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ゾディアック・リドゥ  作者: 鎌里 影鈴
第一章 凡人と微睡みの少女
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第1話 一変

鎌里 影鈴です。

『ゾディアック・リドゥ』第1話を投稿しました。

時間に余裕がある方は、お手数ですが、暇潰し程度に読んで見てください。

よろしくお願いいたします。

 日が出始めたばかりの朝。微かに聴こえてくるのは、肌を撫でるように吹く風の音と、小鳥のさえずり。

 この町は基本的静かな場所だが、今日はいつもよりいっそう静かだった。

 そう思った少年は今、家の屋根の上で一人寝そべっている。

 前の方が若干伸び気味な髪は黒く、毛先は緑色。穏やかそうな目付きに、やや女の子っぽいと言われてしまいがちな顔立ちや体格。

 バルサ・オーガント。それが少年の名前だった。


「おーい。バルサ君ー」


 と、下の方から声が聞こえたので、バルサは屋根から地面を見下ろす。

 するとそこには、先程自分の名前を呼んだであろう少女が手を振っていた。

 バルサはすっくと立ち上がると、軽くジャンプして屋根から飛び降りる。

 そして少女の目の前で華麗に着地し、少女に視線を向けて挨拶の言葉を発した。


「おはよう。リュイナ」

「うん、おはよう。バルサ君」


 バルサの挨拶に少女――リュイナは笑顔で返してくる。

 肩口に掛かる程度の茶髪に碧眼。華奢(きゃしゃ)な体から伸びる腕や腰はほっそりとしていてどこか心許ない。が、表情から溢れ出そうな見事な笑顔が、彼女の存在を引き立たせかつ力強く見させている。

 全体的に可愛らしい容姿を持つリュイナだが、最も特徴的といえる部分は――鋭く尖った両耳。

 そう。彼女はエルフ。万年長寿といわれている種族であり、バルサの幼馴染だ。


「何か用?」


 バルサは用件を聞くため、リュイナに尋ねる。


「ううん。何でもないよ」


 しかしリュイナは、首を横に振ってそう言った。

 (ちな)みに、そのときの表情は誰が見ても笑顔そのものであり、特に瞳がキラキラと輝いていた。

 うん。絶対に何かあるな。

 悟ったバルサは、真偽を確かめようと問いただしてみる。


「本当?」

「本当」

「本当に本当?」

「ホントホント。バルサ君が起きてたら一緒に町のごみ拾いに誘おうとか思ってないから」

「……」


 本人は嘘を貫いているつもりだが、明らかにバレていた。

 バルサは半眼でリュイナを睨む。が、やがて諦めたかのように溜め息が混じった言葉を放った。


「わかった……行くよ。ごみ拾い」

「ホントっ!?」


 するとリュイナは瞳を一層輝かせ、途端にバルサの手を強引に握る。


「よし! そうと決まれば今行こう! 善は急げだレッツゴー!」

「ちょ、ちょっとリュ――」


 バルサが制止の言葉を掛ける前に、リュイナは風のような速さで走ってしまった。




「ふぅ……やっと終わった」


 案外早く終わると思われたごみ拾いは、実際の所昼過ぎになるまで終わらなかった。

 バルサが住んでいる町――サルファは他の町に比べて小さい筈だが、さすがに二人だけとなると骨が折れる。

 粗方の作業が終わったため、バルサは見晴らしの良い野原にある木の下で休息を取っていた。


「お疲れ様。バルサ君」


 と、バルサの視界に、こちらを覗き込んできたリュイナの顔が映る。


「大変だったよね。はい、お水」

「ありがとう」


 バルサはリュイナに水の入った瓶をもらい、口をつける。冷たい液体が喉を通り、小さな心地よさを覚えた。

 リュイナがバルサの隣に腰掛け、バルサはさほど気にすることなく、空を見上げた。

 雲が幾つもある青空。雲ひとつない青空とは違い、一つ一つ形の異なるものを観察する探求心が心踊らされる。


「……ねぇ、バルサ君」


 と、突然、リュイナが静かな声で話し掛けて来た。元気な彼女にしては珍しい。


「ん、どうかした?」

「えっとね……これ、よかったら、食べてくれないかな?」


 そう言ってリュイナが取り出したのは、竹の葉で編まれた包み。この国では竹は丈夫で保湿性が良いため、茎は建築材料、葉は食べ物を包む袋として利用されている。


「え、いいの?」


 バルサが問うと、リュイナは頬を微かに紅潮させながら首を縦に振った。


「じゃあ、有り難く……」


 バルサは包みを受け取り、紐をほどいて開く。中には、形の揃ったおにぎりが三つ入っていた。

 その内の一つを手に取り、口に運ぶ。


「ど、どうかな……」

「…………」


 リュイナが()くと、バルサは咀嚼した後、暫し無言になる。

 その反応をどう思ったのか、リュイナはほんの少しだけ肩をすぼめた。

 が――


「おいしい」

「え?」


 バルサの言葉を聞いた途端、リュイナは目を見開いた。


「おいしいよ。リュイナ」

「ほ、本当に?」

「うん。本当だよ」


 言うとバルサはおにぎりに視線を向け、再度食べ進める。

 その嘘のない様子を見て、


「……えへへ~」


 リュイナは安堵の息を漏らしながら、緩んだ笑顔を浮かべる。

 直後、リュイナは体を横に倒し、バルサの肩にもたれた。

 そのときにバルサは少しだけ驚きを見せたが、すぐに落ち着き、なに食わぬ顔でおにぎりを食べだした。

 それから数十秒後。リュイナが首を傾けて、バルサの肩に顔を乗せる。

 茶髪が頬にかかってくすぐったかったが、それでもバルサは何も言わずにいた。

 別段、付き合っているわけでも、バルサが特殊な性癖を持っているわけでもない。

 ただ単純に、慣れてしまっただけだ。

 そう。リュイナ(いわ)く、疲れると人にくっつきたくなるらしい。それも信頼できる人の肌に。

 幼馴染であるバルサは勿論、そのことを知っていたし、自分でいいならと妥協した面もあったため、このままにしていることがほとんどだった。

 バルサは気にせず、二つ目のおにぎりを手に取って食べ出す。

 しかし――それは迂闊(うかつ)なことであった。


「……ん? ――って、うわっ!」


 しばらくしてから、左腕が妙に締まっているなと思い、ふとそちらに視線を向ける。すると顔を寄せていたはずのリュイナが、両手をバルサの腕に絡ませて、体を押し付けていることに気づいた。

 突然のことに、バルサは困惑する。


「ちょっと、リュイナ……?」

「ん~~~~」


 空いている方の手で引き剥がそうとしたが、恍惚とした表情を浮かべたリュイナの力は強く、中々離れない。

 この状態は恐らくだが、リュイナの暴走だ。

 リュイナは、疲れると人にくっつきたがる傾向がある。が、あまりに疲労した量が多かったり、ストレスが溜まったりしていると、自然と人により深く密着するのだ。

 バルサの頬に、汗がだらだらと流れる。

 何となく、このままじゃまずい気がした。

 どうしたものかと考えている内にも、リュイナの締め付けが段々と強くなり、徐々に密着度が上がっていく。

 初めは肩に置かれていたリュイナの顔が首の方まで行き、呼吸が聞こえる程にまで迫っている。

 折れてしまいそうな細い腕はバルサの腕にぴったりと引っ付き、リュイナの上半身から柔らかい感触が伝わって来る。

 不味(まず)い。絶対にマズい。

 自分で言うのもなんだがバルサは健全な十六歳の男子。リュイナのような女子がこんなことをしたら、理性が崩れないわけがない。

 甘い匂いとソフトな感触に、()がたい苦痛と焦りを感じるバルサ。

 ぐちゃぐちゃになりそうな思考を巡らせて、リュイナの拘束を解く策を考える。

 ――その時だった。


「ふぁ……」

「……っ!」


 リュイナの(ゆる)みに弛んだ口から漏れた声が、バルサに強制的な行動を取らせた。


「おりゃあああぁぁああっ!」

「わああぁあああぁぁ!?」


 バルサは渾身の力を込めて、リュイナが掴む左腕を放り投げるように振り上げる。

 その結果、リュイナの両手の拘束が離れ、リュイナは空高くに飛ばされた。


「あ…………」


 一時の静寂が過ぎたのち、バルサは先ほどとは別の汗を垂らしたのだった。



 野原から数十メートルほど離れてみれば、背の高い木々が密集した森がある。

 バルサはそこに着くと、森の中に足を踏み入れた。

 所々に咲いた草花を避け、根に(つまず)かないよう注意を払いながら進んでいく。

 数分後。一本の木の前でバルサは立ち止まる。

 そして顔を上げると、木の枝に引っかかったそれに届くように声を発した。


「リュイナ、大丈夫ー?」

「……大丈夫じゃないよぅ」


 直後に「ふぇぇ~」という声を漏らしながら、リュイナは手足をぶらぶらさせた。

 その木によじ登って、バルサはリュイナを地面に降ろす。


「ふぅ、ひどい目に会ったよぅ」

「これに懲りたら、過度なスキンシップは控えてね」

「えーっ」

「なぜ残念がる!?」

「いいじゃん。減るもんじゃないし」

「僕の精神が削れるのッ!」


 バルサが悲鳴染みた声を上げると、リュイナは面白可笑しそうに笑った。

 少しばかり怒っていたバルサも、その屈託のない笑みを見て、思わず息をついてから笑みをこぼしてしまう。


 ――その時だった。


「……っ、()せて!」


 直感的に嫌な予感を感じて、バルサは瞬時に身を屈める。

 瞬間、地面を揺らすほどの大きな衝撃が起きた。

 衝撃によって生まれた突風が辺りを吹き飛ばし、さまざまな音が連鎖する。

 森は一瞬にして、土煙に(おお)われてしまった。



「ん……」


 気を失っていたバルサは、短く声を発する。

 徐々に瞳を開かせると、不意に太陽の光が差し込んだ。

 それに驚いて(まぶた)を閉じ、再度開く。

 ゆっくりと上体を起こし、煙を払うように首を振って意識を覚醒させると、外の様子を確認する。


「……っ!?」


 直後、バルサは戦慄した。

  理由は単純。眼前に広がる景色が、一変していたからだ。

 周りにあった木々は見る限り全て薙ぎ倒され、地面の至るところが隆起している。

 まるで嵐と地震が直撃したかのような光景に、バルサは絶句し、釘付けにされていた。

 しかしそこで――バルサはあることを思い出す。


「リュイナは……?」


 我に返り周囲を見渡すが、見えるのは荒れた景色と薄い土煙だけで、目的の人物の姿が見当たらない。


「リュイナ、リュイナ!」


 バルサは慌てて友達の名前を大声で叫んだ。何度も、何度も叫び続けた。

  と、


「ここ、だよぉ……」


 崩れて山のようになっていた木の中から、弱々しい声が聞こえてくる。

 そこに駆け出して、バルサは手掴みで木を取り外した。

 すると、ある程度外したところで見覚えのある顔が覗く。


「リュイナ!」


 大急ぎで(もつ)れた木や枝を壊して、バルサは横になっていたリュイナを引っ張りだす。


「大丈夫? 怪我はない?」

「うん。だいじょう――」


 そこまで言ったところで、リュイナはガクンと膝を折った。


「リュイナっ!」


 バルサは即座にリュイナを元に寄る。よく見ると、立てた方の膝が赤黒く腫れていた。


「いたた……どうやら、木にぶつけちゃったみたい」

「大丈夫? 立てる?」

「……ちょっと、厳しいかも」


 リュイナはその後、冗談めいたように「あはは」と笑う。誰がどうみても、痛みを我慢していることは明らかだった。

 バルサは背を向けて、地面にしゃがみ込む。


「ほら、おぶるから捕まって」

「うん、ありがと……」


 力無く言うと、リュイナはバルサの背におぶさった。

 立ち上がり、バルサは再び周囲を見渡す。


「一体、何が起きたんだ……」

「バルサ君、あれ……」


 と、リュイナが上の方を指差してくる。そちらに視線を向けると、青い光のようなものが立ち込めていることに気づいた。


「あれは……何かが落ちてきた?」

「たぶん、そう。――バルサ君。あそこまで見にいけないかな?」

「っ! 駄目だ、まずはリュイナの手当てを――」


 その時、リュイナが両手でバルサの肩をギュッと掴む。


「お願い……知りたいんだ。この森を、めちゃくちゃにしたのは何なのかを」


 そう(すが)って懇願する。それにバルサは、


「…………わかった」


 長い沈黙の後に、小さく(うなず)いた。



 足を前に出すに連れて、バキッ、バキッ、という音とともに木片が飛び散る。

 それに不快を感じても、足の踏み所がない場所では、致し方がないことであった。

 やがて、空気中に舞っていた土煙は消え、その頃にバルサは目標としていた場所に着いた。


「…………」


 無言でその景色を一瞥(いちべつ)する。何も言えなかったのは、その惨事があまりに現実味に欠けていたからだ。

 目に映ったのは、数十メートルにわたって陥没した地面。クレーターと化した大地そのものであった。

 ここに巨大な何かが落下したのであろう。ちょうどクレーターの中心に、それらしきものが見える。


「……もう少しだけ、近くに寄るか」


 言って、バルサは辺りを見渡す。近いところに、横倒しになった大木があった。

 そこに駆け寄って、バルサは背負っていたリュイナを大木の前に座らせた。


「リュイナ。僕が原因を探ってくるから、しばらくそこで待っていて」

「そんな……危険だよ」

「大丈夫。すぐ戻るから」


 そう微笑みながら言うと、バルサは(きびす)を返し、クレーターの方へと歩いた。

 数歩進んで、クレーターの外縁部分でふと足を止める。

 体験したことのない感覚。まるで異世界の入り口か、断崖絶壁の前に立ったかのような気持ちだ。

 勇気を出して、バルサは足に力を込めた。

 外縁部分のすぐにある内側は急斜面になっていたため、ジャンプして内側へと入る。

 着地して、(えぐ)られた地面の上を歩き進む。

 三分くらい経って、クレーターの中心付近にたどり着いた。

 そしてようやく、中心にあったそれがしっかりと見れる。

 全長は目算で三メートルほど。滑らかなフォルムに、宝石のような光沢を持った物体だ。

 先端が地面に突き刺さっているそれの色は全体的に青く、鋭利な形状に沿うように、白い光線が煌めいている。


「これは……」


 見たことのない物体に、バルサは唖然とした。他国の様々な文化を知るバルサでさえ、それが何であるか推測できなかった。


「…………」


 そう。推測ができない。だからこそ――余計に気になってしまう。

 未知の物体や事柄に、バルサは自覚するほど弱かった。

 何なのかを知りたい。そう思いはじめると、好奇心や探究心などが湧き上がっていく。

 危険かもしれないことも理解承知の上。しかし人間というのは、常に欲望に駆られる生き物なのだ。

 そう自身に言い聞かせ、バルサは謎の物体に手を伸ばしてしまう。

 しばし葛藤(かっとう)をしたがそれもむなしく、ついにバルサは物体に触れてしまった。

 瞬間――ガコン、と物体から音が響く。


「ッ……!」


 バルサは肩を揺らして、物体から距離を取る。

 直後、物体が淡く発光し、瞬時に視界を覆い隠すほどまでに広がった。

 反射的に目を(つむ)って、その光を避ける。

 やがて光が消え、瞼の裏でそれを確認したバルサはゆっくりと目を開く。

 刹那、バルサの瞳に突如あるものが映った。

 それは一瞬、光の球かと思ったが――違う。輝く光球の中に、人間がいたのだ。

 バルサと同い年くらいの、一人の少女が。

いかがだったでしょうか・・・・・・。

あまり文章に自信が無いので、誤字脱字があることはご了承願います。

拝見して下さり、ありがとうございました。

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