5話
助力は得られなかった。
でも、あきらめるわけには、いかなかった。
しばらく、リリィは抜け殻のようになっていた。
時間は過ぎて。
あたりが暗くなる。
勇者は目覚めない。
モニカも、勇者と同じベッドにもぐりこんで、眠ってしまった。
リリィの意識は未だはっきりしていた。
体はくたくたなのに。
意識だけが、いつまでも覚醒を続けている。
ふと。
モニカのリュックが、視界の端にあった。
リリィはリュックから視線を外せなくなる。
あの中には。
お風呂道具と。
たくさんの服と。
それから――ギルドで死体から漁った、金銀財宝が、ある。
お金が、ある。
リリィはベッドをうかがう。
寝息を立てる勇者とモニカ。
起きそうにない。
リリィはリュックに近づき、こわごわと、中を漁った。
いけないことなのは、わかっている。
しかたないから、で許してもらえないのも、わかっている。
きっと、すぐにバレて、勇者に殺されるだろう。
ゴミみたいに。
それでも。
たとえ、許されないことをしてでも――母を助けたかった。
だから、つかめる限りの財宝をつかんだ。
詳しい価値は、知らない。
でも、ひとつかみの金があれば、きっと治療が受けられるとリリィは思った。
こっそりと歩いて、部屋の入口を目指す。
ドアを、慎重に、音が出ないように、開く。
そして。
「……ごめんなさい」
自分でも意識しないまま、そんなことをつぶやいて。
リリィは、部屋を出た。
人が一人消えた室内。
ベッドの中で、勇者はため息をついて、つぶやく。
「……ふん、踏み越えるぐらいの熱意はあるんじゃねーか」
どこかうらやむように。
あるいは――憤るように。