第11話 草の大陸の王
作者、ただいま傷心中。鎌里 影鈴です。
まだまだ次元の両立に慣れていないがため、投稿が遅めになりました。
一応、目標としては9月の終わりまでに一章を完結しようと思っています(たぶん無理です)。
都市の住民サタカに連れられて、三人は街の通路を散策していた。
サタカを筆頭に、それに付いていくバルサ。バルサの服の袖を掴みながら歩くミミア。その後ろに周囲の景色を眺めながら歩くリュイナがいる。
現在歩いているのは商業区域らしく、果物や肉を売る屋台や雑貨店が見えた。
人間を初めとし、エルフや獣人などの他種族ががやがやと賑わいを見せている。
「一杯ですね・・・・・・人や、そうでない者も」
「ハーディーストは、ソラスンで一番の人口数だからな。ちなみに、国の発展率も一番だ」
サタカは自分の自慢話をしているかのように、都市の説明をしてくれた。
ハーディーストの名産物や観光に最適なスポット。宿や色んな店の場所まで教えてくれた。
中枢都市を尋ねてから一時間後。バルサ達はサタカのおごりでもらった、果実のジュースを飲みながら休息を取っていた。
左から順にサタカ、バルサ、ミミア、リュイナが横長のベンチに腰掛けている。
「ーーところで、君たちは何を目的として旅をしているんだい?」
ジュースを飲み干したサタカが、ついでとでも言うように訊いてきた。
「そうですね。僕らはーー」
と。言いかけたところで、ミミアがバルサの服をほんの少し強めに引っ張った。
何かと思いそちらを向くと、ミミアが服を掴んだまま、バルサの目をじっと見ていた。まるで何かを訴えているような、懇願しているような瞳だ。
ーーああ、そうか。
バルサはそれに気付くと、サタカの方に向き直り、話を始めた。
「僕らは、国中を回ってあるものを探しています」
「ほう。してそのあるものとは?」
「・・・・・・残念ながら、それを教えることは出来ません。ですが、とても大きなものです。サタカさんは、何か最近都市で変わったことや、気付いたことはありますか?」
そう言った後、バルサは口を紡いだ。
星の力や世界の危機を包み隠さず話してしまえば、情報が露見するし、何よりそれをまともに聞いてくれるかも半信半疑だ。
だからバルサは、敢えて重要な部分を隠し、出来るだけ慎重に情報を収集しようと試みた。
「うーん・・・・・・変わったことねぇ」
腕を組み、口をへの字にしながらサタカは押し黙る。
「すまん。特に思い当たらねぇや」
「そうですか・・・・・・」
結局、サタカから情報を得ることは出来なかった。
しかしサタカは「でも」と付け加え、言葉を続けた。
「『王様』に聞けば、もしかしたら何かわかるかもしれないな」
「王様・・・・・・?」
バルサは途端に首を傾げる。
王様と言えば、中枢都市ハーディーストの中央に居城を構え、草の大陸ソラスンを納めている、国の最高権力を持つ人物である。
「この国の王様のモットーは『全ての民に善き平和を』だ。事情を話せば、きっと力になって下さるだろう」
「わかりました。教えてくれて、ありがとうございます」
バルサはお礼を述べると、サタカに別れの挨拶を交わし、ミミアとリュイナと共に都市の中央に佇む城へと向かった。
幻間界にある十四の大陸の大半は、それぞれに王権というものが存在し、それを扱う王族がいる。草の大陸ソラスンも例外ではない。
グラスラージュ王家。ソラスン全土を支配し、民を守る人々である。
この王家は比較的穏やかな人が多いらしく、国内で起きた内戦は歴史上の記録にはない。
そのためか、草の大陸には『平和』という代名詞が付き、戦とはほど遠い世の中になっていた。
これに不満を抱く者は誰一人もおらず、ソラスンは平凡すぎる毎日が過ぎていった。
ハーディーストに一つしか存在しない一国の居城は、木と石が捻りあったような形をしていた。何でも、大陸の中央にあった巨木に、そのまま強引に城を建てたとか。
心優しいサタカという男と別れてから数分後、バルサ達は王の城の門前で足を止めた。
三メートルは超えているであろう、大木で出来た扉。その脇にいる二人の兵士と相まって、威圧感が増大している。
両足がすくみそうになったが、兵士に止められる覚悟で前へと進む。
「ーー何か用ですか」
「っ・・・・・・!」
いきなり話し掛けられたのでミミアが肩をビクッと震わせてしまったが、バルサは後ろ手でミミアの頭を撫でて落ち着かせつつ、その兵士に視線を合わせた。
「あの、旅の者なんですけど、王様に会うことって出来ますか?」
「旅の者が、王に何ようだ」
「少し、聞きたいことがありまして」
「・・・・・・・・・・・・」
沈黙が生まれ、重い空気がのし掛かる。
数秒そのままの状態が続くと思いきや、やがて兵士の顔が緩み、にっこりとした表情が浮き出た。
「ハーディーストへようこそ、旅の方々。王のところまでご案内致しましょう」
「え? あ、はい」
バルサが間の抜けた声を発したが、直ぐ状況に気付いて兵士に付いていく。
「・・・・・・なんか、すんなり入れたね」
「この国の人達は、皆優しいってことだよ」
後ろで小さく呟いた声に、リュイナが何故か満足げに答えた。
それはそれで別に構わないのだが、それでこの国をちゃんと成り立たせていけるのかが心配になった。
長い廊下を幾つも渡り、緑の絨毯が敷かれた螺旋状の階段を上る。
するとそこには、とても広くきらびやかな王室があった。
草の国を象徴とする緑の絨毯が一面に敷かれているのは勿論、太陽の日が満面に当たる大きな窓が壁に並び、天井のシャンデリアを初めとし、生活感が全くない豪華な宝飾が置かれている。
その最奥に位置する豪勢な椅子に、一人の男が読書をしながら座っていた。
年齢は二十代後半だろうか。短く切り揃えた金髪に細い垂れ目、温厚そうな顔立ちは、一国を納める王様というよりは、心優しい性格をしたごく普通の男性に見えた。
しかし、その男が身に付けている深緑の外套、そして胸の辺りにある『雛菊』の勲章。
それだけを見れば、この男が偉大なる人物であることは予想がつく。
「王。失礼ながら、少し時間を頂けますでしょうか」
「ーーはい。どうぞ」
兵士が前に数歩出て膝を折って述べると、王と呼ばれた男は読んでいた本を閉じ、顔を正面に上げた。
「こちらの旅の方々が、王に伺いたいことがあると言いまして」
「旅の方ですか、ご足労さま。私はソラスン八代目国王『タウリス・ソーン・グラスラージュ』だ」
「わ、わざわざご丁寧な挨拶、誠にありがとうございます。ぼ、僕の名前は、バルサ、です」
突然の挨拶につい対応が遅れてしまったバルサは、緊張のためか数度つっかえてしまった。
「ははは。そんなに畏まらなくてもいいよ、バルサ。そちらの女性達は、名は何と言うんだい?」
「初めまして、王様。私はリュイナ・アウォスラ。ご覧の通り、エルフの種族です」
「・・・・・・私はミミア」
タウリスが物腰柔らかそうに問うと、リュイナは慣れた様子で礼儀正しい挨拶を返し、反してミミアは緊張がピークに達したのか、普段聞かない早口で小さく喋った。
この時驚いたのは、リュイナが意外にも平然を保てていることだろうか。
「リュイナに、ミミアだね。三人共、質問ばかり悪いが、出身地は?」
「えっと、僕とリュイナはサルファという町で、ミミアは・・・・・・同じ町です」
本当ならミミアは別世界の人間なのだが、その辺りを話すといくら王様と言えども理解するのは限りなく困難に等しいと思ったため控えた。
「ということは、君たちは草の大陸出身なのか。ならーー」
タウリスは手に持った本を椅子の真横にある机に置くと、椅子に腰掛けたまま深く息を吸い、長く吐いた。いわゆる深呼吸だ。
心なしか、深呼吸を行ったタウリスは、身に纏った空気が更に緩んだ気がした。
「あの・・・・・・王様?」
「すまない。ここだけの話、他国の者だったら気を引き締めておいて、王の威厳を少しでも見せるのが癖になってしまってね。いやぁこれは失礼」
そう言いつつも、タウリスは椅子の背にもたれて脱力していた。これでは平和の王というより、怠け王だ。
「それで、君たちは、何か僕に訊きたいことがあるのではないかな?」
「はい。王様はここ最近、草の大陸に何か異変を感じたことはありませんか」
「異変? 七日前に君たちの出身地であるサルファに、未知の物体が確認されたことは先日報告を受けたけど・・・・・・あ、もしかしてそれ関連のこと?」
「いえ! そういう訳ではなくーーサルファで起きたことと似たような、例えば・・・・・・空から何かが降ってきた、とか」
「空からか・・・・・・」
タウリスは脱力した体に少し力を入れて腕を組み、考える仕草をした。
ーーそして数秒後、頭に出た結論を伝えるため、緩んだ口をゆっくり開く。
「結局、王様から星の力に関する情報は得られなかったね」
「うん・・・・・・」
王城を出た後、バルサ達は来た道に沿うような形で、都市の路地を歩いていた。
一刻も早く目的を達成したくても、特に向かう場所も、それに繋がる情報も無い。
まさに、無い袖は振れない状態だ。
「ねぇ、もう夕方だしさ、こう言うのは悪いと思ってるんだけど・・・・・・帰らない?」
リュイナが、申し訳なさそうに事案を出す。
確かに太陽は今現在西寄りに傾いている。あと数時間もすれば、あっと言う間に夜になってしまうだろう。
「そういうことは、ミミアに任せよう」
「・・・・・・!」
バルサにそう言われたミミアは顔をバッと上げ、まだ諦めないとでも言うように瞳で強く訴えるが、やがて項垂れるように肩を落とした。
「・・・・・・帰る」
ミミアの言葉を聞いた二人は同時に首を前に倒すと、サルファに帰るために転送機の元へ向かった。
常に目標は高く、という言葉は聞いたことがありますが、『高い』目標と『無謀』な目標は似ているようで全く似てないんですよね。




