姉ちゃんによる突発的内装改造
姉ちゃん強し
「おかえりー」
「……」
どちらかと言えばシックにまとめてあった。淡々とした感じで配置されて家としては成り立ってたけども何かが恐ろしく欠けた間取り。
黒いダイニングテーブルは暖かみのある色合いのテーブルになってるし、ソファも白い革貼りだったのがアイボリーになってたり……。
リビングに一歩足を踏み込んでみれば今朝とは違う内装になってた。
「ね、姉ちゃん? これどうなってんの?」
「んー? ああ、重苦しかったから総入れ替えしてみた」
「と、父さんは?」
「電話で言ったら、じゃあカード使えって、番号とか教えてくれたよ」
貿易系の仕事をしてる父さんの趣味で彩られた家具。姉ちゃんは重苦しいって理由で総入れ替えしてしまったらしい。
てか父さんも簡単に許可だしすぎだろ……。
「とりあえず、そこのダイニングテーブルとソファはいれ変えた。とりあえずモノクロは排除の方向でやってるから」
カウンターキッチンで夕飯の支度をしてる姉ちゃんはさらっと言うけどさ、他にもまだいじるってことだよな?
「後は……食器棚に収納棚でしょ。後は……」
なんかぶつぶついってるけど聞こえないって事にしとこう。
「壁紙どうしよっかなー」
「それ、素人には無理だろ」
「業者呼べばいいでしょ、業者」
今現在の壁紙はなんの模様もない真っ白な奴。姉ちゃんはそれすらも替えてしまうらしい。
「色はともかく、なんか模様つきのにしようかな」
「カードって言っても限度額あるだろ」
「父さんのカード、これだから」
「……そっか」
姉ちゃんがエプロンのポケットから出したのは黒いカード。人によっては戦闘機も買えるくらいの上限になる魔のカード。
姉ちゃんはカードを無造作にポケットにしまうと、夕飯を食べ進めた。夕飯中にあんなもん見るもんじゃない。というか父さん、なんでブラック持ってんだよ……。あれだろ、ゴールドカード定期的気に使って支払い遅延なしとか審査いる奴だろ、あれって。
「まあ、フローリングはこのままだとして」
「姉ちゃん、そこまでやったらリフォームだから」
「んーそうだねー。……カーテン一式替えるか」
真っ白けなカーテンもレースカーテンもお気に召さないらしい。でもカーテンって高いよな……。
「まいいや、明日ホームセンター行くから」
「? いってらしゃい」
「あんたも行くにきまってんでしょ」
「まじで?」
「カーテン一式に食器棚、収納棚も買ったし……あとは」
「……」
姉ちゃんは昨日言ってた家具一式をまじで買った。そして配送手続きもやってどこやらい脚を向けてる。
なんだ、今度は一体何を買う気なんだ。
「うちの庭さ」
「あ? ああ、庭がどうかした?」
「広い割には殺風景よね。シンプルすぎて何もないし、手入れが面倒って見るからにわかる庭」
「でも実際、あの庭無駄に広いだろ?」
「別に全部に手をいれなくても一部くらいなら手に負えるでしょ」
そう言いながら付いた場所は園芸コーナー。確かに庭をほじくりかえしたらそれくらい出来そうだけどさ。
「じゃあこれ」
「なんだよ……え?」
渡された紙には園芸用土と食物野菜用の土などなど、あれこれするのに必要であろうものが書き連ねてあった。
「私レンガ見てくるからそれカートにいれといて」
「え、ちょ」
姉ちゃん。気のせいじゃなかったら眼の前に積んである土袋、1個10キロって書いてあんだけど。それを3袋ずつって事は計60キロ。で、その他のもいれたら……。
結果的に言えばカートに積んではみたものの、その重さで動く事無く動く範囲の量を積んでレジを往復した。
姉ちゃんの車に積み替える時は死ぬかと思ったけど。レンガはもう持ちたくない。
ぐったりしながら姉ちゃんの車に揺られて家に帰る途中、某バーガーショップのドライブスルーで姉ちゃんが適当に買い込んだジャンクフード家に着くなり強制的に食わさせられ、作業着っぽい服に着替えさせられ庭に連れ出された。
なんとなく予想はできる。すんげーやりたくない。
「あそことあそこの2か所、菜園と花園にわけるから」
「あー、どうりで」
花の苗を数種類に野菜の種や苗も数種類、今日は買いこんでる。
「じゃ、始めるわよー」
そうして庭の改修工事が始まった。
まずは菜園設置予定地をシャベルで掘り起こして買ってきた土や農作肥料とかと混ぜて土壌を作成。で、次に花園用に買って来たレンガで枠を作る……ガチ勢のような雰囲気が出て来た。枠を作り終わってからは単純で、買って来た苗を等間隔に植えるだけ。
種とかは発芽させてから植えるらしい。
ここまで簡単には言ってるが、時間にすれば3時間以上かかってる。土掘り返すにしても地味に硬いし土や肥料混ぜるにしても均等になるまでが長い。
で、レンガ積みもさっき言ったようにガチでやった。
レンガを敷く所の溝を掘って土台になる路盤材の作成。これを作るに至ってセメント材一式も買ってる。
で、レンガを積んでハンマーで叩いて慣らしてを繰り返して積目からはみ出て来たセメントを削ぎ落して……。
「で、花園はレンガのセメントが固まるまでなんもできないんだろ?」
「菜園ならウネを作ればいいじゃない。ほら、そこにクワもあるし」
「……」
姉ちゃん、どこまでガチなんだよ。
おとなしく土壌の出来てる菜園の方の土にウネを作る……自給自足でもやろうって言うのか?
「ん、じゃあ菜園の方は先に苗植えましょうかね」
「へいへい」
買って来た苗を等間隔に植えて水やり。あの使う時に伸びて使わない時は縮むあのホースも買ってる。
「こんなもんかな」
「なあ、姉ちゃん」
「なによ」
「いきなりどうしたんだよ。重苦しいって言ってもここまでやるか?」
父さんのカード払いとは言っても結構な金額使ってるしさ。
「暗いのよ」
「暗い?」
「玄関入ってリビングに入って、キッチンに入っても気が滅入るのよ。この家は。色がないし暗いし。言っとくけど、あんなもそんな顔してるからね」
「俺も?」
「そ。家に入る時は大抵くらーい顔してる。まあ、そんなんだから姉ちゃんが一肌脱いでセンスないモノクロインテリを一新しようって事」
そんな暗い顔してたのか、俺。
一切自覚なかったな、それは。
姉ちゃんのそんな思いを聞いた翌日、配送を頼んでた家具が届いた。とはいってもそれまでにやってた前準備がクソしんどい。
食器棚から入ってる食器類を全部取り出したり、収納棚の中身を取り出したりと交換する家具の中身総入れ替え状態。
そして今度は新しい家具に引っ張り出した物を収納しなおすという手間。もう朝からぐったり。
「……」
「どうよ、色見ある家は」
「かわるもんなんだな、これ」
モノクロで統一されてたリビング内。
今となってはアイボリーのソファに、木製ならではの色合いのダイニングテーブル。食器棚に収納棚、ライトブルーのカーテン。
無意識のうちに息苦しくなってた家の中。今となってはどこに目を向けても必ず色が入るようになった室内。
「なによ、いい顔しちゃって」
「……うるせ」
息が詰まる家の解決方法?