第4話 異変を知る微睡みの少女
アニメのグッズは欲しいけど、人混みが大の苦手。鎌里 影鈴です。
ゆっくりのんびり書いて投稿出来るのはいつも深夜。眠いです。
『ゾディアック・リドゥ』第4話を投稿しましたので、是非見てください!
窓から通りぬける朝日の光と、軽快な小鳥のさえずり。
――ドンドンドンドンドンドンッ!
「バルサくーん! 朝だよ朝旦だよモーニングだよー! 早く起きないと人生損するよー!」
――それと、昔馴染みの友達が奏でる壮大なノック音。
起きる時間が遅くなったバルサは、大抵これで目を覚ます。
「はいはい。今起きますよっと」
朝一番の軽いため息を吐いてから、バルサはいい加減壊れるのではないかと心配になるほど、衝撃を受ける度みしみしと音がなる扉を開けた。
直後、ノック音を響かせた拳が空を切る。
「――おっとと」
勢いを殺し切れなかったリュイナは前傾姿勢になり、危うく転びそうになった。
「あ、おはよう。バルサ君」
「おはよう……次からはもうちょっと優しく扉を叩いてくれないかな」
「それはエルフには難しい注文だよ」
本人はそう言うが、エルフがどうとかは関係ないのでは?
バルサはまだ昨日の疲れが残っていて面倒だったため、それを口には出さなかった。
軽く伸びをし、外に出る準備をする。
「あれ、どこに行くの?」
「顔洗いたいから、近くの井戸に」
「その後は?」
「その後は――病院かな」
バルサがそう返すと、リュイナは「やっぱりね」と言い、部屋を出るバルサの後を付いていく。
「リュイナも井戸に行くの?」
「ううん。でも病院には一緒に行くよ」
「なぜ?」
「なぜって、決まってるじゃん。ミミアちゃんのお見舞いのためだよ。――バルサ君もそうでしょ?」
「まぁ、そうだけど……」
「よし。じゃあ問題ないね」
「ないけど……」
バルサはリュイナの同行に潔く肯定することが出来なかった。
その理由は、ミミアが倒れる前に発したあの言葉――、
『星座の、力……あなたが、集めて……』
あの言葉の真意を、バルサは知らなければいけない。そんな気がした。
それを訊くには、リュイナを巻き込むことは極力控えた方が良いとバルサは判断したが、病院で要件を済ませることは果たして出来るだろうか。
バルサは星がモチーフであろう首飾りを隠しながら服のポケットに入れると、リュイナと共に家を後にした。
サルファにある病院は決して大きいものではないが、それでもバルサの住む二階建て木造建築の三倍ほどの広さはあった。
医療設備は町人の介護なら可能なくらい整えられており、就寝用のベッドもそれなりにあると思う。
――その施設内の奥の一室。
いわゆる看護室という場所にある白いベッド。
その一番奥側のベッドに、ミミアはいた。
「…………」
目を開けるとそこは、見たことのない場所。
しかし彼女は、それといって動揺を表すことはなかった。
体質上の問題で眠りに落ちたり、意識が途絶えてしまうのは今さら気にすることではないと、彼女は本能的に理解していた。
このような体質を困難と感じたら、ミミアはとっくの昔に死んでいただろう。
頭の中を蹂躙した、悪夢の根源。
星を砕いた憎悪の戦斧。
狂乱した八つの翼。
もう、二度とあんな悲劇は起こしてはいけない。
絶対に、絶対に――、
無意識に、爪が食い込むほど手を強く握ってしまう。
その時だった。
「失礼しまーす」
「――!」
突然扉が開いたことにミミアは少し驚きを感じたが、つい最近覚えた声音だと気づき、すぐ冷静になる。
そこに現れたのは――
「あ、ミミアちゃん。起きてたんだぁ」
「本当だ。ミミアさん、お土産にパモック持って来たんだけど、良かったら食べる?」
見るからに元気な茶髪の女の子と、毛先に若草色が混じった黒髪の男の子だった。
朝支度を済ませたバルサは、家の戸棚にあったパモックをお見舞いのお土産にしようと考えた後、リュイナと一緒に箱に積めたパモックを片手に病院へと向かった。
道中、町の人から昨日の件について心配されたりしたが、「大丈夫」の一言で返した。
別に町の人が嫌いだとか、そう言うことではない。
ただ、あまり優しいだけの言葉を掛けられると、こちらも返答に困るというものだ。
そうこうしている内に病院に着いた二人は、室内にいた医師に許可を取ってミミアがいる部屋に入った。
眠っていると思われたミミアは、ぼうっとした表情でいた。
「はい、ミミアちゃん。パモックどうぞ」
「……ありがとう」
ミミアはリュイナに焼き菓子を貰うと、それを食べて小さく咀嚼する。
相変わらず顔はピクリとも動かないので、本人がどう思っているのかわからない。
「急に倒れたって聞いたけど、大丈夫?」
「大丈夫……これは、体質」
「体質?」
リュイナが不思議そうに返すと、ミミアは顎に手を当てて考えるような仕草をした後、バルサに手招きをしてきた。
「ん?」
一体何なのかはわからないが、取り敢えずベッドの横に移動してミミアに耳を貸す。
「……ごめん」
そんな消え入りそうな言葉が耳元を震わせた瞬間、まるで電撃が走ったかのような痛みが頭を襲った。
「っ! ぅ、ぅ、あ……」
「バ、バルサ君!?」
突然苦しみだしたバルサに、泡を食った様子のリュイナが駆け寄る。
「ミミアちゃん! バルサ君に一体何を――」
「だ、大丈夫……」
と。リュイナが狼狽の声を上げた直後、頭を片手で押さえたバルサがそれを制した。
「僕は、大丈夫だから……それよりリュイナ」
「な、何?」
「リュイナは……絶望したこと、ある?」
「え?」
リュイナは意図のわからぬ質問に、間の抜けた声を発した。
「……ないけど、急にどうしたの? バルサ君」
「リュイナ。僕は今、ミミアさんにテレパシーを送られた」
「テレパシー?」
「うん。――といってもその力は、使いきりみたいだけど」
バルサは押さえた手をゆっくり下げると、ミミアの方を向く。
ミミアは何も言わなかったが、抱いた疑問まで一切合切解消し、新たな真実まで知ってしまったバルサから見ると、ミミアの瞳から悲愴と後悔が見えてしまう。
「ちょっと、二人してどうしたの!? 私にも教えてよ!」
「リュイナは、知らない方がいい」
「何で? ねぇ、何で?」
「何でもだ。僕は、リュイナを巻き込みたくない」
「巻き込むって、何をするの?」
「そうだね。まずは――旅に出る」
「ッ……!」
リュイナが思わず息を呑むが、バルサは気にせず言葉を続ける。
「世界を旅して、あるものを探して、世界を――粛清する」
強く、宣言するように言い放つ。
そして嘆かないために、数少ない友に無慈悲の言葉を告げる。
「だからしばらく、お別れだ。リュイナ」
「嫌だ……嫌だ……」
リュイナは涙目で言ってくるが、バルサは容赦なく突き放す。
「生きて帰ってくることは難しいかもしれないけど……これはもう運命みたいなものだから――」
「嫌だっ!!」
瞬間、リュイナの周囲に魔力が籠った風が形成された。
「リュイナ! ここは病院だよ!」
「――〈煽風の双拳〉《バインド・フィスト》!」
纏った風が絡みつき、バルサの動きが封じられる。
リュイナが弓を介さないで使う、数少ない技だ。
「私は、もう一人になりたくない」
「リュイナ……だから――」
「それにバルサ君は、この国から出ちゃいけないの」
「……何で?」
「何でって、それは……その」
リュイナは困ったように眉を潜め、言葉を濁す。
「とにかく、私にも教えて。バルサ君が何を知ったのか、全部。巻き込まれたって構わない。私はバルサ君が一緒ならもう、何も恐れないし屈しない。だから――教えて」
リュイナの眼差しは、とても深かった。
そこにいるのは元気が取り柄の少女ではなく、友達を大切に思う、決意を固めた一人のエルフ。
「……――ははっ」
バルサはつい、自嘲気味に笑ってしまう。
嗚呼、ショックのあまり忘れていた。
目の前にいる少女は、自分よりも他種族のことを優先してしまう、変わったエルフなのだと。
「わかったよ、リュイナ。僕がミミアさんに伝えられたこと、全て話そう」
「……! ありがとう!」
リュイナは悲哀の表情から、満面の笑みを呼び戻した。
「まず、荒れた部屋を片付けてからね」
「あ……あはは」
風を起こした張本人から乾いた笑いが出たのは、言うまでもないだろう。
◆ ◆ ◆
「実は大事な用件があって、皆さんを呼びました」
サルファの中央に位置する施設――礼拝堂。
バルサは話をするために、町の代表とも言える人達を集めた。
その人達には一番前にある長椅子に座ってもらい、バルサはこれから演説でも始めるかのように少し堂々とした態度で立っていた。
「ちっと大袈裟すぎやしないかねぇ。バルサ」
そう面倒臭そうに呟くのは、町の調査員ヘートル。
「いや、意外とそうでもないんですよ。ヘートルさん」
「まぁそこまで言うなら……聞いてみますか」
「もし下らん内容だったら、町長の時間を無駄にした罪で貴様の住居を潰しにかかるぞ」
冗談にならない脅しを淡々と述べるのは、サルファで生まれ育った孤高の戦士ライオ。
「そう急かすなライオ。バルサは嘘をつくほど、落ちぶれた男ではない」
ライオを諌めるのは、サルファの町長ジュナク。
リュイナとミミアを含めた五人が、態度は違えどこうしてバルサの言うことを聞いてくれた。
これはバルサにも最小限の町人としての信頼があるということなのだろうか。
「今日皆さんに話す内容は、昨日サルファ近辺の山に出没した飛来物体の正体と、それに関する情報を提供しようと思います。そうですね、まず言うことは……」
バルサは一拍置くと、数分前にテレパシーで送られた情報を自分なりにわかりやすくして、重要なことを敢えて簡潔に言った。
「このままだと大陸が、世界が崩壊します」
『は……?』
約一名を除いて、全員が同じことを言った。
そんな馬鹿なと驚きの声を上げたというより、何を言っているんだと呆けている様子だ。
でもこの反応は想定内だ。
「これにはちゃんと理由があります。ミミアさん」
「……はい」
バルサがミミアを呼んで、同じ位置に立たせる。
「なんだ? その女は」
「昨日出会ったばかりの、ミミアさんです」
「はじめまして……ミミア、です」
バルサが軽く紹介すると、ミミアは抑揚のない声で丁寧に挨拶をした。
「昨日出会ったって、どこでだ」
「森が壊滅状態になった山で、です」
「はぁ?」
質問したライオが訝しげな目をして睨む。その顔は、鬼の形相と言われるほど恐ろしい顔だったが、勿論ミミアは動じない。
「で、ミミアさんのこと何ですが……」
「待って」
と。バルサの言葉の途中で、ミミアが手を上げて止めた。
「ミミアさん?」
「自分のことは……自分で、言う」
「そうですか。では、どうぞ」
バルサが一歩後ろに下がり、ミミアがゆっくり口を開ける。
「皆さん……私は、喋るのが……あ、あまり、得意ではない、ので……真剣に、聞いてください」
ミミアは一度深く息を吸い、手を震わせながら言った。
「私は、ミミア……本名は、ミミア・エル・ゾディアック――宇宙都市から、来た……人間です」
読んで頂いた皆様、お疲れ様です。
あれ? 書いている内に段々シリアスっぽくなってないかなと思ったのですが、どうでしたか?
もしよろしかったら、感想やアドバイスを書いてもらえると、嬉しいです。
ちなみに、僕のハートは腐りかけなので、広い心は持ち合わせておりません。