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ゾディアック・リドゥ  作者: 鎌里 影鈴
第一章 凡人と微睡みの少女
18/30

第17話 虚飾の傀儡師

最近、物忘れが頻繁に起きているからもう年かな。精神が。鎌里 影鈴です。

バトルシーンを少し含ませました。

これが吉となるか凶で終わるか、全ては読者の皆様と自分の腕に掛かっています。

「ただいま――って、いないのか」


 バルサが家に帰ってみると、そこには誰もいなかった。

 一拍遅れて、自分が返事を求めていた相手が、隣町(となりまち)に出掛けてくると言った出来事を思い起こす。

 いつもなら、ミミアが虚ろな表情でソファーに腰掛けているのだが、今日はその姿がない。

 数週間前まで一人暮らしだったはずなのに、今では受け答えが返ってこないことに少し心寂しさを感じてしまう。どうやら、自分は一変した生活を予想以上に気に入っていたようだ。


「……掃除でもしようかな」


 ふと、そんなことを思い付いたバルサは早速、部屋の掃除に取りかかる。

 壁際に立て掛けてある(ほうき)を手に取り、床に溜まった(ほこり)を掃いて外に出す。

 一通り済ませた後は二階へと向かい、先ほどと同じ行動をする。

 数十分かけて床の掃除を終わらせたバルサは、次は部屋の整理をしようと近場の寝室に入った。

 今ではすっかりミミア専用の寝室になっているが、部屋に置いてある家具はバルサが使用していた頃と全く位置が変わっていない。

 散らかった様子も特になかったため、窓を開けて換気だけ行うと、ベッドに腰を下ろして身体を落ち着かせた。


「ふぅ……」


 一息ついて、ふと思考を巡らせる。といっても、今考えることといえば、晩飯の献立くらいだが。

 家にある食材は確か、魚に野菜、パンと米は買ったばかりなので量を心配する必要なし。

 いや、リュイナが食卓に参加する可能性を考えると、少々おかず面に支障が起きる。念のため、軽く買い物を済ませた方がよいのかもしれない。

 二分ほど費やした思案の結果、バルサは近くの商店まで行くことを決断した。

 数分後、財布その他諸々入った鞄を持って外へ出る。

 ――と、


「そこの方、少しよろしいかな」

「はい……?」


 見知らぬ長身の男が突然、バルサに声をかけた。

 年齢は声音からして二十代。全身を漆黒の外套で覆っていて顔は認識出来ず、フードの右端から雨に濡れたような紫色の髪が飛び出ている。


「あの……どちらさまですか?」

「申し遅れました。私の名はイルム・セイィツェマン。傀儡師を生業としています」


 イルムはそう言い、頭を少し下げて紳士のように礼をする。

 だが素性の知れない人間に変わりはない。バルサは気を緩めず話を続けた。


「傀儡師の方が、僕に何か用ですか?」

「小耳に挟んだのですが、あなたは旅をしているらしいですね。それも――異世界の人間と」

「……っ!」


 バルサは途端に身を警戒に走らせる。バルサが旅に出ていることは町長と僅かな人しか知らない事柄だ。それに加えて、ミミアが別世界から来たという情報を知り、信じた人は皆無に近い。

 目の前にいる男から、突如として不穏な空気が(くすぶ)り出す。

 慎重に、さらに疑念の眼差しを向けながら不審さを増すイルムを睨む。


「そうですが、よくご存じですね」

「そりゃあ勿論、よく知っています。――星導の愛娘のことも、黄道十二星座のことも……ヒヒヒッ」


 イルムはそう言って、怪しげな高笑いを出す。両肩を上下に揺らし、フードから僅かに出た髪もゆらゆらと揺れる。

 こいつは間違いなく危険だ。バルサの直感が、そう結論づけた。


「貴方は……何者ですか?」

「ですから、ただの傀儡師です。この度は貴方に一つ、要望したい事がありまして」

「要望……?」

「今後一切、星座の回収を辞めて頂けませんか。出来れば、愛娘をこちら側に引き取らせてもらったり――」

「断る」


 イルムが言い終わるより速く、バルサは即答した。

 その行動に目を白黒させたのか、イルムは口を動かすのを止めた。


「そうですか、そうですか……」


 そしてまるで人形のように、同じ動作と言葉を何回も繰り返す。

 ――と、


「ならここで――消えてもらいましょうか」


 鋭い眼光がちらりと見えた刹那、イルムの足元から一体の人形が出現し、バルサに襲いかかった。


「……っ!」


 人形は人の腕ほどある剣を薙ぎ、バルサの首を狙う。

 その攻撃を、バルサは瞬時に腰を低くしてかわす。

 荷物を持った状態で地面に転がり、奇襲を仕掛けた人形とイルムから距離を取った。


「まさかかわすとは……意外に良い反射神経ですね」

「それはどう――っも!」


 隙を突いて、バルサはイルムたちから背を向けて駆け出した。

 戦闘が予測される状況を見て、人的被害が極力少ない場所まで移動するのが妥当だと推測したらかだ。

 バルサは足の力を緩めることなく、森林地帯の方へ向かおうとしたその時、上空に黒煙が立ち上るのが見えた。


「あそこは――隣町の……っ!」


 確か隣町には、リュイナとミミアが買い物をしていたはずだ。

 もし、まだあの二人がいるのなら……。

 脳裏に(よぎ)る沈痛を抑えながら、バルサは進路を隣町の方へと変えた。




「【狩人の密乱射(ボスコ・カーサ)】!」


 リュイナの掛け声とともに、風の矢が連続で放たれる。

 それを異形は、両腕の杖から出る火球で相殺させた。


「うぅ……中々倒れないなぁ」


 リュイナは言って、異形の方を見やる。

 今いる異形は、数週間前に対峙した鎧型の異形より遥かに強い。

 繰り出す技、動き、その全てが屈強の戦士並みの能力を備えている。リュイナ自身もこのような戦いは、人生で数少ない事だった。

 と、異形が二本の杖を重ねた瞬間、先ほどよりもひとまわり大きな火球が、リュイナに向かって発射された。


「ッ! 【山颪の輪口籠(ハウラン)】!」


 リュイナはそれを防ぐため、弓を持っていない手に風を纏わせ、巨大な(かご)型の盾を形成した。

 火球が盾に直撃し、互いに霧散する。

 だがこれで終わりではない。異形は立て続けに火球をばらまき、辺りを滅茶苦茶にした。


「やめてっ! そんなことしないで!」


 リュイナは矢を連射し、異形の攻撃を阻害する。それでも、異形に決定的なダメージは与えられない。


(遠距離だと隙を作らない限り、こちらが不利。――なら)


 意を決し、リュイナは地を蹴って異形に接近する。

 異形が無尽蔵に降らせる火球の雨をかわし続け、肩や頬を掠めながらも足を止めずに突き進む。

 そして異形の眼前に達した瞬間、弓を正眼に構え、矢に魔力を籠める。


「疾く穿て――【光風の鎗(ランサ・ティフォーネ)】!」


 瞬時に魔力を収束した矢を、異形の懐目がけて放つ。それはまるで、一本の光の槍のようだ。

 渾身の一撃は異形の胴を貫き、風が天に(とどろ)いた。


「ギ……ギ、ギ……」


 風の音が()み、胴部に穴を開けられた異形は歯車が擦れるような声を出す。

 そして赤い目から光が消え失せると、力無く腕をだらんと下げて動かなくなった。


「やった……の、かな?」

「――リュイナ……!」


 リュイナが地面に座り込むと、そこにミミアがぱたぱたと駆け寄って来た。


「ミミアちゃん。無事だった?」

「……うん」


 ミミアが小さく頷くのを見て、リュイナは安堵の息を漏らす。


「じゃあ、帰ろっか。町の人に早く事情を伝えて、建物とか直してもらわないと」


 弓を消失させてから立ち上がり、ミミアの手を引いてその場を離れ、自分の住む町に戻ろうとする。

 ――その時だった。


「キキキキキ……」

「っ! 何っ!?」


 耳に障るような金切り声。それが再びリュイナの両耳を震わせた。

 倒れた異形の方を見るが、異形には動いたような変化がない。

 ということは……、


「ミミアちゃん、逃げ――」


 直後、リュイナの背中に鈍い衝撃が襲った。


「がは……っ」


 突然の奇襲に対応する(すべ)も無く、リュイナは地面に体を打ち付ける。


「何……が……」


 意識が朦朧(もうろう)とする中、何とか顔だけを上げて周囲を見える範囲で確認する。

 すると、自分の前に一つの影を目視した。

 一つの赤い目に、滑らかな線を描く紫色の体躯。両手には暗器のような短剣がそれぞれ一本ずつ装備されている。

 またもや新たな異形が、二人の前に姿を現したのだ。


「ミ、ミア……ちゃん……速く……」


 ミミアに逃走するよう指示しようとするも、力が抜けて声を絞り出すので精一杯だ。

 一方のミミアというと、異形に(おのの)いているのか、身を硬直させて一歩も動いていない。

 その間にも、異形はミミアに近づいている。


(もう……駄目、なの……?)


 リュイナの心に諦観(ていかん)の亀裂が生じ、異形がミミアの肩に触れる――その刹那、


 突風が吹き抜けると同時に、一つの衝撃音が聞こえた。


「あ――」


 リュイナは目を丸くした(のち)、肩の力を落とす。しかしそれは、諦観に呑まれた故の絶望感によるものではない。予想外の展開による、歓喜溢れんがための極度の安心感だ。

 そう。リュイナの無意識と自意識、双方とも待ち望んでいた存在――、


「ミミア! リュイナ! 大丈夫!?」


 唯一無二の親友である人間――バルサの姿が、そこにいた。




 イルムという謎の傀儡師から何とか逃げ延びたバルサは、目の前にいる敵であろう生物に臨戦態勢を取った。

 辺り一面焼け焦げた森に、半壊状態の建物。どうやらリュイナとの戦闘は案外、凄まじいものだったと推測される。

 バルサは摺り足で移動すると、リュイナの元へ近寄り、倒れたその体を支えて起こした。


「いたた……ありがとう、バルサ君」


 リュイナは言って、小さく微笑む。心配かけまいと思っているのか、あえて苦痛の表情を見せない。


「我慢しなくていいよ。痛いでしょ?」

「うん――油断して、あの異形に不意打ち喰らっちゃった」


 リュイナの視線に合わせて辿っていくと、見たことのない生物がどこからか「キキキ……」と音を出していた。


「あれは、もしかして……」


 と、その時、灰になりつつあった森から、一人の人間が舞い踊った。――イルムだ。


「キヒヒ、もう逃げられませんよぉ」


 イルムは着地して早々、気味の悪い声を出してフード越しからバルサを見た。


「……んん?」


 そこでふと、イルムの目線がバルサからミミアに移ったとき、ぴたりと動きを止めた。


「あなたはもしや――星導の愛娘ですね?」

「……!」


 ミミアが肩を揺らし、一歩後退る。

 それを見たイルムは、愉快そうに笑い出した。


「キヒヒヒヒヒ! これは運命か僥倖(ぎょうこう)か。お久しぶりです愛娘。いや、こうして会うのは初ですかな?」

「…………」


 ミミアは押し黙るように、何も発しはしない。が、手や足元が僅かに震えていた。


「丁度いいです。愛娘と星座、それと辰星の器を貰いましょう。そうすれば――願いは我々の物に……」

「そうはさせないっ!」


 ミミアを守るため、バルサはミミアを背に隠した。


「少年、愛娘を渡してください。さもないと、消しますよ?」

「絶対に渡さない! ミミアは大切な友達なんだ。貴方のような非情な悪党に、そう易々と受け入れるわけがない!」

「ほう、悪党、ですか……」


 イルムはそれを聞いて、興味深いとでもいうように腕を組んだ。

 そしてしばらくして腕を(ほど)くと、軽く息を吐く。


「いいでしょう。確かに私は悪党です。愛娘奪還という目的を成し遂げられるなら、幾千の非道を尽くしましょう。しかし――」


 と、イルムはフードを脱ぎ、紫の髪を(あらわ)にする。


「私は悪党である前に一人の傀儡師。私の傀儡を傷つけた罪、骨の髄まで味合わせてあげましょう!」


 瞼を大きく開き、両手を盛大に広げる。するとどうだろう。イルムの影が面積を増したかと思うと、そこから鎧の人形が幾つも現れた。

 その数は三十、五十と無数に湧き出てくる。


「これは……!」


 良くない予感がしたため、バルサは撤退を試みるが遅い。気づいた時には、鎧人形に包囲されていた。


「キヒヒッ! さあさあ、『虚飾(きょしょく)』の華麗なる芸当、(とく)とご覧あれ!」

「虚飾……? ――わっ!?」


 聞き慣れない単語に違和感を感じたが、考えようとしているところで四方から人形が襲いかかってきた。


「くっ……どうすれば――」


 戦闘が困難な二人を庇いながら、バルサは素手で人形の攻撃を往なし、思考を回転させる。

 まず二人を守り抜くことを前提条件にして、さまざまな案を出す。

業術(ごうじゅつ)』を最大限使用して、全力で逃げに入る。――それではいくら【補強(グラーク)】しても、魔力切れで道中追い付かれるだろう。

 リュイナの〈自然概念(ボア・ヘグリフ)〉で武器を作ってもらい、対象を迎撃する。――根本的に不可能に近いとすぐ理解した。

 こんな窮地の中、明らかに自分の持つ手札が足りないことに後悔の念を抱いてしまう。


「はあ、はあ……」


 長い間考えながら休む暇もない戦闘をしているせいか、息を切らすタイミングが早く訪れてしまった。

 誰から見ても手詰まりなこの状況。どう整理しても、打開の糸口すら掴めない。

 ――その時だ。


「……〈願奇顕現(アウグーリオ)〉!」


 その言葉の直後、ミミアの体から淡い光が波紋状に広がり、人形に深く浸透していった。

 瞬間、光に触れた人形が急に停止した。

 或いは走ったまま、或いは宙に浮いたまま、まるで時間が止まったかのように、その場で静まり返った。


「バル、サ……」

「っ! わかった――『業術』!」


 呆けていた意識を振り戻して、バルサはミミアを腕に、リュイナを背中に乗せて術を開放させた。

 いつまでこの状態が続くか不明だが、もうこれしかないと心中で悟ったバルサは無我夢中で森の中へと姿を消した。

バトルになると上手く文章が書けなくなるのは経験不足が原因だと思っています。

読者様から見た率直な感想、お待ちしております。


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