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ゾディアック・リドゥ  作者: 鎌里 影鈴
第一章 凡人と微睡みの少女
8/30

第7話 三日目の昼過ぎ

眠い。そう、眠い。鎌里 影鈴です。

本当ならもう少し早めに投稿出来ればよかったのですが、尺が短いと思い始めてしまい、時間が掛かってしまいました。

こんな作品を読んで頂けたら、幸いです。


 バルサがリュイナに独特な癒しを与えた、その数分後。

 バルサの家にいるバルサ、リュイナ、ミミアの三人は、同じテーブルを囲んでお茶を啜っていた。

 俗にいう、アフタヌーンティーである。


「いやぁ、本当に驚いたよ」


 と。リュイナが口を開く。


「まさかバルサ君から、密着度七○の『ぽんぽんハグ』をやってくれるなんて」

「あれ、名前あったんだ・・・・・・」


 リュイナには知り合ってから今まで、数々のスキンシップを仕掛けられたが、名前があるのは初耳だ。


「それで、調子の方は?」

「うん! バルサパワー注入したから、元気一二○倍だよ!」


 リュイナはいきなり立ち上がると、両肘を曲げた腕を上げてポーズを取りながら、笑顔を見せた。

 背後からキラキラした空気が伝わる、いつも通りの笑みだ。


「そっか・・・・・・」


 バルサは慈しむような眼差しで、その笑顔を見た。

 今、リュイナから落ち込んでいた理由を訊けば、きっと喋ってくれるだろう。

 しかし、感情の起伏が激しい彼女がそれをすれば、再び瞳を曇らせる結果となってしまう。

 理由は訊かず、暗いことは忘れてしまおう。そう思った。


「そうだ! 私、今日はミミアちゃんにプレゼントを挙げるつもりだったんだ!」


 リュイナはそう言うと、持ってきた鞄から何かを取り出した。


「・・・・・・私、に?」

「うん! 気に入ってくれるといいんだけど・・・・・・」


 リュイナは手に持ったものを差し出し、ミミアがそれを受け取る。

 綺麗に畳まれた、亜麻色の布地でできたもの。これは・・・・・・


「服・・・・・・?」


 ミミアが、小さな声で呟く。

 そう。それは草の大陸ソラスン特有の、生活用衣服だった。


「ミミアちゃんが着てたドレス、洗濯してもう乾いたんだけど、長袖で暑そうだったから・・・・・・半袖があったらいいかなと思って作ってみたけどーーどうかな?」

「あ、ありが・・・・・・とう。うれ、しい・・・・・・です」


 ミミアは少し身を縮めて、消え入りそうな声で言う。

 表情は動かないが、心なしか嬉しそうに見えた。


「せっかくだから、今着てみちゃおう。ミミアちゃん、あっちで着替えよっか」


 言うが速いか、リュイナはミミアの背を押して勝手に二階に行った。

 今日はこれといった予定がないバルサは、二人が降りてくるのを待つことにした。

 静寂した空間が、無意識に記憶を振り返させる。


「もう四日なのか・・・・・・」


 バルサは一人、何の理由も無しに椅子に背を預けて、天井を見た。

 空から青い物体に乗ってやって来た、天聖界の人間ミミア。

 ミミアの身に何があったのかは、一度テレパシーを介したバルサにも、詳しいことはわからない。

 ただ出会ってから四日。少しだが、バルサはミミアを知ることが出来た。

 ミミアは、表情を崩さない人だということ。

 無表情でも、瞳に感情が表れやすいこと。

 常にぼうっとしていても、何故か寝起きは良いこと。

 喋るのが苦手でも、声を出そうと努力していること。

 たったこれだけの情報で判断してしまうのは、些か自分は単純だなと思ってしまうが、バルサはこう感じた。

 ミミアという少女はーーとても素直な人だと・・・・・・。


「バルサくーん。ミミアちゃん、着替え終わったよ」


 その時、二階からリュイナの声が聞こえたかと思った直後、ぱたぱたと階段を降りる音が聞こえ、リュイナと、リュイナに手を握られているミミアが出てきた。当然、ミミアは新しい服を着ている。

 ソラスンの生活用衣装は基本的に地味な印象なのだが、手作りだけあって、所々違う部分があった。

 形はワンピースタイプで、色は亜麻色の他に黄色や橙色などが配色され、全体に明るさが増している。

 スカートは膝よりやや高めの位置にあり、半袖なため、ドレスや寝間着の時には見えなかった細くて白い腕や足が露出している。

 落ち着いた雰囲気の彼女に、華やかさと魅力がプラスされ、若々しさを強調させる格好になっていた。


「・・・・・・どう、でしょうか」


 ミミアが、いつもより少しぎこちない口調で言った。


「ほらほらバルサ君。感想感想」

「うん。可愛くて、よく似合ってると思うよ」


 若干肌が見えすぎな気がするが、可愛くて似合っていることは紛れもない事実なので、率直にそう答える。


「・・・・・・!」


 するとミミアは肩をピクッと揺らし、頬を少しだけ染めて、


「あ、あり・・・・・・が・・・・・・」


 誰にも聞こえないような声音で、口をもごもごと動かした。

 それが恥じらっている様子に見えてしまい、バルサは少し顔が熱くなる。


「んー・・・・・・」


 と。リュイナが突如、ミミアの周りをぐるぐると回りだす。

 それを二回ほど繰り返すと、リュイナは足を止め、正面からミミアを観察するかのように凝視した。


「ミミアちゃんって、十五歳だよね?」

「? ・・・・・・うん」


 ミミアが頷くと、リュイナは再びミミアを正面から、特に胸の部分を執拗に眺めた。


「ミミアちゃん。ちょっと失礼して・・・・・・いい?」

「・・・・・・?」


 ミミアはリュイナの言葉に首を傾げていると、リュイナはミミアの応答を聞かずにーー自分の顔をミミアの胸に押し当てた。

 押し付けられた胸が、ぐにゃりと形を変える。

 その光景に、バルサは思わず息を呑んでしまう。


「ーーって、何やってるの!?」


 バルサは叫びを上げると同時に、ミミアにくっついたリュイナを強引に引き離した。


「バルサ君。ミミアちゃん最高」

「いきなりどうしたの!?」


 意味不明なことを言ったリュイナに、バルサは反射的にツッコミを入れてしまう。


「あの包み込まれるような柔らかさと例え難い弾力、まさに包容の極み・・・・・・」

「リュ、リュイナ?」

「ああ! 今日をくれた神様に、ほんと感謝ですっ!!」


 リュイナは恍惚とした表情で、個性溢れる評論家か、宗教の開拓者みたいなことを言った。


「リュイナ。目を覚まして」

「・・・・・・はっ」


 バルサが肩を思い切り揺らすと、リュイナは正気に戻った。


「いやーいい気持ちだったよ・・・・・・」

「ミミアさん困るから、もうやっちゃ駄目だよ」

「バルサ君が『至高の抱き枕』なら、ミミアちゃんは『幸運を呼ぶ敷栲』だね」

「ねえ聞いてた!?」


 バルサの悲鳴に近い声が、居間全体に響き渡った。


「そうだ! せっかくだからさ、ミミアちゃんに町を案内しようよ」


 と。リュイナが突然、町の案内を提案する。


「僕はいいけど、ミミアさんは?」

「大丈、夫」


 バルサが訊くと、ミミアはこくりと首を前に倒した。


「よし! じゃあ早速ーー」

「待った。まずどこから案内するの?」


 そう言うと、リュイナは顎に手を当てて考えた。


「じゃあ、あそこにしよう」




 草の大陸ソラスンの領土は、約六割が森林地帯となっている。

 そのため、家具や建築などはほとんど木製だ。

 バルサ達が住む町サルファは大陸の辺境にあり、中枢都市に比べて周囲にある森が多数ある。

 サルファの住人はその森を最大限に活用するために、木材であらゆる物を作成したり、一部の森林地帯で小型の住居を森の木に設置したりしている。

 バルサ達は今、住居指定区域の森にある道を歩いていた。

 暫く進むと、一際大きな木が見える。

 住居設置用に管理された、ある意味特別な大樹だ。


「あそこにあるのが、私のお家だよ」


 リュイナは大樹の左側辺りを指さして言った。

 最初に案内する場所は、リュイナの家だ。


「ミミアちゃんに家の中見せたいからさ、付いてきて」


 そう言うと、リュイナは小走りで大樹の方に向かった。

 バルサもその後ろを付いていこうと走り出した。


「ん?」


 しかし、途中で足を止める。

 後ろにいたミミアが、バルサの服を軽く引っ張ってきた。


「どうしたの? ミミアさん」

「・・・・・・・・・・・・」


 ミミアは無言で、バルサの顔をじっと見つめる。

 その瞳からは、微かな疲労が見えた。


「・・・・・・ああ」


 バルサは納得したような声を出すと、服を引っ張るミミアの手を握る。

 バルサの家から大樹の前まで距離は、歩くと十分ほど掛かった。

 これくらいの距離は、バルサとリュイナは普段から歩いているので、体力はあまり消耗していない。

 しかし、ミミアはほとんど寝たきりの状態だったため、疲労を人一倍感じやすいのは目に見えた。

 このままリュイナのペースに合わせたら、きっとミミアは瞬く間に疲労困憊状態になってしまうだろう。


「疲れるから、ゆっくり歩こう」


 バルサはそう言うと、ミミアの手を引いて歩き出した。

 柔らかい手の感触が、直に伝わる。

 女の子の手を握るのは別段初めてではないが、意識するとつい気恥ずかしくなるのは否めない。

 色々と考えている内に、バルサとミミアは大樹の前に着いた。

 走って三十秒くらいの距離を、二人は五分掛けて歩いた。


「もう! 二人とも遅いよおー」


 先に走って行ってしまったリュイナの声が、上から聞こえた。どうやら、もうすでに自分の家の中にいるらしい。


「僕達も行こう。ミミアさん」

「・・・・・・どうやっ、て?」


 ミミアが、困惑気味の色を浮かべて尋ねる。

 ーーまあ、それもそうだろう。

 住居指定区域にあるこの大樹は、とても大きく、とても長い。

 そのため、幹の中にも複数部屋があり、大抵の人はそこに住む。

 しかしリュイナの家は、大樹に生えた枝の先にある。

 高さからして二○○メートルくらいある場所に位置する家に、どうやって行くのかは、確かに疑問になるだろう。


「ミミアさん。ちょっとごめんね」

「ひゃ・・・・・・」


 バルサは一言いうと、ミミアの肩と脚を腕で支えて、ミミアを抱きかかえた。


「『業術』ーー開放」


 そして短く言うと、膝を曲げて足に力を入れ、跳躍した。

 一気に大樹の枝に到達し、瞬く間にリュイナの家の扉の前に移動した。


「すごい・・・・・・」


 一瞬の出来事に目を点にしたミミアは、声を漏らすように呟いた。

 バルサはミミアを降ろすと、扉をノックしてからリュイナの家に入った。


「いらっしゃーい、こっちこっち」


 待ち構えていたリュイナが、バルサとミミアを招く。

 二人は誘われるがまま、歩みを進める。

 テーブル一つに椅子が一つ。バルサの家のやつより小さい調理台に戸棚。

 小さいながらも、生活感があるきちんとした部屋だ。

 そのまま階段を上がり、屋根裏に足を運ぶ。

 本棚とベッドが一つずつある。ここがリュイナの寝室だ。


「ミミアちゃん、こっちに来て」


 窓の前にいるリュイナが、ミミアを誘う。

 ミミアが近寄ると、リュイナは窓を開けた。


「・・・・・・!」


 そこから見えたのは、どこまでも広がる空の青と、辺り一面を覆う草木の緑。

 無駄のない、純粋に美しい風景がそこにあった。


「すごいでしょ? この景色」


 リュイナの言葉に、ミミアは首を縦に振った。

 それを見て、リュイナはふふんと鼻を鳴らす。

 バルサも思わず、その風景に目を奪われてしまった。

 窓という限られた空間から見える、限りのない世界。

 それはまるで、汚れのない平穏そのもののようだった。

 嗚呼、これはーー


「バルサ君?」


 リュイナに話し掛けられ、バルサはふと我に帰る。


「ごめん。少しぼーっとしてた」

「ううん、いいよ別に。それより私お腹すいちゃったからさ、次お店の方行こうよ」

「そうだね。じゃあ、行こうか」


 窓を閉め、バルサ達は階段を降り、家を後にした。


  ◆ ◆ ◆


 飛来物体が衝突した南東の山。

 山の表面にあった森林はほとんど薙ぎ倒され、衝突の際には物体を中心に巨大なクレーターが山の地面をくりぬいた。

 その被害は、今も痛々しく残っている。

 そんな中を、ライオは木の残骸を踏み越えて進んだ。


「・・・・・・ったく、酷い有り様だな」


 ライオは吐き捨てるように言い、ひたすら歩く。

 すると、クレーターとそれを作り出した物体が見えた。

 ライオはクレーターの斜面を滑るように駆け降りると、物体の近くで足を止める。

 太陽に照らされて青い表面が輝くそれを、ライオは睨むように見上げた。

 そしてその場から一歩下がると、腰に携えた剣を引き抜く。


「こいつがやったのか・・・・・・」


 ライオは言うと、剣を構え、物体に一閃を叩き込む。

 しかし、物体の表面には傷が付かない。


「っ! まだだ!」


 ライオは一瞬息を詰まらせるが、直ぐに力を入れると、剣を横に薙ぐ。持ち手を変え、今度は斜めに一閃。

 連続の斬撃が、地の砂を巻き上げた。

 剣と物体が、金属音に似た音を響かせる。

 ミミアという少女はこの物体を乗り物と称していたが、こんなもの、ライオにとっては町に騒ぎを起こしたただの災厄に過ぎない。

 目の前に災厄があるなら、ライオのやることは一つ。


「おおおおおおおおっ!」


 町の平和のためにーー叩き潰す。

 ライオは更に力を込め、渾身の一撃を繰り出した。

 縦に入れた一閃が、辺りの空気を震わす。


「はあ・・・・・・はあ・・・・・・」


 ライオは攻撃の手を止めると、数歩後ろに下がる。

 この物体が乗り物なら、鋼の剣で与えた斬撃に耐えられる訳がない。

 最初の攻撃にびくともしないのは少し驚いたが、これほどの連続攻撃を浴びせれば、外壁はただでは済まないだろう。

 砂埃が晴れ、物体の姿が鮮明に映る。

 ーーしかし、


「な・・・・・・っ」


 物体の青い表面には、傷が一つも付いていなかった。


「くそっ、ならーー」

「辞めときな。ライオ」


 ライオが剣を振り上げた時、後ろから行動を制止する声が聞こえた。

 声のした方を向くと、ライオは低い声音で視界に映った人物の名前を言う。


「ヘートル・・・・・・何しに来た」

「まあそう恐い顔すんなって」


 ヘートルは飄々とした声で言うと、クレーターの中に入りライオの前に立った。


「ただちょっと、忠告をしようとね」

「忠告だと・・・・・・」

「一つだけだからよおく聞いとけーーお前では、この物体を破壊することは出来ない」

「ッ! なんだと!」


 直後、ライオはヘートルの胸ぐらに掴みかかった。

 ヘートルは動じず、獣のように歯を剥き出しするライオを宥めた。


「まあ落ち着け、お前も今のでわかっただろ。あの乗り物は、明らかに鋼以上の硬度を持っている。普通の剣では傷を付けることすら不可能だ」

「そんなことはない! 俺の能力を使えば、こんなものーー」

「それによ、さっき町長が言ったんだ。この乗り物は、傷付けることも、動かすことも禁ずるって」

「・・・・・・!」


 それを聞いて、ライオははっと肩を揺らす。


「ちっ・・・・・・」


 そして舌打ちをしてから、ヘートルの胸ぐらを離す。


「町長の命令なら、仕方がない・・・・・・」

「お前なら、そう言うと思ったよ」


 ヘートルはへらへらと笑いながら、ライオは苛立ちを全身に表しながらその場を離れた。














































個人的には尺をもっと長くしたいので、文の長さはこのくらいにしようと思います。

時間は掛かりますが、ご了承ください。

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