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ゾディアック・リドゥ  作者: 鎌里 影鈴
第一章 凡人と微睡みの少女
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第6話 リュイナの特効薬

エアコンの風と梨でお腹を壊しました。鎌里 影鈴です。

今回の話は、物語の繋ぎのような役割を果たしております。

興味のある方は、読んでください。

よろしくお願いします。

 ミミアが「六日経てば全て叶う」と言った、その三日後。

 バルサは鞄を片手に市場を歩いていた。

 その理由は勿論、買い物だ。


「あ、あった」


 バルサはふと足を止める。目の前には、鳥や豚や牛などの生肉が並べられた屋台がある。


「すいません。豚肉ください」

「あいよ!」


 肉屋の店長が景気のいい声を上げ、暫くして葉で包まれた豚肉が出てくる。

 バルサは代金を支払うと、豚肉を鞄に入れて再び歩き出す。


「後は野菜と牛乳かな」


 呟くように言ったバルサは、歩くスピードを少し速めた。



 それから数十分後、バルサは自分の家に帰っていた。

 扉を開けると、見慣れた部屋が視界に映る。

 バルサはキッチンへ向かうと、そこに市場で買った食材が入った鞄を置き、水道で手を洗い、昼食の準備を行う。

 鍋に水を入れて、釜戸に設置して火を付ける。

 豚肉と各種野菜を適度な大きさに切り分け、沸騰した湯に投入。

 さらに牛乳を入れ、塩と胡椒で味付けし煮込む。

 充分煮込んだら、料理の完成だ。


「……よし、出来た」


 バルサはふと、時計を確認する。時刻は十二時だ。

 それを認識した後、バルサは階段を上って二階にある寝室へと向かう。

 寝室の扉の前に立ち、不必要かもしれないがノックをしてから部屋に入る。

 寝室の間取りはいつもと変わりはない。――ベッドで寝ているミミアを除けば、だが。


「ミミアさん。起きる時間になりましたよ」


 バルサはミミアの肩を揺すった。


「……ん」


 するとミミアは目を開け、直ぐ上半身を起こした。

 寝起きの良さは、文句無しの満点だ。


「おはよう。ミミアさん」

「……おはよう」


 昼間におはようは些か変だと思うが、起床時の挨拶としては無難だろう。ミミアも静かに返してくれた。


「昼食の用意が出来たから、下で食べよう」

「……」


 ミミアはこくんと頷くと、靴を履いて立ち上がった。

 因みにミミアはベッドで寝ていたため、装いはドレスではなく寝間着姿だ。

 大人びた印象の黒ドレスと違い白を基調としたそれは、ドレス時に神秘性を感じさせたおっとりとした表情が相まって、ミミアにふわふわした可愛らしい印象を与えていた。

 二人は階段を降りて居間に向かうと、ミミアは椅子に腰掛け、バルサは料理を皿に盛り付け、テーブルに運んだ。

 その料理を、ミミアは不思議そうに見た。


「これ、は……?」

「これは『ナグー』って料理だよ。煮詰めた牛乳に、肉と野菜を煮込んだ料理だね。はいスプーン」


 ミミアはバルサからスプーンを受け取ると、目の前に置かれたナグーを矯めつ眇めつ見ると、スプーンで中身をすくい、口に運ぶ。


「どう、おいしい?」


 バルサが訊くと、ミミアが口を開け――しかし閉じる。そして何か思い付いたように肩を揺らすと、スプーンを持っていない方の手でサムズアップを出した。


「良かった……」


 バルサはそれを良好の意味と捉えてほっと息を吐く。

 どうやら、無表情で気持ちが上手く伝えられない彼女もちゃんと努力はしているらしい。

 バルサは感慨深さを感じながら、料理を口に運んだ。



  ◆ ◆ ◆



「…………」


 バルサが住む二階建て木造建築。

 そこから数メートル離れた場所に、リュイナがいた。

 しかしリュイナはバルサの家に向かおうとせず、何かを躊躇っているかのように立ち止まる。

 いつものリュイナなら、バルサの都合関係なしに家に押し掛けていただろう。事実、今日もそうするつもりだった。

 しかし今、バルサの家には、バルサ以外の人がいる。しかも女の子だ。


「――どうかしたのかい?」

「はわっ!?」


 リュイナは突然声を掛けられて思わず驚きの声を上げるが、直ぐに落ち着いて声を掛けた相手を目視する。


「ヘ、ヘートルさん……こんにちは」

「ああ、こんにちは」


 リュイナがぺこりとお辞儀をすると、ヘートルは優々と返す。


「もう一度聞くけど、どうかしたのかい?」

「いえ別に、何でもないです」


 そう言いつつもリュイナは顔を俯かせ、ちらちらとバルサの家の方を見ている。


「その様子だと、バルサに用があるみたいだね」

「は、はい。そうなのですが……」

「何か、躊躇っているねぇ」

「……はい」


 リュイナはそのまま下を向いた。それは、明らかに悩んでいる様子だった。


「良かったら、俺に話してくれないか。その悩み」

「え、で、でも……」

「俺は人間だから、君の数十分の一しか生きていない。だが、相談に乗って励ますくらいなら、出来るはずだ」

「……!」


 リュイナは顔を上げ、再び俯き――やがて、独り言を呟くかのように話し出す。


「バルサ君は、星の力を集める役目を受けました」

「そうだねぇ」

「バルサ君は嘘がつけないから、ミミアちゃんのテレパシーも、世界の危機も、全部本当のことなのでしょう。でも――」


 リュイナは一旦言葉を止めると、頭上に広がる空を見上げた。


「星の力を集めるには、旅をする必要があります……私は、バルサ君を旅に出させたくないんです」

「それは、どうしてだい?」

「バルサ君は優しくて、とても頼りになります。でもバルサ君は、忘れてしまっている。自分が緑に愛されていることも、大地に希望をもたらしていることも……全部」


 リュイナは三度顔を俯かせると、瞳を曇らせて表情を更に暗くする。

 そこで、ヘートルがリュイナの頭をぽんぽんと優しく叩いた。


「大丈夫だよ。リュイナ」


 そして、にこやかに微笑んでから、話を続ける。


「確かにバルサは優しさを持った勇気ある子だ。しかしあいつには、周りのもの全てに打ち解ける親和性が足らない。それをリュイナ――君が教えるんだ」

「私、が……」

「そうだ。全部話す必要はない。少しずつでいいから、バルサに自分自身の存在と大切さを、理解させてやってくれ」


ヘートルが言い終えると、リュイナはどこか煮え切らない表情をし、


「……わかり、ました。頑張ってみます」


 そのまま、バルサの家の方へ小走りで向かって行った。

 ヘートルはその背中を見送りながら、帽子を被り直す。


「あの様子だと、どうやら失敗かねぇ……」


 後頭部をぽりぽりかくと、ヘートルは存外深く息を吐いた。



「……ごちそう、さま、です」

「お粗末さまでした」


 食事を終えたバルサは、二人分の食器をカチャカチャと音をたてながら片付けを始めていた。

 その時、扉からノックの音が聞こえる。


「ん? はーい」


 バルサは片付けの手を止めると、扉の方に向かいそれを開ける。

 そこにいたのは、バルサの友達である少女、リュイナだった。


「こんにちは。バルサ君」

「こ、こんにちは。リュイナ」


 バルサは若干戸惑いを感じながら、挨拶を返す。

 それはそうだ。元気が取り柄なはずのリュイナの顔を見た瞬間、微量の曇りが見えたからだ。


「あ、ミミアちゃん。起きてたんだ」


 リュイナはそう言うと、バルサにしたのと同じように挨拶をした。

 しかしその言葉に、いつも溢れるような明るみが感じられない。

 それは付き合いが浅いミミアも感じたのだろう。首を傾け、不思議そうにリュイナを見ている。

 バルサは思い切って訊ねてみることにした。


「リュイナ。何かあった?」

「え? 何もないけど」

「じゃあ、具合は? 熱はない?」

「うん。平気だよ」


 言って、リュイナは笑ってみせた。

 しかしその笑みも、満面のそれにはほど遠く、覇気がない。

 恐らく、何かあったのは間違いないだろう。だがそれを本人から聞くのは、多分難しそうだ。

 バルサは思考を巡らせ、そしてある考えに行き着く。


「もしかしてリュイナ……ストレス?」

「え?」


 リュイナはバルサの言葉に、顔をきょとんとさせた。

 図星かどうかはわからないが、少なくとも疲れてはいるようだ。

 疲れているのなら、やることは一つ――癒しだ。

 バルサは何も言わず、リュイナを抱き寄せた。


「バルサ、君……?」


 リュイナは呆けていたが、自分がされていることを理解したのだろう。顔が急速に真っ赤になる。


「ば、ばばばバルサ君!?」

「よしよし」


 バルサは子供を安心させるかのように、リュイナの背中の上辺りをそっと擦った。

 これが癒しになるのかはいささか疑問だが、リュイナは撫でられる等のスキンシップは好きなのだ。それは、昔も今も変わっていない。


「ん……ふぅ」


 バルサが背中を擦り続けると、リュイナの口から吐息が漏れる。

 しかし、少し力んでいる。まだ完璧なリラックス状態になっていないのだろう。

 更に癒しを与えるには、リュイナが望むスキンシップが必要だ。そしてリュイナと長い付き合いをしているバルサは、リュイナが望む行為を知っている。

 後は、バルサ自身にそれが出来るかどうかだ。

 何歳になっても相変わらず過度なスキンシップは慣れないが、それでリュイナの心の曇りが取り除けるなら、バルサは多少の身の削りも受け入れるだろう。


「今日だけだからね……?」


 バルサはリュイナの耳元でささやくように言うと、背中を擦っていた手をリュイナの頭に移動させ、優しく撫でる。

 そして顔を赤らめながらも、先ほどよりも強く体を抱き締め、バルサはリュイナと体を密着させた。


「……!」


 リュイナは首から上を更に赤く染め、目を大きく開いた。

 それもそうだろう。過度なスキンシップをバルサからやるのは、これが初めてなのだから。

 鼓動が速くなる心臓の音がより一層聴こえ、体が火照る。

 頭がくらくらして、段々と意識が薄くなってしまう。



 どれくらい経っただろうか。

 バルサはリュイナから体を離すと、へなへなと流れるように後ろに倒れる。

 一方リュイナは、頭から煙を噴き出したまま直立不動していた。

 その状態のまま、時が流れる。


「え、えっと……その……」


 と。リュイナが震えた声を出し始め、そして――


「取り敢えず……ごちそうさまでした」


 顔を俯いて、そう言った。

メインヒロインのミミアより先に、同じくヒロインのリュイナを主体とした話になりました。

内容もすかすかですし、リュイナに肌フェチという設定を付けた僕にも責任はあります。

気分を害された方、申し訳ありません。

読んでくださって、ありがとうございました。


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