天空の塔
[天空の塔]
そこは半獣界で最も空に近いとされる場所。
そして、そこに立つ黄金色に輝く髪を揺らす一人の少女。
「よし。問題なし。」
塔で一番大きな窓を最大限まで開け、窓の向こうに手を伸ばし、大きく深呼吸して彼女は言った。
夏の終わりを告げるように秋の虫達が鳴いている。
夏から秋に季節は変わろうとしている。
ギィー
天空の塔の入口のドアは古い上に風雨による影響で開けるたびにギシギシとなる。
「やはりこちらでしたか。ソニア様。」
黒い髪に黒縁眼鏡の男がそう言って入ってきた。
「アイビー。」
ソニア様と呼ばれた少女は男の方に振り向いてそう答えた。
「いくらまだ夏であると言えど、このような時間にここにずっといらしてはお身体が冷えてしまいます。」
「大丈夫よ、アイビー。でも、もう部屋に戻る。」
少女は開けていた窓を閉めた。
「かしこまりました。」
「明日は晴れるよ。もうじき秋が来る。」
ギィー
男はドアを開けた。
「また、読んでいたんですね。」
「それが、私にできることだから。」
そう言った少女の目は力強かった。
「でも、無理はなさらないでください。」
男は真剣な表情で少女の目を見て言った。
怖いくらい真剣な表情で。
「わかってる。」
少女も真剣な表情で男を見返す。
男はほっとしたように笑った。
「そう言えば、明日の朝食後、陛下からソニア様に何やらお話があるそうです。」
「私に父が?」
忙しくてあまり時間の取れない少女の父親。
「はい。私も良くは知らないのですが。」
「なら、久々にお話できる。今日は早く寝ないと。」
「そうですね。今日は早くお休みの準備をしましょうか。」
「よろしく、アイビー。」
「かしこまりました。」
そんな会話をしながら、二人は部屋へと戻っていった。