとても羨ましかった。
「…はぁ。…あ!そうだ…。」
何かを思いつき、メモ帳に書く鈴ノ音。
きっとこれだという方法を思いついたのだろう。
「学級委員だ…!学級委員と友達になれば…私も変われる…!」
そう思いついた時にいいタイミングで学級委員の小田桐が登校して来た。
それを確認すると、ひっそりと席を立つ。
ひっそりと言うより普通な感じを出して彼女の席に近づいていく。そして…
「す…すみません…。」
すると、振り向く小田桐。
その声が鈴ノ音と分かった瞬間、彼女の目が変わる。
「あれ?鈴ノ音さん?ど、どうしたの?」
「あ…あのー。そのー。…き…今日はいい天気ですね!」
「………ええ!あの、それだけ?」
そんな事だけを言いに来ただけなのかと少し寂しくなる小田桐。
「いや、あのー…そのー…わ、私と…」
「私と…?」
「と…友達になってもらえませんか!?」
その慌てた鈴ノ音の大きな言葉が、教室中に響く。そして、周りの人々はそちらに向く。
「もちろんよ!これからはたくさんイイコイイコして…じゃなかった。たくさん話そうね!」
と、訂正しつつも明るく返した。
まぁ、小田桐に関してはほぼ、鈴ノ音の小柄な外見に目がいったのだろう。
「あ…ありがとうございます!!あ…あの、…よろしくお願いしますね!小田桐さん。」
あまりの嬉しさに笑みがこぼれる鈴ノ音に、教室中の人々が温かい目で彼女たちを見守っていた。
「ブゥホォォー。」
一方、幼児変態野郎はあまりの嬉しさに鼻血を大量に出してニヘニヘと笑って倒れていた。
「ちょ、ちょっと渚!あんた興奮しすぎよっ!」
周りの女子達が小田桐の元へ駆け寄る。
彼女達はおそらくもう、小田桐の趣味を知っているのだろう。
とまぁ、こんな感じの流れであった。
「それで、あの変態は保健室に?」
一郎が鈴ノ音に聞く。
「そうですね…!」
今の話を聞いた一郎が言う。
「なら、お前はもう大丈夫なんじゃないか?渚に言った時に周りの奴らは温かい目で見ていたんだろ?あとは時間が経てば友達になれるって。」
「そうですね…!」
そんな順調に事が進んでいる時だった。
再び強い風が吹き、視界を遮る。
彼が目を開けると、そこにいた鈴ノ音は長女、スミレに人格が変わっていた。
「よう。久しぶりだな。一郎。」
「昨日ぶりだがな。で?どうして出て来た?あまりにも順調に進んでるから俺に謝りにでも来たのか?」
「フッ。調子に乗るのもその辺にしておけ。出て来たのはお前に話があるからだ。」
とても険悪な空気だが、話は進む。
「話というと?」
「一郎、今回の条件はさすがに私も許す。だが、もう一度条件を新たに提示する。」
「は?ふざけるなよ。これはゲームじゃないんだ!遊びはもう終わりだよ!」
と怒る一郎だが、驚く事にスミレは悲しそうな表情を見せる。
「一郎、私はお前の遥香に対する行動、優しさを心の中で見させてもらった。はっきり言ってあんなに言ってここまで考えてくれたのはお前が初めてだった。だから、私は思った。こんな人だったら、私たちも変えてくれるのではないか、と。」
「別に俺は普通に鈴ノ音の事を思ってやった事だし、友達ができたのも、ほとんど鈴ノ音が自分からした事で何も俺はしちゃいない。」
「だから、春香が自分から声をかけるという変化をお前がしたんだよ。だから頼む。我儘なのもわかってる。遥香だけでなく、私たち四姉妹を変えてくれ!」
スミレの意外な願いが一郎は少し気に食わなかった。
「あんなに態度悪くしておいて、鈴ノ音が変わったのを知って、すぐに掌返すってどうなんだよ。ズルすぎだろーが。」
「じゃあ、あの時、自分の妹を全く知らない奴にホイホイ渡せばよかったのか?姉の立場に立ってみろ。少なからず、私はそんな事はしないね。」
「……そんなの…そんなのズルすぎだよ。」
そう言って、一郎は顔を伏せる。
それを見てスミレも外の方を見る。
「……ったく、で?具体的にどう変えるんだよ。」
そう一郎が言うものでハッとそちらを見るスミレ。とても嬉しそうだがすぐに情けなさが顔に出る。
「具体的には私たち3人の姉の性格を受け入れてくれる友達を作って欲しい。」
「…となると、お前以外の2人の姉も厄介な性格なのか?」
「ああ、次女『真莉』はかなりのドMで、三女『希』はかなりのネガティブ思考だ。」
と聞くとさらに彼の肩が重くなる。
「なんで、そんなにお前ら姉妹はキャラが濃いんだ!まったく。」
いつの間にか、笑顔になっている一朗は彼女に聞く。
「本当に俺に任せていいのか?」
「長女の私が言うんだ。妹たちも許してくれるだろう。」
「後悔するなよ?」
「もちろんだ。」
そう言うと、お馴染みの風が吹き、にっこりしていたスミレは消え、そこには遥香がいた。
「…!?あれ?わたしまた?」
「もう、お前は大変だな。」
「…?」
渡り廊下を日光が照らす。
空を見れば、大きな入道雲。
6月。夏に入って一朗はさらなる試練に望む事になった。
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