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ゾディアック・リドゥ  作者: 鎌里 影鈴
第一章 凡人と微睡みの少女
15/30

第14話 悲哀の償い

正直焦ってます。鎌里 影鈴です。

今回はいつも投稿する時間に中々投稿出来ないがため、早めに記載させて頂きました。

自分の体力面を考慮し、これからの投稿期間は一週間に一回~二回、午前一時か午前七時くらいを目安にしようと思います。


前書き長くてすみません。本編をお楽しみ下さい。

 その日のバルサの目覚めは、良いものとは言い難かった。というより、睡眠を取ること事態、出来ていないような気がする。

 守るべき人を(あせ)らせ悲しませたのだから、気に病んで中々寝付けなかったのだろう。頭の中でそう解釈する。


「…………」


 自分のあまりの無力さに、悔やんでも悔やみきれない心情が脳を苛む。

 この罪は、最善を尽くして償わなければならない。


「やっぱり、あれしかないかな」


 バルサは脳裏にある考えを浮かばせると、ソファーから飛び起きた。


  ◆ ◆ ◆


 快晴の日のリュイナの朝は早い。特に用事があるからということではなく、単純に天気の良い日を長く過ごしたいからだ。

 窓を開けて朝日を目一杯浴び、着替えを済ませる。髪を軽くブラッシングして、時間に余裕があるから鏡の前に立って身だしなみを整える。


「よし、今日も頑張ろうっと」


 リュイナは自分を励ますような言葉を発すると、家の扉を開けて外に出た。

 直後、眼下に広がる森の景色を見て、気分が更に高揚する。

 巨木の上層部にあるリュイナの家は、地上から離れている分、遠くの景色が広く見渡せる。自然を愛する者にとってここは、まさに至高の場所であった。

 家を支えている木枝に固く結ばれた梯子(はしご)を使い、リュイナは数十分掛けて地上に降り立つ。

 本当に何もすることがない日なら、頃合いを見て昼間辺りにバルサの家へと向かうのだが、今日もバルサはミミアと世界を救うための活動を行うだろう。なら、リュイナも友達として同行すべきだ。

 リュイナはバルサの家ーー結局いつもと変わらないがーーに向かうため、足を動き始める。

 それからどれくらい経った頃だろうか。リュイナは自分の通る道の数メートル先に、走る人の姿を発見した。


「ん……? あれってーー」


 両目を凝らして、その人が誰なのかを確認する。腰元まである色素の薄い銀髪に、紫と青が綺麗に混ざった双眸(そうぼう)

 そしてーー見覚えのある可愛らしい服装。

 それはリュイナとバルサの友達、ミミアだった。


「ミ、ミミアちゃん!?」

「はぁ、はぁ……はぁ……」


 リュイナは驚きで声を上げた。それはそうだ。四六時中眠たい顔をした少女が、汗を流しながら慌てて走ってきたのだ。ただ事ではないことは、容易に想像出来た。


「ミミアちゃん。どうしたの?」

「っ……バ、バルサが……バルサが……いなくなっちゃっ、た」


 息が絶え絶えの状態で発せられたミミアの言葉に、リュイナは唖然した。




 バルサは少し大きめの鞄を肩に掛け、町の外に出た。

 鞄の中に入っているのは、数日分の食料に水と地図、護身用の短刀にルーチェ石。そして、辰星の器。

 辰星の器をミミアに無断で持っていってしまうことに、今さら罪悪感を抱いたバルサ。

 というより、誰にも内緒で星の力を一人で集めようという考えも、もしかして無謀ではないのだろうか。


「いや、もう考えるのは中断しよう」


 バルサは首を横に振ると、辰星の器を首に通した。

 ゆっくり息を吐き、探索を行うために計画を行動に写す。


「〈業術〉ーー開放」


 まず、内密且つ迅速に行動するには絶対的な速さが必要だ。〈空駆ける彗星(コメータ・シエル)〉を使うのが一番効率がよいが、あれを操縦するにはどうやら装置に搭載された魔力源と結合するシステムがあるらしく、ミミアとリュイナは問題なかったが、バルサは装置と相性が合わないらしく、扱うことは叶わなかった。

 だが、バルサはこれで諦める人間ではない。

 暇を潰すために我流で鍛えた技。〈業術〉。自身にある少ない魔力で身体能力を倍増させる、我ながら意外と使いどころが限られる技だ。

 それがこの度、初めて人のために使用する時が来た。


「両脚、視覚、【補強(グラーク)】」


 〈業術〉の力を両足と視力の強化に充填し、一気に開放する。

 バルサの姿は、瞬く間に数百メートル先の森林地帯を越えたその先にいた。


「……ッ!」


 突風が顔面に当たり、体勢が崩れそうになるが何とか持ちこたえる。

 今自分が出している速度は知れないが、恐らく飛行船よりかは速いだろう。


「待っててくれ……ミミア」


 これが自分に出来る、精一杯の償いだ。

 バルサはその後も空を飛ぶように、森を駆け抜けた。




「もう全く! バルサ君は自分勝手なんだから!」


 リュイナは半分怒り、半分困ったような表情をしながら町を走行した。

 その理由は単純。突如いなくなったバルサを探すためだ。

 ミミアの話によると、朝いつものように起床し、一階へ降りた時にはすでにバルサは辰星の器と共に姿を消していたという。

 その代わりに、机には一人分の朝食と一通の手紙が置かれていたそうだか、その手紙をミミアは読むことは出来なかった。

 それはそうだ。何せミミアは別世界の人間ーーつまり、こちらの文字を知らない。


「何で言葉はわかるのに、文字は共通じゃないのかな?」

「ごめん……わからない」


 何気なく言ったリュイナの発言を、後ろで走っているミミアは生真面目に答えた。


「とにかく、飛翔機を使ってバルサ君を見つけよう! たぶんバルサ君は、町の外にいる!」


 リュイナは力強くそう述べる。勿論、根拠があっての考えだ。

 辰星の器は、星の力を探知する唯一の道具(アイテム)。それをバルサが持っていき、一身で目的を果たそうとしているとすれば、全ての辻褄が合うだろう。


(でも、一体どうして……)


 ふと、そんなことを考える。

 バルサは物事に夢中になるとたまに思い込みが激しくなる癖がある。今回の件は、たぶんその一端だ。

 昨日ミミアが涙を流したことがきっかけとなり、バルサは自分で自我に負担を掛け、追い込み、結果一人で背負うことを選んだ。


「そんな生き方したら、いつか折れちゃうよ……」


 走る速さを変えず、リュイナは顔を俯かせて言う。

 町の外を出て、すぐ近くの森林に潜めてあった飛翔機〈空駆ける彗星〉にリュイナとミミアは搭乗し、飛翔機能を起動させる。

 球体の形状をした飛翔機はふわりと浮き上がり、上空を飛行した。


 だがしかし、二人は知らない。

 〈空駆ける彗星〉で飛んだ方向が、バルサが数分前走った方向と全くもって逆だということに……。


  ◆ ◆ ◆


 太陽が昇りきり、沈み始めた頃。バルサは一人、探索を続けていた。


「ぜぇ……ぜぇ……」


 時間にして約十時間ほどだろうか。業術を駆使しながらの探索は、肉体的にも、精神的にも疲弊を伴う。

 だがまだーー結果を出せていない。


「早く、見つけないと……早く、早く……」


 魔力は底をつく寸前、いい加減休息を取った方がよいと思うのだが、何でだろうか。バルサの意気が、それを拒絶する。

 がっくりと項垂れ、視線を下に向けたーーその時、


「……!」


 首に下げた辰星の器が、弱く白い光を放っていることに気づいた。


「まさか、この近くに……」


 バルサは器を手に持ち、辺りをうろうろと散策する。

 だが、現在バルサがいる周囲は木が一層生い茂った場所のため、どこに進めばよいのかわからない。


「取り敢えず、今いる場所を把握しないと」


 鞄から地図を取り出して、バルサ現在地を確認した。


「今いる場所はーーハーディーストの北部かな」


 それを理解した途端、急に疲れが嘘のように掻き消えた。

 目的が眼前にあることが、嬉々となって原動力を作り出しているのだろうか。

 残り少ない力を振り絞り、森の中へ足を踏み入れる。


 だがその刹那、身の毛がよだつほどの殺意を感じた。


「っ! 誰だ!」


 バルサは数歩後方に移動し、先ほどは感じられなかった殺意の正体を確認するために首を回す。


「キキギギ……」


 獣の呻き声が聞こえた直後、正面の茂みから一匹の魔物が飛び出した。人一人分の大きさをした、(むし)型の魔物だ。

 予測だが、あの魔物の縄張りに、自分が知らずして入ってしまったのだろう。ならば謝罪をしなくては。

 バルサは姿勢を正し、無断で他族の領地に立ち入ってしまったことに謝罪の意を示すため、頭を下げようとする。

 しかし、それは魔物が襲い掛かってくるという予想外の事態によって失敗した。


「……ッ!」


 バルサは反射的に身を反らして、顔を強張らせる。

 この国では、人間と魔物が互いを深く干渉しないよう、双方の内片方が他族の領域に許可なく侵入してしまった際、声や音などで『警告』を行うという暗黙の掟がある。

 それを無視する生物は、別の国から来訪した侵略者か、或いはーー、


「まさかこの魔物ーー『反逆化』している?」


 反逆化ーー草の国に住む者が、国の象徴である『平和』に反発の念を抱き、募らせた生物の成れの果てだ。

 バルサも昔名前くらいは聞いたことことがあるが、実物を見るのは初めてだ。


「キキ、ギギギギ……」


 反逆化した魔物はギチギチと節を鳴らし、こちらに詰め寄ってくる。

 バルサは戦闘体勢に入ろうと力を出す。が、体力をかなり消耗しているからか、上手く体を動かせない。

 瞬間、魔物がバルサの頭上を超える高さまで跳ね上がり、バルサの真下に落下した。


「くっ……」


 後ろに飛んでそれを紙一重で回避し、バルサは業術を使ってその場から逃れる。

 魔物は狂乱したような様子で、背を向けた標的を追いかけた。

 速さは僅差で、バルサの方が上だろうか。

 だがその行動も長くは持たない。魔力が尽きる前に、魔物から逃げ延びなければ……。


「ーーうわっ!?」


 そう思った直後、不幸なことに、バルサは途中で足を滑らせてしまう。


「キキギギ……」


 魔物の鳴き声が徐々に大きくなり、バルサに迫っていく。

 もう、終わるのか? 僕はーー何もしないまま、ここで?

 バルサの頭に本能的な絶望の声が響き、無意識にこれまでの記憶を呼び起こす。

 自分が生まれ住んだ町、森や川といった自然、最後まで受け入れることが出来なかった優しい人たち、そんな自分と友達でいてくれたリュイナーーそして、世界の命運という重荷を背負ったミミア。

 それらを全部おざなりにしたまま、バルサは死んでしまうのか。

 暗く沈んでいく記憶の中に、ミミアの泣き顔が浮かんでくる。

 結局、健気な少女を悲しませてしまった罪は、二度と償えないというのか。

 無意識の渦に漂う自意識の欠片が、その答えを導き出す。


 ーーいや(・・)それでは駄目だ(・・・・・・・)


「ぐーーああああぁぁぁぁぁぁっ!」


 歯を食い縛り、上体を無理矢理起こして魔物を睨む。その瞳は、もうすでに死の恐怖に捕らわれていない。


「まだ死なない、死ねないッ! まだ、僕は役目を果たしていないんだ。こんなところで……やられてたまるかぁぁぁぁ!」


 両目を血走らせ、自分が死ぬかもしれない恐慌を否定し、抗った。

 そんなことしても、何も起きやしない。常人なら普通はやらない、馬鹿げた行為だ。

 ーーけど、バルサは信じ願った。自分はまだやれる、ここで終わる訳がないと。


「キキキ、ギギギギィ……!」


 魔物が腕を高く振り上げ、とどめの一撃を刺さんとする。

 万事休すなこの状況。しかしバルサは微動だにせず、ただ前だけを向いた。

 魔物の攻撃が、バルサの首元に放たれようとしたその時ーー辰星の器が強い輝きを(あらわ)にした。


「! ……これはーー」


 突然のことで驚いたが、瞬時にそれが星の力が近くにあるということを意味すると理解する。

 だがそこで疑問が一つ、バルサは器が反応するまで大きな移動をしたわけでもなく、魔術を使った覚えもない。

 それなのに、どうして辰星の器はこうも変わった現象を起こしるのだろうか。


「一体何がーーっ!?」


 バルサが思考を深くしようとしたその時、光で一時の間怯んでいた魔物が再び動き出した。

 しかしバルサが息を呑んだ理由はそれだけではないーー魔物の後方に、何かが急接近してきたのが主な原因だ。

 何かは凄まじい速さでこちらに現れて早々、魔物に攻撃を仕掛けた。

 まるで、バルサを守るかのように。

 それは緑色の淡い光をした、見たことない生物だ。否、自立的行動をしているから『生物』と呼称したが、浮遊しているだけで目もなければ口と手足もない。

 精霊か言霊の一種だろうかと考えていると、それはゆっくりとバルサの元に近づく。どうやら、器から出る光に興味を示しているようだ。


「あーー」


 その時バルサは確信した。これの正体は間違いなく、黄道十二星座の一座であるとーー。

 星座は器の光と混じり合うと、吸い込まれるように器に流れていく。

 器には、十二ある枠の内一つに綺麗な緑の宝石が埋め込まれた。

 神秘的な光景が過ぎ去り、静かな空気が吹き抜ける風と共に流れる。


「えっと……成功したの、かな?」


 案外あっさりと事が進んだため、バルサは拍子抜けしていた。

 だけど、これだけはわかるーーバルサは一人で、星の力を回収出来たのだと。


「ギギギギ……」


 感慨にふけるバルサの前に、魔物が三度立ちはだかる。だが星の攻撃が効いていたのか、警戒してあまり近寄ってこない。


「バルサくーん!」


 と、そこに、聞き覚えのある声が耳を通り抜けた。

 遥か上空から、〈空駆ける彗星〉に乗ったリュイナとミミアが颯爽と現れた。


「捕まって!」

「うん……!」


 バルサは精一杯腕を伸ばし、リュイナが機体越しに出した手を掴んだ。


「ミミアちゃん。上がって!」

「わかった」


 ミミアは短く言うと、〈空駆ける彗星〉を離陸させてその場から一瞬で大空を駆け上がった。


「リュイナ、ミミア……ごめん、勝手な行動をして」

「もう全く、本当だよ! どれだけ心配したと思ってるの!」

「はい……ごめんなさい」


 もう、反論も言い訳も許されない。バルサはすぐに来るだろう制裁を覚悟して目を瞑る。

 だが、バルサの頬に伝わったのは手痛い張り手ではなくーー涙でしっとりと濡れた同じ頬の感触だった。


「でもよかった……バルサ君が無事で、本当によかった」


 自分を優しく抱き締め、顔を擦り付けてくるリュイナに、バルサは力無く微笑んで、その後意識を暗転させた。




予定としては、まだまだ書きたいのですが、この話で中編終了、一章閉幕(仮)になります。

読んで頂き、ありがとうございました。

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