第2話 襲撃からの・・・
最近半日以上寝てます。鎌里 影鈴です。
今回も下手な作品を投稿させて頂きます。
どうか題名だけでも見ていただいて結構ですので、どうぞ見ていってください・・・・・・。
「町長、大変です!」
草の大陸ソラスンで西端にある町――サルファ。
その町の中央に建てられた礼拝堂。そこに男が転がり込んだ。
町長は、自分の白髭を撫でながら振り向く。
「どうしたのかね。ライオ」
「南東の森林地帯にて、物体の落下を確認しました!」
「そうか。被害は?」
「近辺の森林は全て壊滅。それ以外は確認されてません」
「そうか……ふむ」
男性の話を聞くと、町長は髭を撫でる手を止め、思案する。
それから数秒経ったのちに、町長は決断を口にした。
「現地に向かわせよう。ヘートルを連れて来てくれ」
「は……っ!」
◆ ◆ ◆
突如起きた光景に釘付けされ、視界が固定される。
それでも思考能力は稼働を続けており、次第に外面的な状況を理解させた。
今。バルサの目の前に、淡い光に包まれた少女がいる。
年齢は十四、五くらい。色素の薄い髪に、幼さが残りつつも整った顔立ちをしている。小柄な体に纏った黒いドレスは、まるで異界の令嬢を思わせた。
バルサは、喉奥から漏れだすように声を発する。
「君、は……」
「…………」
しかしそれが聞こえなかったのか、或いは関心がないのか、少女は答えない。
空気が静まり、光の煌めく音だけが辺りに響く。
やがて、少女は星空のような双眸をこちらに向けると、唇を小さく動かした。
「……あなた、が…………救って……」
直後、目をすうっと閉じたと同時に光が消え、少女は重力を取り戻したかのように下に落ちた。
「ッ! 危ない!」
体を咄嗟に動かして、バルサは少女を受け止める。
すぐに様子を見ると、何故か少女は気を失っていた。
「一体、何が……」
少女の言葉の意味を理解するよりも、バルサは周囲の注視を優先する。
バルサと少女がいるクレーター内に変化はみられない。だが、眼前にある物体は違った。
その物体は、バルサの頭上のさらに上の方に小さなくぼみができていたのだ。
――人ひとりが、ちょうど収まるような。
「まさか……!」
目を見開き、バルサは再び少女を一瞥する。
その時だった。
「……ッ」
邪気のような何かを察し、少女を抱えてその場から飛び退く。
直後、バルサの視界にある生物が映り込んだ。
否、生物という表現は適当でないかもしれない。それは確かに動いてはいるが、人の形をしていて、背は人間の半分くらいだ。
灰色の表皮に禍々しさを感じさせる鎧。それの顔に一つしかない目玉は、赤く仰々しい。
それは形容するなら、怪物というのが等しかった。
「ギギギ……」
怪物は歯車が噛み合っていないような声を発すると、バルサの方に近付いてくる。
しかも怪物は一体ではなかった。後から同じやつが現れ、次々とこちらに赤い目を向けている。まるで、今すぐにでも襲ってくるような雰囲気だ。
そして予想通り、怪物はバルサに飛びかかった。
「くっ……!」
眉を潜めて、バルサは少女を抱えたまま怪物の攻撃を横に移動して避ける。複数の怪物が来たが、予想はしていたので逃げるようにかわしていった。
バルサは思考を展開させ、脳内に推測をさせる。
この怪物は、草の大陸に存在しているものではない。新種の可能性もあるが、それより別の場所から来たという方が自然だ。
別の場所というのはどこかは知らないので保留。提示する問題は、怪物の目的である。
記憶を巡らせて、得体の知れない存在が何をしたいのかを自分なりに考え、自身の力で導く。
その結果、バルサの中で、怪物の狙いは少女にあると予想した。
確証はもちろんと言っていいほどない。だから、今それを成立させる。
「……ごめんっ」
バルサはそう言って、少女を頭上へと放り投げた。
気絶している少女は髪をふわりと浮かせ、黒いドレスをはためかせる。
その直後に、バルサは視線を怪物に向けた。怪物の目は明らかに少女を見ている。
これで、バルサの考えは成立した。
バルサはジャンプして再び少女を掴むと、クレーターの外に逃げようと走り出す。
怪物もその後を追ってくる。速さはどちらかというと、怪物の方が上だ。
わかっていても足を止めることは出来ず、バルサは策を考えながら走り続けた。
しかし、良策が思い付かない。怪物が少女から興味を無くしてくれるのが理想だが、それを現実として叶えられる行動が見えない。
「く……っ」
焦りにより顔が歪み、結局は何も決断しないままクレーターの外へ足を踏み込む。
その時だった。
「魔念投擲ッ!」
突如、緑色に光る一本の矢が、バルサの頭上を通る。
そして見事に、それは飛び出した一体の怪物の体に命中した。
「ギィ……!」
喉が潰れたような声を上げ、怪物は倒れてクレーターの斜面をごろごろと転がる。
他の怪物の動きが止まり、バルサも体を硬直させた。
しかしそれより気になることがあったバルサは、顔を正面に向ける。
するとそこ――荒れ果てた大地に、リュイナがゆらゆらと立っていた。
「リュイナ!」
バルサは血相を変えて、足元が怪しいリュイナに駆け寄る。
「バルサ君、無事?」
「そんなことより、リュイナが無事じゃないよ! 怪我してるんだからどこかに隠れないと」
「大丈夫。私なら、平気だから……」
こちらの心配とは裏腹に、リュイナは笑って返すと、手に持った弓を前に出す。
「皮肉にも、この辺りには材料が沢山ある。だからバルサ君……あいつらを、倒そう?」
「っ、でもそれは――」
言いかけてバルサは止める。理由は、リュイナが静かにバルサを見ていたからだ。
「私は何が起きたのか、わからない。あの怪物のことも、バルサ君が庇ってる女の子のことも」
「…………」
理解できない。どうしてリュイナは、何も知らない状況で戦いを望んだのか。
答えが浮かべずにいると、リュイナは話を続ける。
「でもね? 私が思うに、あの怪物は悪いやつで、バルサ君はその女の子を怪物から守るために逃げてきたって感じなの。違う?」
「……いや、その通りだ」
「ならここでさ、蹴散らしちゃった方がよくない? バルサ君のためにも、皆のためにも」
「でもそれを、リュイナがやる必要はないじゃないか。どうして戦おうとするんだ」
バルサが尋ねると、リュイナは優しく微笑んでから言う。
「――理由なんて、無いよ」
「え……?」
想定外の言葉に、バルサは体と思考の両方の機能を停止させた。
「明確な理由は持たなくていい。ただそこに守りたい人がいて、私には力がある。それだけでも、この行動には意味がある。だからね、バルサ君」
弓を怪物の方に突き出しながらも、リュイナはその瞳をバルサから逸らさない。
そして一拍溜めるようにしてから、こう言い放つ。
「私はバルサ君を守りたい。それだけなんだ」
「っ……!」
瞬間、バルサは思考が急速に動き出すのを感じた。
血流がドクンと揺れて、全身に熱を帯びる。それはまるで、凍結した水が元の液体となって、不要なものを一気に洗い流してくれているかのようだ。
思えばこうした方が一番、楽だったのかもしれない。いや、簡単だった。
要はそう。この怪物が消えてくれれば、事は済むじゃないか。
「ふ……」
自分の発想力の狭さに呆れてしまい、思わず口元が緩む。バルサはその後、移動し少女を降ろして横にすると、リュイナの隣に並んだ。
「それじゃあ、僕も参戦しようかな」
「バルサ君……いいの?」
「もちろん。負傷した友人がいるのに、黙って逃げるなんてありえないからね」
そう口にすると、バルサは両腕を前に出して脇を締める。
ここで言うのもなんだが、バルサは剣や銃といった武器は所持しておらず、学校にも通っていないため魔術はからきし駄目だ。
しかしだからといって、戦法は何一つもないわけではない。一応だが、バルサにも力はあった。
自己流に編み出した、唯一無二の力が。
「〈業術〉――開放」
技名を唱え、精神集中のため瞼を閉じる。すると、バルサの周囲に風が渦巻いた。
〈業術〉。バルサが生まれつき持っている魔力を有効に活用しようと思案したことにより、誕生した技だ。
――その能力は、自己の強化である。
「行くよ、リュイナ!」
「うん!」
応答を確認して、バルサは怪物を目掛けて直進。瞬く間に怪物に迫っていく。
怪物がこちらの存在に気付いた。だが遅い。その時にはすでに、バルサは拳を繰り出していた。
勢いの付けられた拳が、怪物の額に炸裂する。
直後。そこに怪物の姿はなかった。
「ギ……ッ!?」
周りにいた怪物が動揺に似た声を出す。それはそうだ。何せ、今し方バルサの攻撃を食らった怪物は吹き飛び、一瞬で青い物体より後方の地点で悶絶していたのだから。
「あー、もう少し加減したほうが良かったかな?」
バルサはそう、心にも思っていないことを述べる。決して余裕があるという意味ではない。
「ギギギギ……」
しかし怪物はそれを侮辱と判断したのか、苛立ちのような唸りを上げて腕を大きく広げる。
すると、その手から黒い光球が生まれ、怪物はそれを投げ放った。
光球を投げた怪物とバルサの距離はほんの七、八歩ほど。それに光球を出すことを初めて知ったので、バルサは反応が少し遅れてしまった。
触れたもの全てを抉り取るような漆黒の魔力弾。しかしそれは、背後から放射された光の矢によって相殺した。
これはリュイナの能力ーー〈自然概念〉によるものだ。
木や石などの自然物を媒介にし、自身の魔力に変換する力である。エルフという種族は、自然に由来した力を持つ者が多い。
それに、エルフなどの亜人には属性という識別方法があり、それによって魔法の方針を決めているとされる。
リュイナの場合、属性は『風』であった。
「はあっ!」
リュイナが気合いとともに手を離し、矢を放つ。それは一手に僅かな時間を有するという欠点があるが、それを補えるくらい、リュイナの弓術は必中だった。
光の矢が怪物の腹部、片足、眉間に直撃し、バルサは力ずくで怪物の鎧を粉砕する。
それを絶え間なく続けていて、気付いた時には襲来した謎の怪物――計十二体ほどを倒していた。
「ふぅ……」
初の戦闘らしい体験をしたバルサは、軽く息をつく。
何というだろうか、一日を普通に過ごしては確実に味わえない達成感が、そこにあった。
「バルサ君。お疲れ様」
ゆっくりとした歩調で、リュイナはバルサに言う。
バルサはそれに返事をせずに、無言でリュイナの手を自分の肩に置いた。
「人の心配より、今は自分を優先して。僕なら大丈夫だから」
「うん……ありがとう」
リュイナはそのときに驚きの表情をするも、すぐに口の端を小さく上げると、委ねるようにバルサの背に乗った。
再びリュイナを背負ったバルサは、次に少女をどうしようかと考える。
かろうじて両手が空いてるのでその線で町に戻ろうと思うが、女の子二人分の重さに耐えられるかどうかが少し不安だった。後が怖いので口にはしない。
急いで町に帰り、このことを町長に伝えよう――その時だった。
「……ッ!」
先程と同じ邪気……いや、もっと大きくて黒い何かのオーラが、バルサの背筋を震わせた。
身の危険を感じたと同時、その正体を視認しようと体を反対方向に捻らせる。
「は……!?」
瞬間、バルサは目を見開いた。
理由は単純。目の前に、想像したことのない現象が起きていたからだ。
怪物の残骸が空中に浮かび、破片を繋げるように一つ一つが結合していく。
結合したものは黒い塊と化し、やがて全部が纏まり人を飲み込むほどにまで肥大した。
そしてその塊から、一体の新たな怪物が姿を現す。
全長は約二メートル。闇夜に塗られたような表皮に鎧。巨腕に細長い手足と非常にアンバランスな体躯だが、それがかえって不気味である。
「ギギギィィィィィィィィッ!」
獣の咆哮を連想させる甲高い音が、荒野となった大地に揺らぎを与えた。
「く――!」
思わず腰を屈めて、体勢の維持を専念する。
嵐の如く突然と降りかかった災難を前に、バルサは反射的に思考の回転を加速させた。
一瞥しただけで、確信が持てる災厄の質が全身から溢れている怪物。即急な対処が必要なのは絶対だ。
だが、戦闘が困難なリュイナと、移動ができない少女を抱えたバルサは、とても怪物を打ち倒せる状態ではない。
「…………」
バルサは唇を歪めて、打開策となる行動がないかと脳内で検索を取る。
機能がまだ稼働できる限り、バルサは諦めてはならない。自分の中で、そんな決意がいつの間にか構成されていた。
そしてその糸口は、バルサにとある可能性を掴ませる。
「ねぇ、リュイナ――アレ、使ってもいいかな?」
「アレ? ……ああ、あれね」
バルサは思い付いた行動を取る前に、リュイナに確認を求めた。
何故かというと、アレは、リュイナの許可がないと行使はしない。そういう約束をしたからだ。
緊急でも律儀に約束を守るバルサに対し、リュイナは首を一回だけ倒した。
それを肯定の意味と捉えて、バルサは決断する。
形容がされる一切の情を棄て、脳内を抽象で埋め尽くし、そして――
――『存在』という概念を、隔離させる。
◆ ◆ ◆
「ほい、到着っと」
軽い調子をした声音で、男は目的地に到着した。
この男の目的は、町長の命で一変した森の様子を観に来てほしいというものであった。
「これは……」
男はふと足を止める。目の前には、全ての木が横倒しにされている、何とも奇妙な風景が映っていた。
町の住民がこれを見れば恐れて逃げ出すか、憤怒を滾らせたりするのだろう。
しかし、この男は違った。
「誰が何のために、こんなことをしたんだろうねぇ」
感情よりも先に疑問を呟いた男は、茶色の帽子を被り直してから、調査のために荒れ地へと踏み込んだ。
やがて数分ほど進むと、前方に人影が見える。
何かと思い、男は視線を凝らす。
「――おんやあ?」
と。その人影を見た瞬間、男は怪訝そうな声を発した。
しかしそれも無理はない。何故ならまず、こんな場所に人がいるとは思わず、しかもその人物が知っている顔立ちをしていたのだ。
その人物を呼ぼうと、男は口を開く。その時に、
「ヘートルさーん? どうかしたんですかー?」
見知った少年、バルサがこちらの名前を言っていた。
如何だったでしょうか。
話の構成が自分でもよくわかってないで書いているので多少の混乱はありますが、読者の皆様に不快感を与えないよう、頑張っていきます。




