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ゾディアック・リドゥ  作者: 鎌里 影鈴
第二章 爆裂に煌めく奇才
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第22話 猛暑の矢先

自分の文章能力を向上させようと必死です。多分……。

第二章の続編、お待たせしました。中々まとまりというのが難しくて詰まってます。


それでは、暖かい目で読んでみてください。お願いします。

 バルサが振り飛ばしたリュイナ――木の枝に吊るされたような状態で目を回していた――とミミアを連れて、バルサは町に一番近い森林地帯に入る。

 住宅も魔物もいない、無人の森。何か大きな物を隠すとすれば、まさにうってつけの場所といえるだろう。

 入り組んだ木々を抜け、長い(しげ)みを通る。その先に、青い球型の機械が鎮座していた。

 ――〈空駆ける彗星(コメータ・シエル)〉。ミミアがこの世界に来た際に、ミミアが乗っていた飛行機体だ。

 元々は、鋭利な先端が特徴的な星型の機体だったのだが、ミミアの能力で形状と機能を変化しており、滑らかな表面と空間転移が備えられている。


「皆、準備……いい?」


 三人が搭乗すると、先頭にいたミミアが操縦席に腰かけてこちらに問う。


「ちょっと待って。荷物チェックしたいから」


 しかしバルサはそう言うと、肩に掛けた(かばん)を降ろして荷物を確認する。

 食料よし。明かりよし。汗を拭う布に多めの水もよし。それと――、


「ねぇバルサ君。そんなに大量に持っていかなくてもいいんじゃない?」


 まるで整頓するかのように丁寧に多大な荷物を広げたバルサを見て、リュイナは頬に汗をたらして言う。


「いや、旅には何が起こるかわからないし、もし遭難とかしたら大変でしょ?」

「まあ、そうなんだけど……」


 正論ともいえなくもないバルサの言葉に、リュイナは苦笑することしかできなかった。


「――よし、準備完了。いつでも出発していいよ」


 数分後、確認を終えたバルサが言うと、ミミアはこくりと(うなず)く。

 操縦席の手前にある魔法陣に、ミミアは両手をかざす。すると魔法陣が光り、〈空駆ける彗星〉が起動した。

 ゆっくりと機体が地面から離れ、それは静かに宙に浮く。


「じゃあ、始める……」


 ミミアはそう言って、魔法陣に触れながら腕を交差する。

 直後、魔法陣の光が増し、本体も淡い輝きを放ち出す。

 やがてその輝きが強くなり、バルサたちを包み込むまでに致した。その刹那――、


 バルサたちは、瞬く間に姿を消した。



 ◆ ◆ ◆



 大陸の境界付近にある町、サルファ。

 良い意味で静寂な町の空気に、日が昇るにつれて微かな活気が色付きだす。

 子どもは道をはしゃいで駆け回り、働き手は品物を売りに出し、老輩は晴天の日を浴びてくつろいでいる。

 誰もが平穏に暮らしている中、自宅の庭で、剣を振るう男がいた。

 逆立った金髪が特徴的な、勝ち気そうな男だ。麻の服を纏い、鋼の剣を両手で持ち素振りをしている。

 ――男の名はライオ。サルファに住む、唯一の戦士だ。


「――朝から鍛練かね、ライオ」


 と、塀の外から、髭を顎まで伸ばした老人が、ライオに声をかけた。


「町長。おはようございます」


 ライオは突如顔をだした老人――町長に気づくと、剣を腰に付けた鞘にしまい、礼儀よく頭を下げた。

 町長がライオに「おはよう」と挨拶を返すと、話をし始める。


「町の警護は大変なのに、いつもご苦労。君のおかげで、今日町も平和だ」

「いえ……この町が平和なのは、俺がいなくても変わらぬことです」


 町長の言葉に、ライオは謙虚(けんきょ)な態度で返した。

 普段は短気で乱暴的なライオだが、町長といるときや会話しているときなどは、やや物腰が軽くなるらしい。

 町長は低い笑い声をすると、そのまま話を継いだ。


「確かに、ソラスンは戦いのない平和の国だ。……しかし、最近は少し不可解な事件が続いているからの」

「…………」


 ライオは町長の言葉を聞いて、深く黙り込んだ。

 町長が述べた事件――それは魔物の反逆化の発見と、謎の生物の奇襲であった。

 反逆化――草の大陸に生息する魔物のみに影響される、謎多き状態の一種。

 平和の国に住む魔物に邪の心が芽生え、凶悪と化し、荒れ狂う猛獣となるそうだ。ライオも噂程度だが、その存在を耳にしたことはあった。

 次に謎の生物の奇襲についてだが……これが何とも不思議なもので、奇襲をしかけた者の正体が、全く見つからなかった。

 奇襲の中心となった隣町は、住宅のおよそ二割が半壊。周辺の森林地帯の半分が焼け野原となってしまった。

 が、これも不幸中の僥倖(ぎょうこう)か、人的被害はなく、周囲の町の住民たちの力を借りて、すぐに町の復興作業に取り組めたらしい。数日前にライオが手伝いにいったときはかなりのペースで進んでいたため、あともう六、七日すれば復興は完了する

 であろう。


「平凡なこの国にとって、このようなことは(まれ)じゃ。だがこそライオ、お前も重々承知せい」

「は……わかりました」


 ライオは言うと、まるで一国の騎士のように(うやうや)しい礼をした。


「よいよい。皆が楽に生きれてこその、平和じゃからな」

「そうですね……ところで、町長」

「なんじゃ?」


 町長が聞くと、ライオは心に(とど)めていたことを口に出した。


「別の世界から来訪したという、あの女はどうしますか?」

「女? それは、ミミアのことか。あの子ならバルサが生活まで責任を持つ、そういう話で済ませたはずじゃが……」

「町長は、あの女を野放しにするのですか?」


 ライオの言葉の意味がわからず、町長は首を傾げる。

 そして軽く息を吐くと、教えを説く仙人の如き口調で言う。


「ライオ、そう案ずるな。ミミアは、災厄を起こすような子ではない。それに、もしなにかあっても、バルサがどうにかするじゃろう」


 一拍置いて、町長は確信しているかのような言葉を放った。


「――バルサは、この町に住む強き人間の一人であり、我らの宝じゃからな」

「……っ!」


 その言葉に、ライオはピクリと眉を動かす。が、(まぶた)を閉じると、静かに首を降ろし、肯定の意を示した。


「承知しました……町長」



 ◆ ◆ ◆



 全体が急激に明るくなってから数瞬、光が収まったのを瞼の裏で察知したバルサは、ゆっくりと片目ずつ開けた。

 最初に確認したのは、皮膚から感じる、全身に張り付くような熱。上からくるこの熱量は、太陽の光による暑さだろう。

 次に確認できたのは、視界に映る灰黄色だけの景色。


「ここ、が……」


 バルサは小さく声を漏らす。が、熱を(ともな)う風が吹いたせいで、乾いた声しか出せない。

 ぎらぎらした熱線に、空気が揺らめく風景。

 大まかな憶測に過ぎないが、これは間違いない。

 着いたんだ。炎の大陸、カルドレアに――。


「……到着完了。今から、上陸する」


 機体を操縦しているミミアが言うと、バルサたちを乗せた〈空駆ける彗星〉は陸に向かうため徐々に高度を下げる。

 やがて、赤色の地面に着陸し、バルサたちは機体から降りた。


「すごい……これが、砂漠なのか……」


 周囲を見渡して、バルサは呟く。

 見る限り同じ色彩の砂。それはバルサが住む大陸の森林地帯の広大さに似ているが、同時に生命が根絶した荒れ地を思わせた。


「う~~、暑いよ~」

「うん……」


 リュイナが身体をぐったりとさせて言うと、ミミアがそれに同意する。

 バルサも、このような環境は初体験なため、正直つらいか暑いくらいしか率直な言葉がでない。


「……とりあえず、水分の補給をしようか」


 言って、バルサは鞄から水の入った瓶を取りだし、リュイナとミミアに差し出した。

 暑い場所に長いこといると体に悪影響を及ぼすことをあらかじめ知っていたバルサは、川から汲んできれいにした水――出発する場所を決めたのが今朝だったから急いで作った――を用意したのだ。


「ありがとう。バルサ君」

「……ありが、とう」


 二人は素直に瓶を受け取ると、中の水を口に運んで飲む。

 リュイナはよほど喉が渇いていたのか、勢いよく水を流している。

 本音を言うなら、水の量は有限なため節約して飲んでほしいのだが……たぶん伝える前に水の方が終わってしまうだろう。


「バルサ」


 と。本心を内に留めていたバルサに、ミミアが話かける。


「どうしたの? ミミア」

「ん……」


 ミミアは短く言って、バルサの前に瓶を持った両手を出す。瓶の中にはまだ半分以上、水が残っていた。


「まだ入っているけど、もういいの?」

「うん。あまり飲み過ぎると、後が、大変だから」


 バルサの言葉にうなずいたミミアは、ゆっくりと口を動かして言う。さすが、ミミアは年下ながらバルサの考えを理解していた。

 一方、リュイナはというと――、


「ぷはーっ。ごちそうさまでした」


 笑顔でそう言ってから、バルサに瓶を渡してきた。もちろん、中身は空っぽだ。

 バルサは溜め息を吐くと、二本の瓶に(ふた)をしてから鞄にしまい、すっくと立ち上がった。


「それじゃあ、星座の探索を行おうか。町を発見したら機体をどこかに隠して、そこで情報収集しよう」

「うんっ! ……って、私たち今どこらへんにいるんだろう?」

「大陸の端の方、だと思う」


 リュイナが賛同の後に発した疑問に、ミミアがそう答える。バルサは驚きを乗せた声を出した。


「すごいねミミア。どうしてわかったの?」

「あれ……」


 そう言って、ミミアは後ろを向き上の空を指でさす。

 バルサはその先を目線で追って――すぐさま納得した。


「ああ、そういうことか」

「ねぇねぇなに? どういうことなのバルサ君」


 いまだに理解していない様子のリュイナに、バルサは簡潔に説明をする準備に移る。


「ほらリュイナ――あそこに、霞境(バウン)が見えない?」

「ん? んー……あ!」


 さまざまな角度で遠方を覗いていたリュイナは、そこでようやく、その存在に気付く。

 霧のように薄く、空にかかった細長の雲。

 ミミアはこれを見て、自分たちの場所を把握したのだ。

 霞境――大陸の外辺部上空に存在する、消えることのない雲。

 空が曇らない限り弧を描くように大陸の縁側、もしくは境界線の上に位置することから、このような名前が付けられたのだとか。


「そっかー。他の大陸を見るのは久々だったから、すっかり忘れてたよ……」


 三人のうち一番気づくのに遅れたリュイナはそう言って、あははと笑う。


「じゃあ、真っ直ぐに行こうか」

「うん」


 バルサが適当な進路を決めてから、バルサたちは〈空駆ける彗星〉に乗り、移動及び探索を開始した。

 音もなく浮遊し、砂漠の面に沿うように進む。

 見渡す限り同じ場所を、揺るぐことなく前進する。

 道のない地面の上を、ずっと、ずっとだ。


「………………ねぇ」


 どれくらい経っただろうか。少なくとも数キロは進んだであろうところで、リュイナが口を開く。


「町って、どこにあるのかな……」

「……」


 バルサはその問いに、しばし口を(つぐ)んだ。事実、バルサ自身も同じことを考えていたからだ。

 考えを構成してから行動をする人間にとって、未知のことを尋ねられるのに弱い。バルサも勿論、そんな人間である。

 町にある書物の情報を知識の主な蓄えにしていたが、他の大陸にある町の正確な地点はもうお手上げだ。

 自分が住む大陸以外に足を踏み入れた体験がなかったことに、自責の念しか持てない。


「ごめん。僕もどうすればいいのか、わからない」


 バルサはそう、不透明さが残る言葉を返した。

 このままいけば、どこかの町に着くとは思うが、絶対的な確信はない。

 ――と。

 突如、体に受けていた風圧が少しずつ緩やかになっていく。

 理由は明白。〈空駆ける彗星〉の推進速度が、徐々に下がり出したのだ。


「どうしたの? ミミア」


 バルサは機体の操縦者のミミアに尋ねる。するとミミアは、「ん……」と短く言って、前進するべき方角をじっと見つめた。

 何だろうと思い、バルサは身を乗り出す位置を変えて、ミミアと同じ方向を凝視する。

 ――蜃気楼(しんきろう)で視界ごと揺れるような錯覚になる、砂漠の風景。

 そこにほんの微かだが、煙のようなものを撒き散らす黒い点が映った。

 黒い点は、ゆっくりだがその姿を肥大させているように見える。後々気づいたが、これはものがこちらに近づいたことで起こる現象だ。


 それをバルサは理解した――その瞬間だった。


「……!」


 誰かが息を呑むような音がした直後、バルサたちの乗る〈空駆ける彗星〉が急激に傾く。

 一瞬の間呆けていたが、現状を整理する。巻き上がる砂塵(さじん)。横殴りの突風に、目の端で捉えた黒い影。

 結果だけを一報すると、先ほど視認した黒い点のような物体が、こちらの機体に急速に接近、直撃しようとしていたのだ。

 三人のなかでもミミアがそれにいち早く気付き、〈空駆ける彗星〉を反らしたことで何とか衝突は免れた。

 だが、起こった事態は終息してくれない。


「な、何なの、あれ!?」


 リュイナが慌てて言ったその刹那、バルサは能力向上の技『業術(ごうじゅつ)』を半ば無意識に開放。動体視力を上げ、今やすでに後方の遥か遠くで遊泳しているそれを細部まで確認する。

 推進力の基盤であろう巨大な噴射器が火柱を上げ、それを包んでいる歪な物体が空を斬る。

 その機体に繋がっている棒状の部位。そこに視点を集中させると――見えた。


 一人の人間が、迅速に進む機体に(すが)るようにして掴まっている、その姿を。

次回、新キャラクター登場です。

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