表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゾディアック・リドゥ  作者: 鎌里 影鈴
第一章 凡人と微睡みの少女
9/30

第8話 放った考えは空を抜ける

旅行先でも書いてます。鎌里 影鈴です。

急いで書いたせいか、内容がかなり飛んでいます。

それでもよかったら、どうぞ読んでみてください。

 屋台方面の案内がてら軽食を済ませ、景色の良い野原や魚が獲れる川で遊んでいたら、既に太陽が沈みかけている時間になった。


「そろそろ、帰ろうか」

「そーだねぇ」


 バルサが言うと、リュイナは返答し、ミミアは一回頷いた。

 三人は同じペースで歩き、川の流れに沿って進む。

 リュイナとは途中で別れ、二人でゆっくり家に帰る。

 バルサの家に到着する頃には、太陽が完全に沈んで、月と幾千もの星が空に浮かんでいた。


「ふぁ・・・・・・」


 ミミアが小さい口であくびをする。

 バルサが「寝る?」と訊くと、ミミアはこくりと頷き、少しふらふらとした足取りで二階へと向かった。


「ふぅ・・・・・・」


 ミミアが眠りにいった後、バルサは軽く息を吐く。

 ーーこれで、三日目が終了した。

 あと三日。この時間を過ごしたら、ミミアが全てを叶えてくれる。

 バルサがミミアを救いたいという思いも、リュイナが自分をこの国に繋ぎ止めたいという思いも・・・・・・。

 そんなこと、普通だったら不可能だ。

 ミミアを救うーーそれはつまり、この世界に散らばってしまった十二星座の力を集めるということであり、それには旅をするしかない。

 しかしリュイナは、バルサは旅に出てはいけないと言った。

 そんな矛盾を、ミミアは「六日で叶える」と言い切った。

 にわかには信じ難いが、ミミアは天聖界の人間だ。

 バルサの憶測に過ぎないが、きっとミミアには特別な力があるのだろう。

 不可能を可能に導く、常識を覆すような力が。


「だけどやっぱり・・・・・・不安だな」


 バルサはぼそりと呟いた。

 実の所、ミミアはあの発言以降、バルサに複数の要求を出したきり、それらしい行動は取っていないように見えた。

 今日はリュイナの誘いで外に出たが、昨日と一昨日はバルサの家から一歩も出ることはなかった。


「寝室で何かするのかと思ったけど、ただ寝てるだけだし、それに要求もいまいち意図が読めないんだよなぁ」


 そう言った直後、バルサはミミアが出した要求を頭に復唱させる。

 まず最初に、「寝床を貸してほしい」と言われた。

 理由はわからなかったが、取り敢えずこの三日間、ミミアはバルサが使用していたベッドで寝ている。

 次に、「決まった時間に起こしてほしい」と言われる。

 これも真意は不明だが、それ以降バルサはミミアを昼の十二時に起こしている。

 そして最後に、「この国を知りたい」と言った。

 これについては、直ぐ納得した。天聖界から来たのなら幻間界の情報については無知なはずだし、当然といえば当然だ。

 明日には国の歴史について少し話そうと、バルサは思った。

 しかし同時に、本当にミミアが願いを叶えてくれるのか、疑問に思ってしまう。


「まさか眠っただけで願いが叶うとか・・・・・・ないか」


 バルサは脳裏に浮かんだ思考を振り払うと、ソファーに横になり、寝る体勢に入った。

 ミミアに寝室を貸してから、バルサは一階のソファーで寝ることになったのだ。

 これは慣れないなと思ったバルサだが、横になってわずか五分で寝息を立て始めた。




 ミミアのとある発言から、四日目の昼過ぎ。

 家にいる人数が増えたために、食費などの減少が早くなっていることに気付いたバルサは、資金を稼ぎに行った。

 その方法は沢山あるが、バルサは今、近所の家の畑を耕している。


「・・・・・・」


 言葉を一切発することなく、桑を振り下ろす。

 その姿は真剣そのものだが、傍から見ると少し恐い顔をしているのかもしれない。

 黙々と耕起を続けること、一時間。

 辺り一面の畑を耕し終えたバルサは、隣にある家の壁に桑を立て掛けてその家に入った。

 家の中には、片足に包帯を巻いた一人の男性がいた。


「おじさん。農作業終わりましたよ」

「おおそうか。悪いねぇ、手伝ってもらって」

「いえ、もう仕事みたいなものですから」

「そうだな。じゃあこれ、今日の給料」

「ありがとうございます」


 バルサは丁寧にお礼を述べると、銀貨七枚を男性からもらい、家を後にした。

 普通仕事というのは、この国では一般的に二十歳から行うのが義務である。

 しかし小さな村や町では、国の管理が比較的薄いため、二十歳以下の人間でも働くことはよくある話だ。

 特にバルサのような事情を持った人間は、そうしないと生きていけない可能性が高い。


「・・・・・・」


 微かな感情が、脳裏を掠めては消えていく。

 バルサは貰ったお金を袋にしまうと、次に予定した手伝いの場所へと向かった。




 住人の手伝いから数時間後、バルサは自分の家に帰った。

 扉を開け、「ただいま」と言う。

 この家には、バルサ一人しか住んでいない。たまにリュイナが勝手に上がり込んでいることもあるが、今はそれもない。

 しかしーー二階からとんとんと階段を降りる音が聞こえ、やがて眠たげな表情をしたミミアが顔を出した。


「おかえり、なさい」


 ミミアが一度区切って、言葉を返す。


「ただいま、ミミアさん。よく眠れた?」


 問うと、ミミアは首を縦に倒す。

 バルサは微笑しつつも椅子に腰掛け、ミミアはその向かい側の椅子に座る。


「さて、今日は何かしたいことはある?」

「・・・・・・うん」


 ミミアは言うと、懐から大きめの首飾りを取り出した。


「これは、『辰星の器』だよね?」

「うん。あなたには、星を集める役目、を、受けてもらう、から・・・・・・これについて、説明、する」


 と。ミミアは呼吸を整えてから、言葉を続ける。


「『辰星の器』には、十二の星の力を宝石にして、星のエネルギーを抑える、力が、ある」

「そうなのか」


 バルサが相づちを打つと、ミミアは途切れ途切れな口調で話した。

 ・・・・・・失礼かもしれないが、その言葉があまりに小さく聞き取りにくかったため、バルサなりに要約してみた。

 黄道十二星座の力は、結晶化した状態で『辰星の器』に埋め込まれていたらしい。

 しかし幻間界に散々に落ちてしまった現在、星の力が結晶の姿でいる確率は低いという。

 星の力は未知の存在に等しいものなので、星導の一族の末裔であるミミアにも、どの大陸に星の力がどのような形態で静寂しているのかわからないそうだ。

 そこで、幻間界の大陸に旅をして手当たり次第探す方法を実行に移そうとしたミミアは、一人では困難と思いバルサを選定した。

 ーーと。こんなところだろうか。

 バルサは頭の中で話を整理し終えると、ミミアの方に視線を戻す。


「大体はわかったよ。ありがとう、ミミアさん」

「うん・・・・・・」


 バルサは礼を言うと、今後の計画を構成するために思考を巡らせる。

 その時、ミミアが口を動かした。


「あの・・・・・・一つ、聞いていい?」

「ん? いいよ」

「私が初めて、ここに来た時、私の『シエル・・・・・・乗り物に、何か、くっついてなかった?」

「何か・・・・・・?」

「紫の、鎧人形・・・・・・みたいなの」


 ミミアがじっと見つめながら訊いてくる。

 バルサは四日前の記憶を探って、単語に組み合わせた。

 乗り物・・・・・・紫の鎧人形・・・・・・。


「ーーごめん。記憶に無いや(・・・・・・)


 バルサは暫しの時間を有して、そう言った。




 町で唯一の戦士であるライオは、町の平和を守るため日々の特訓を欠かしたことはない。

 今日も自分の家裏で、木製の剣を握り締め素振りを行っていた。

 集中し、頭の中で目の前に人を映し出す。


「はあっ!」


 気迫と同時に一歩前に踏み込んで縦に一閃。手首を返してまた一閃。

 相手の左肩、腹部、下腿、頸部。あらゆる箇所を切り付ける。

 ライオが想像した人間は、血を吹き出しながら崩れ落ちた。


「ふぅ・・・・・・」


 閉じた瞼を開け、外を目視する。当然、目の前には誰もいない。

 ライオは剣を下げーーふと気配がしたので正眼に構える。


「いやはや、実にいい動きだねぇ」


 気配を感じた方向から、ヘートルが揺れる柳のように現れた。


「貴様か。何か用か」

「んいやぁ別に、ちょいとばかしライオの動きを拝見しただけですよ」

「・・・・・・それに何の意味がある」


 問いただすと、ヘートルはへらへらした表情で答える。


「そりゃありまっせ。観察は相手を知る一番の行為。それは身近にいる人物にも、同じことがいえる」

「ふん。なら、お前も戦えばいいじゃねぇか」

「ははっ、冗談を」


 ライオが切り捨てるように言うと、ヘートルは自嘲する道化師の如く笑った。


「俺はただのしがない調査員。剣なんて持ったら、一瞬でおだぶつよ」


  ◆ ◆ ◆


 ミミアが居候のような形でバルサの家に住み始めてから、バルサの生活は楽しいものになっていた。

 食事に使う費用が二倍になったりベッドで眠れない日々が続いたりと気苦労はあったが、リュイナや自分とのやり取りはとても新鮮だった。


 バルサがミミアと出会ってからーー六日目。

 その日の夜空は、数々の星が綺麗に浮かんでいた。

 バルサは一人、屋根上でそれを眺めている。

 明日のことを頭に膨らませながら。


「ふぅ・・・・・・」


 また一つ、幾度目なのか忘れてしまった軽い息を吐く。

 と。その時、下からとんとんと音が聴こえてきた。


「ん・・・・・・?」


 耳を傾けるとそれは次第に大きくなり、音の主が屋根の端からひょっこりと顔を出す。

 その主はーー予想内だがミミアだった。


「ミミアさん。どうしたの?」

「一緒に、見たい・・・・・・」


 ミミアは言うと、屋根によじ登りーー立ち上がったところでバランスを崩してしまう。


「っ! 危ない!」


 バルサは反射的に手を伸ばし、ミミアの腕を掴んで身を引き寄せた。

「大丈夫?」と訊いたバルサは、ミミアがゆっくり頷く様子を見て、安堵の息を吐く。

 が、引き寄せた際体に柔らかいものが触れたため、バルサは顔を赤らめて視線をそらしてしまう。

 バルサは思念を振り払うと、ミミアと横に並んで星空を眺めた。


「・・・・・・明日」


 それから数分後、隣にいるミミアが口を開いた。


「明日、あなたには私を・・・・・・救って、もらう」

「うん。そのつもりだけど・・・・・・」


 バルサは肯定するも、途中で言葉を窮してしまう。

 その理由に気付いたミミアは、バルサの方をじっと見て言う。


「大丈、夫。私が、皆の願いを・・・・・・叶える」

「ーーそれってもしかして、ミミアさんの能力で?」

「うん。私の力、使えば、納得する方向にいく」


 ミミアは抑揚のない声で、そう呟いた。

 淡々に接しているような様子は微塵もない。強い決意と、覚悟が瞳から見えている。


 しかしーー


「ミミアさん。無理、してない?」


 バルサは心配をするように問いただした。

 それを聞いたミミアは、不思議そうに首を傾げる。


「確証は全然ないんだけど、僕はミミアさんが、どこか辛そうにしているように見えたんだ」

「・・・・・・」

「ミミアさんが『全て叶える』って言った後、僕は生じた矛盾をどうともしようとしなかった」


 バルサは慎重かつ、力強く話した。


「もし、それがミミアさんにとって重みになってしまったのならーーごめん」


 屋根の上で、やや不自然な体勢で頭を下げる。


「! ・・・・・・!」


 それを見たミミアは、瞳に動揺を走らせた。

 バルサは下を向いたままなのでそれに気付かず、ずらずらと謝罪の言葉を述べている。


「今まで何もしてあげられなくて本当に申し訳ありませんでした。どうぞ僕をどうとでもしてくーー」

「待って」


 と。ミミアがバルサの頬を両手で押さえた。バルサの動きっぱなしの口が強制停止される。


「私は、重みなんて・・・・・・感じて、ない」

「え・・・・・・そうなの?」


 ミミアは頷くとゆっくりと体を動かし、背筋をぴんと伸ばして屋根上に立った。


「私は、自分の意思で、あなたを選んだ。自分の意思で、叶えると言った・・・・・・責任は、果たす」


 夜空を見上げて、静かな口調でーーそう、告げた。


「だから、無理はしてない。その考え、は、勘違い」

「わ、わかったよミミアさん。でも・・・・・・」

「もし、気にするなら・・・・・・一つ、要求」


 ミミアはバルサを見下げると、小さく口を開く。


「私に、さんを付けるの、禁止」

「・・・・・・それで、いいの?」


 ミミアが首を前に倒し、肯定の意を示す。

 バルサはその意を受け止めると、立ち上がってミミアと目を合わせた。


「わかったよーーミミア」


 きっと周囲の人から見れば、このような言葉の掛け合いは、大したことではないのだろう。

 しかしバルサにとっては、守りたい人と少しでも打ち解けられた、大切な時間だった。















如何だったでしょうか。

展開が少し遅いと感じた結果がこれです。

一章の物語は、予定では二十三話ほど書こうと思います。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ