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ゾディアック・リドゥ  作者: 鎌里 影鈴
第二章 爆裂に煌めく奇才
26/30

第23話 突然の事態も冷静に

はい、リアルで疲れに疲れを募らせた結果、このようになりました。本当に申し訳ございません。

今後このようなことがしばしば起きる可能性があるので、読者様にはどうか寛大な眼で見て頂けるとどうかありがたいです。

 太陽からの熱気が溢れる、砂で埋もれた灼熱の大地の世界。

 炎の大陸カルドレア。長い歴史を経て『激甚(げきじん)』と謳われた、世界一の国土と逆境を有した大陸だ。

 広大な砂漠地帯と、それ以外の全てのものを蒸発させる光。まるで具備されたかのような過酷な環境に、バルサは信頼する仲間とともに顕現した。

 最初はその環境に圧倒されたが、それでも信念を曲げず、バルサたちは星座の探索を行った。

 ――それからおよそ、三時間ほどだろうか。

 バルサたちは砂漠の上で、疾風の如く現れた得体の知れない機体に、翻弄されていた。


「来る……っ!」


 一瞬で横切った機体がUターンするのを強化した眼で視認したバルサは、振り返ってこちらの機体の操縦者に指示を出す。


「ミミア、右に避けて!」

「うん……!」


 ミミアがうなずくと、〈空駆ける彗星(コメータ・シエル)〉は迅速かつ水平に右方向へと移動。

 直後、謎の機体が炎を撒き散らして通り過ぎる。


「っ! 本当に速いな、あの機体……」

「バルサ君、もしかしてあれ……」


 と、バルサの隣側に乗っていたリュイナが、何かを言いたそうに口を動かした。

 リュイナが言おうとしたことを察し、バルサがそれに継ぐ。


「ああ、もしかしたら……〈星雲の大罪人(クリムヴァーン)〉の仲間なのかもしれない」


 星雲の大罪人――ミミアの故郷を襲撃し、十二星座を散佚(さんいつ)させた極悪非道の組織。

 ミミアがこの世界に舞い降りたその数日後、跡を追うかのようにその組織を名乗る傀儡師――イルムが姿を現したことが、バルサが〈星雲の大罪人〉という存在を知るきっかけだった。

 素性や目的は知れないが、奴らはミミアと、ミミアの持つ『星辰の器』を狙い、町や森で暴れまわった。

 その時はバルサがイルムと傀儡を敵と見なし、無の力(・・・)で傀儡を消去、イルムを戦闘不能に陥らせて事態は抑止させたが、その後どうなったかはよく知らない。

 ただ、イルムが見せた性根の悪さと悪事に対する執着を(かんが)みて、今後も警戒が必要だとバルサは睨んでいた。

 またいつか、同じような敵が現れるだろうと。

 そして、その予想が今、見事に的中していた。

 しかし――、


「でも、あの機体……なんか様子がおかしくないか?」


 そう言って、バルサは謎の機体を改めて凝視する。

 蛇のようにぐにゃぐにゃと飛行する鉄塊と、その上に刺された棒のようなものに掴まる操縦者らしき人物。

 あれは果たして、こちらを襲撃する意思を持っているのか。

 視界で得た情報をまとめ、推測を行う。

 そして時間にして約二秒――その答えが出た。


「前言撤回。ミミア、あの機体に近づいて」

「ちょ、バルサ君!? あれは敵かもしれないんだよ!?」


 その言葉が意外だったからか、リュイナは驚きを(あらわ)にして言う。ミミアも似たような様子だ。

 バルサは導きだした結論を、高速で飛翔する機体の上で話す。


「いいや、あれは敵じゃない。通りすがりの困ったさんだ」

「ど、どういうこと?」


 あまりにもバルサらしくない表現に、頬に汗を垂らすリュイナ。

 バルサは気にせず、機体を指さして話を続ける。


「あの機体を見て。動き方が、あまりに不自然だ」

「うん……確かに危なっかしいね」


 今はやや遠くに飛んでいる機体を見て、リュイナは率直に言った。

 機体は時に空に浮き上がって炎を噴出し、時に急降下して砂を吹き出す。

 その様子は今にも墜落しそうで、危なく見える気持ちを抱かずにはいられない。


「次に、その機体に乗っている人なんだけど……二人は速すぎてよく見えないよね」

「……うん」

「そうだね。視力には自信あったんだけどなぁ」


 ミミアが静かに首を振り、リュイナは自慢の視覚能力が役に立たないことを悔やむように言った。

 まあ、あの距離と速さでしかも視界も悪いなかだ。遠見視力と動体視力の両方を強化させたバルサでなければ、形状を捉えることすら不可能に等しいだろう。


「あの操縦者、機体に上手く乗りかかっていると最初は思ったけど、よく見るとあれは乗っているというより、振り回されているように感じる」

「振り回されている……もしかして!」


 バルサがここまで話すと、リュイナが合点がいったように声を上げる。おそらくだが、リュイナもバルサと同じ推論に至ったのだろう。

 謎の機体とその操縦者を見て得た二つの情報。これから考えられることは、一つしかない。


「あの機体は間違いなく――暴走している」


 こちらにまた近付きだした機体を睨みながら、バルサは結論を述べた。


「暴走……?」


 ミミアが、魔法陣の上に手を滑らせながら、それが何なのか聞いてくる。


「要するに、機体の制御が効かなくなった状態だね。あの機体に乗っている人は何とかしがみついている様子だけど……あれがいつまでももつ訳がない」


 機体の高速移動によって起こる風圧を、あの人間は両手両足の四本だけで受け止めているのだ。普通なら体力がもたず、引き離されてもおかしくない。

 見たところまだ耐えているが、このままでは墜落は(まぬが)れないだろう。


「だから、ミミア。機体にできるだけ近づいて、あの人を助けよう」

「うん」


 理解したミミアは短く言うと、早速〈空駆ける彗星〉を操作する。


「で、でも、あれが敵じゃないって確証はないでしょ!? 絶対に危険だよ!」


 が、味方思いのリュイナが再び抗議の声を上げた。

 その言葉はバルサたちを思ってのことであり、危惧するべきなのは最もだ。


「そうだね。確かにその可能性も十分にある。……だけど、それは助けてはいけない理由にはならない」


 バルサは真剣な眼差しで、リュイナに訴えかけるように言った。

 敵かどうかなど、今のバルサには些細(ささい)なことである。思考と願いが『助けたい』と合致した、バルサの前では。


「僕はもう決めた。あの人を助ける――絶対に」


 そう言って、バルサは〈空駆ける彗星〉の壁に手をやって、半身を外に出す。

 空中を錯乱する機体に、バルサたちの機体が接近する。

 アンバランスな軌道に合わせ、近過ぎず、離れ過ぎない距離を保つ。

 目を鋭くして、バルサは眼前まで迫った機体に集中し――タイミングを見計らって、その場に跳躍。

 体中に叩き付けるような突風を受けながらも、バルサの伸ばした手が、暴走する機体の(くぼ)んだ表面を掴んだ。

 そのまま四肢を張り付くようにしがみつかせ、向上させた力で棒状の部分――人が乗っている所までよじ登る。

 ついにその場所まで達したその時、バルサは声を張り上げた。


「大丈夫ですかっ!? 聞こえますかっ!?」

「………………」


 機体から出る爆裂音と風の音で聞こえないのか、その人は棒状のものを握ったまま気絶したかのように反応しない。

 何とかこちらの存在に気づいてもらおうと、バルサは徐々に操縦者に近寄る。

 その瞬間、機体が縦に大きく揺れた。


「うわあっ!」


 揺れの衝撃で崩れたバランスを持ち直そうと、バルサはのけ反った上体を両腕を振り回して起こした。

 ――ふと、バルサの指先が、操縦者の肩を撫でるように触れる。


「――!」


 それでようやく気がついたのか、人間がバッとこちらの方を向く。ほんの一瞬だけ、バルサの視界にその顔が映った。

 三つ編み一本のアッシュブロンドの髪に褐色の肌、空に似た青い双眸(そうぼう)に眼鏡をかけた少女。

 両目を開き、固まったようなその表情は、瞳と同じく真っ青だ。

 それを脳で理解したその刹那(せつな)、バルサは体を前のめりにして、その少女が握る両手を掴む。

 少女は狼狽しているように見えたが、バルサはそれを気にせず、少女を助けるために『業術』を全力(フルパワー)で開放する。

 少女の手を無理やり引き剥がし、少女に覆い被さるような格好で機体から飛び降りた。

 重力に従って、横殴りの風圧が真下からのものに切り替わる。

 凄まじい速さで落下する、バルサと少女。

 このままだと砂漠の大地に打ち付けられて、二人は()端微塵ぱみじんとなるのが(さだ)めであろう。

 その結末を迎える途中で、〈空駆ける彗星〉が青い軌跡を描きながら通り、二人と機体が重なる。


「ぐふ……っ」


 機体に着地した衝撃と上に乗った少女の重みが合わさり、死はせずともバルサの臀部(でんぶ)と腹部に強烈な痛みが走った。


「バルサ……大丈夫?」

「いたた……うん、何とか、ね」


 弱々しい声を出すが、バルサは少女をそっと降ろし、臀部をさすりながら立ち上がる。

 その時ミミアが気を遣ったのか、〈空駆ける彗星〉の速度が徐々に落ち、空中で静止する形になった。


「バルサ君っ!」


 と、突然、リュイナがバルサの前に立つ。

 眉の間には僅かにしわが寄り、いかにも剣幕そうな雰囲気が現れている。

 これはいけないと本能的に感じたバルサは、リュイナが口を開く前に頭を下げた。


「ごめんリュイナ。勝手な行動をしたせいで、リュイナたちにまで迷惑をかけちゃって……」

「本当だよ……バルサ君はいつも自分勝手なんだから」


 グサリと来る台詞を言われ、返す言葉がなくなる。しかし素直に謝ったのが功を奏したのか、それ以上の指摘はされなかった。心の中で思わず安堵する。


「バルサ、その人は……?」


 ミミアはバルサとともに落ちた少女を、心配そうに(うかが)う。

 救出してからピクリとも動かないので、どうしたのかと不安になったのだろう。


「見たところ気絶しているだけみたいだし、ひとまず、大丈夫そうだね」

「そう……よかった」


 バルサが少女の容態を伝えると、ミミアは表情に出さないものの、ほっとしたように息を付いた。


「――さてと、これからどうする? いきなり予想外の事態が起きちゃったけど」

「このまま町を探すのもありだけど……まずはこの人が乗ってた機体を取りにいかない?」


 次の進路を決めるため尋ねると、リュイナが救出した少女が乗っていた機体の回収を提案する。

 考えてみれば、あの機体は恐らく少女のものだ。少女が起きたとき、機体の紛失に動揺するのは必然であるし、もしも機体が暴走したまま爆裂などをしたら、それこそ問題だ。他国だとしても、見過ごす訳にはいかない。


「そうだね。暴走する機体に何が起こるかわからないし、様子を確認した方がいいかな」

「よしっ! じゃあ機体が飛んでいったとこまで、レッツゴーッ!」


 リュイナの掛け声の後、〈空駆ける彗星〉は推進し、ひとりでに砂漠の向こうに去ってしまった機体を目指して飛行した。




 砂漠の上を飛び続けて数十分後。木すら()えてない山岳を二つほど越えた、その先。

 色など大差ない大地を注視していたバルサは、ついに目的の物体を発見する。


「っ! 見つけた、あの機体だ!」


 言って、バルサは遠くの地面に転がっている機体がある方を指差す。

 直後、ミミアが〈空駆ける彗星〉を器用に操作して、機体の手前に着陸させた。

 バルサが先に降り、リュイナとミミアがそれに続く。

 数歩進んで、バルサは両足を止めると、眼前に(そび)え立つ機体に目を向ける。

 凄まじい勢いで墜落したのだろう。先端部分の大半が砂で埋もれ、斜めに傾いたまま停止している。それは機体というより、奇っ怪な鉄のオブジェを思わせた。

 大きさはバルサの身の丈の三倍はあり、角張った見た目のせいかすごく頑丈そうに見える。

 バルサは機体に手を触れると、それに身を乗り出して調べだした。


「大きな損傷はないけど……よくわかんないな」


 一通りの確認を済ませ、顔をしかめる。

 先端や外装はパーツの少ない単純な部分なのだが、機体の隙間を覗くと内部は複雑だった。操縦器官であろう棒には装置のようなものがあるが、これも扱いがよくわからない。


「不思議な形してるよね、これ。何かハンマーみたい」


 近くにいるリュイナが、そんなことを言う。

 確かに見方によってはそう見えるが、そういう特徴だと思って深く考えなかった。


「どうやって動かすのかな?」


 バルサは言って、仕掛けも何もわからないが、とりあえず少女がしていたように棒状の部分を軽く握ってみる。

 勿論、それだけで機体が動くことはない。

 取り付けられた装置は扱い方が知らないため、バルサは手に力を入れて棒を動かそうとする――が、固定されているのかびくともしなかった。


「……もしかしたら、魔力で操縦するものなのかもしれない。ミミア、試してみてくれないか?」

「うん……」


 少しだけ虚ろな目をしたミミアが頷くのを見て、バルサはミミアの手を掴み、機体の上まで引き寄せた。

 ミミアが棒に手をかざし、すうっと(まぶた)を閉じる。


「……これには、魔力を送る器官が、ない」


 しばらくして、ミミアは小さい言葉を放った。

 つまりそれは、機体が魔力以外のエネルギーを使用するということだ。(ある)いは、ミミアの魔力が本体と合っていない、ということも考えられるが。


「うーん……どうしようか……」


 手の打ちようがない状況に、バルサは頭を悩ませる。

 他の二人も同じことを考えているようで、だんまりとした時間が続く。

 ……やっぱり、最後に操縦していた人物に聞くしかないか。

 脳裏にそう浮かんだバルサは、自分たちの飛翔機で寝そべっている少女を見た。

しばらく忙しい日々が連鎖するので、投稿は遅れます、すみません。

しかし、自分は小説に精一杯打ち込みたいので力の限り努力します。

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