欲しいのはあなたの言葉
いらない
『第35回鹿野町文学大賞金賞』
『第46回はるみ文学小説部門金賞』
『第52回木崎文庫小説部門金賞』
その他にも賞状や楯、受賞品が無造作に、そして雑に置かれてある部屋の一角。その部屋の主は起きぬけのベッドはそのままに、寝起きの格好のまま部屋の中央に置いてある丸テーブルの上にあるノートPCに何やら打ち込んでる。
時折手を止めて思案顔をしたかと思えばまたカタカタをキーを打って文字を入力して行ってる。ずれた眼鏡を直して、寝ぐせのついた髪はそのままにPCの画面をひたすらに見てる。
「はい、そこまでー」
「……うざい」
ノートPCを閉じて休止状態にし、薄暗い電気のついてない部屋の明かりを付けて窓を開けて乾気。起きぬけで放置されていたベッドの掛け布団をめくって入ってくる日差しにあてる。
「起きて早々、何も食わずPCいじるなって言ったよな? それになんだ、その寝ぐせ」
「うっさい」
そう言ってまたPCを使おうとするも、上から押さえつけて開けさせない。
だだを捏ねるこの女、未香の腕を掴んで強制的に部屋から引きづり出す。こうでもしない飲まず食わずでひたすらPCいじるからな、このバカ。
「今この時、かけていたであろう3479文字が……」
「バカな事言ってないでちゃんと歩け」
部屋から引きづり出した未香を1階のリビングの連れて行き、先に用意しておいた朝食を食わせる。進んで断食のような生活をするもんだからこいつには肉がついてない。だが胸はある不思議体形をしてる。ロクな食生活してなくても栄養面はそれなりに管理してるからか?
「チーズ味のブロックで十分」
「てめぇ、人さまが作った飯の間でよくいえるな」
ぶつくさ文句を言いながら食べ始めた。某栄養バランス食のストックだけは率先して行うバカは主食はあれでいいとか平然として言う。
「で、さっき郵送で送ったきたこれ」
「……どっかおいといて」
「あのなぁ……」
小説を書いてウェブに乗せるか、きまぐれで文学賞に送るもんだからこうして結果が来るわけだが、さっきも言ったようにその折角の賞もああして部屋の片隅に年末のゴミみたいに追いやられてる。
興味ないなら送らなきゃいいのにな。
「ん? 今度はなんだ?」
「今日はボイルの気分」
焼き目ついたソーセージをつつきながら言われた。そんなの知るか。
「……」
「……」
結局、飯食って早々に部屋に逃げ帰った未香はまた小説を書いてる。俺は俺で勝手に寝ぐせ直しをしてる。
不摂生がたたって傷んでいそうな髪。意外と痛みもなく寝ぐせを直せば綺麗なストレートになる……異様に長いけども。
「なんで他人に髪をいじられないといけないの」
との事で髪を切らないせいだけどさ。
「なあ」
「なに」
「そんだけ書いて大賞取ってまでしてまだ書くのか?」
きまぐれで出版社やらに送っては大賞を取る。過去に何回か本も出してるのにまだ収まらずに書き続けてる。
まるで脳の容量を超えた言葉を取りこぼさないようにその全てを書き連ねるようにひさすらに。
「ん」
「あ?」
ベッドの下に手を突っ込んで掴みだした物を渡された。そんなとこになんで置いてあんだよ……。
渡されたのはA4用紙でそれなりの厚みがある。表紙らしき紙の中央には題名と投稿名が書いてある。
本人に詳細を聞こうにも執筆中といわんばかりに画面にかじりついてるからとりあえず読む事にした。さてさて……。
「……顔が近い」
「読み終わった?」
一時、未香がカタカタとキーを打つ中俺は印刷されて妙なとこに置かれていた小説を読みふけっていた。
そして読み終わって顔を上げると、目の前に未香がいた。ものすんごい近い距離に。
「ああ、読み終わった」
「そう」
そしたまたPCに向かう。
感想を聞いてくるわけでもなく、それだけ聞いてきた。
「ねえ」
「ん?」
「……なんでもない。それ、返して」
「え? あ、ああ」
いつもならどっかおいといてなのに今日に限っては返せと。それといって変な事は書いてなかったけどな。
まあ、未香にしては珍しく恋愛物だったけどさ。
私の精一杯。言葉だけ、ちょうだい。