14話
音と光。
鳴り響くのは金属音、それから爆発と、なにかが砕ける音。
光は色とりどりだ。黒い空を背景に瞬いては消える幻想的な光景。
ただの亜人でしかないリリィに捉えきれるのはその程度の現象しかない。
きっと、もっと目がいい人であれば、勇者の剣と魔王の爪が打ち合う光景とかが見えているのかもしれなかった。
あるいは、そんな余裕など誰にもないのか。
魔王と勇者の戦いは、周囲にいる人にも甚大な被害を及ぼす。
二つの存在がぶつかりあうだけで震動と風圧に吹き飛ばされそうになる。
魔法なんて撃たれれば、実際に吹き飛ぶ。
人が死ぬ。
もののついでのように。
「やめて……やめて、ください……!」
リリィは衝撃で衣装をはためかせながら、叫ぶ。
その声を聞き届けたわけではないだろうけれど。
勇者と魔王は、いったん、動きを止めた。
勇者は武器を片手に立っていた。
瞳は相変わらず濁っているけれど、口の端が上がっていて、笑っているようにも見えた。
魔王は、表情が読めない。
血の涙は止めどくなくあふれて、ぽたぽたとこぼれ落ちている。
言葉はない。
会話ができるような存在ではないのだろう。
でも、勇者は魔王に語りかけた。
暗い瞳で、楽しそうに。
「なんて無意味で無価値な戦いだ。――非常にいい。お前と俺が殺し合う。人がゴミのように死んでいく。お前との戦いは命の軽さを俺に痛感させてくれる」
「……」
「真っ直ぐな復讐心、非常にグッドだ。この世界が俺にとって本物である実感がわいてくる。そこでだ。お前の復讐心を試してやる。いかに純粋か。いかに強烈か」
「…………」
「この世界で死んだ命は、俺の願い一つで甦る」
その言葉に、魔王はやはり反応しない。
代わりにリリィがおどろいた。
「甦るんですか……!?」
勇者はリリィを一瞥する。
それは魔王から視線を外すということだが――
魔王は動かない。
言葉の意味を理解したのか、それとも、勇者がなにかしているのか。
ともかく、勇者は言葉を続けた。
「そうだ。リセットすればすべて甦る。なにもなかったかのように」
「じゃあ……勇者様が簡単に人を殺すのは、甦るから、なんですか……?」
「そうだ。無価値きわまりない。この世界に呼び出されて、この世界は俺にとってのリアルになった。にもかかわらず、願えば一瞬で全部元通りだ。――クソすぎる。なにもかもに価値を見いだせない。二次元なら二次元、三次元なら三次元ではっきりしろっていうんだ」
「……」
「その中で美しいものがあるとすれば、それは、優れた容姿と、熱意だけだ」
勇者が魔王に向き直る。
それから、凶悪に顔をゆがめた。
「さて、リセットをする方法は二つある。一つは、俺が願うこと。もう一つは――俺が死ぬことだ」
「……」
「魅せてくれ、お前の熱意を。魔王の力程度で俺を殺すに足るかどうかを。願わくば、俺に死の危険を感じさせてくれ。俺自身の命にも価値はあるのだと、俺に思い出させてくれ」
魔王が吼える。
勇者は笑う。
それからまた、周囲をかえりみない戦いが始まり――
人が、簡単に死んでいく。




