第八話 『 消された女 』
翌日……
戦場むくろの自宅を後にした創は寄り道する事無く帰宅。ナツは母親に車で迎えにきてもらい、亮介の入院している神田病院へと向かった。高橋とは駅でお別れ。そして翌日。
此処は創の部屋。時間は午前6時05分。ベッドから重たく感じる体を起こす創。
「あ~あ……最近部屋片付けして無かったな」
自分の部屋を見渡して改めて部屋が汚いと自覚していた。時計を見るといつもより30分も早い朝。洗顔をちゃっちゃと済ませて、着ていく服を決めて携帯を片手に母さんに朝の挨拶。以下創と創の母親の会話より。
「あらハジメ」
「ういーっす」
「おはよう。今日は早いのね?」
「何か目が覚めちゃってね」
「そう」
「母さんは仕事から帰ったばかり?」
「うん」
「そっか」
創の母親は夜勤の仕事をしている。一言で言うならスナックで働いてる事になる。朝ご飯の支度は夜勤帰りの母親がそのままやってくれている。
「それよりあんた、昨日大丈夫だったの?――なっちゃんから聞いたわよ。また倒れたんですって?」
「ああ……それの事」
「最近多いんじゃない?」
「大丈夫だよ母さん。倒れたって言ってもいつもと違ってほんの数分程度だから」
「また先生に診てもらわないとね。次の診察日は明後日だから忘れないようにして頂戴ね」
「分かってるって」
「最近この有馬でも物騒な事件が続いてるんだから、外出の際は無理はしないこと、良いわね?」
「うん」
「あーあー嫌になっちゃうわよね。最近のテレビは有馬駅の事件の事ばかり」
「母さんも気をつけてくれよ。主犯の貞子と二名の部下はまだ逃亡してるんだし」
「――ん、あら。あんた昨日ニュース見てなかったの?」
「ニュース?」
「その貞子って子、昨日逮捕されたのよ」
「え、そうなの!?」
「昨日のテレビは戦場貞子の逮捕ニュースですごかったんだから!」
戦場貞子が逮捕された?……し、知らなかった。そうか、逮捕されたのか。これで有馬市も少しは光が見えてきたな!――ナツと高橋もこのこと知ってんのかな?――今日聞いてみよう。
「どうしたのハジメ、何か思いつめた顔してない?」
「――ん。ああいや別に」
今日の朝食は目玉焼きと唐揚げと小皿に和ドレのサラダだった。これは舞園家の朝食の定番中の定番。笑わないで聞いてくれ。創の一番好きな食べ物は目玉焼きだ。
時間は進んで学園登校中。創とナツはいつもの待ち合わせ場所で合流し、駅で高橋と合流していた。以下3人の会話。
「いやぁ本当に良かった、戦場貞子が逮捕だなんて!」
「そうね、これで少しは有馬駅にも活気が戻るかしら?」
「最近の有馬駅の夜は人っこ一人いない感じらしいもんな」
「あの」
「ん?」
「えっと……やっぱ良いです!」
「――ええ!?――何だよ、その気になる言い方ー!」
「あ、後で言います!」
「えー何だよー!――余計気になるじゃん」
「後で言ってくれるんだから良いじゃない」
「はいよ……」
何かを言おうとして辞めた高橋。後で言ってくれるらしいが。
希望ヶ丘学園が見えてきた道中にて同じクラスの〝あの女〟に会った。以下創ら3人とある女の会話。
「お前は」
「おっはーっ★アオだよ!」
「お、おおおはようございます!」
「何だよお前、昨日の事ならもう良いだろ」
「――昨日のこと!?――はて??」
「僕らが戦場むくろをかばった話だよ」
「ん、んんん?……そんな事あったっけ?」
「――は?」
創と椎名葵の会話を聞いているナツが舌打ちをする。
「げっなっちが怖い顔してる!――ひょっとしてアオ、今何かまっずーい事でも言っちゃった系!?」
何だこいつ、朝からこのハイテンション。それにどういうつもりだ。昨日の朝A組の生徒達がやった戦場むくろへの嫌がらせを忘れたとでも言うのか?――それともまた、また記憶が!
こういう場面に出くわす度に疑う自分の記憶。思わずナツに聞いてしまう。
「な、なぁナツ?――ひょっとしてまた僕の記憶」
「安心しなさい、ハジメの記憶は正しいわ。彼女が勝手に忘れてるだけよ」
「忘れてるってな、ななんあななん何をでしょおか!?」
「昨日あんたたちA組のみんなで戦場むくろの机に落書きしたり、ペンキぶっかけたりしてたでしょ!」
「ホワッツ?――昨日の事を言ってるんですかムスカ?」
「馬鹿にしないで!」
「ちょ、ちょちょちょちょいなっちゃん、いやなっさん!――そいつは誤解ッスよ!」
「誤解?」
「ア、アオはあんな馬鹿げたことに協力した覚えはないッスよん♪さん♪にー♪いち♪あんなの堂ちんが計画してただけのことでぇ~アオには関係ないもん!」
椎名の話をまとめる創。
「――なるほどな。必ずしも全員であのイタズラに参加したわけじゃないって事だな?」
「当たり前じゃんジョンレノ、ジャンレノ?――むしろ反対したり止めたりしてる生徒の方が多かったっすよん♪さん♪にー♪いち♪」
「なるほどね」
「アオ馬鹿だから気に障った事言ってたらこの通り!――ガチマジでメンゴ申すっす!」
ガ、ガチマジでメンゴ申す??
「――お前名前なんていったっけ?」
「アオのことはアオって呼んでね!――それ以外は受け付けまっ千♪万♪億♪兆♪無限!――うん嘘、やっぱ受け付けちゃうあはん♪」
「あ、あお?」
「イエス!――JKブランドに賭けて嘘は言わねぇっすざわっす、ざまっす!」
「――よ、よく分かんないけど何か悪かったな。僕達、お前の事勘違いしてたみたいだ」
「良いっすよ!――ここはお互い様っちゅーことでちゅーべるとで落着ってことで!」
「何だか朝から元気ですね?」
「待ってストオップ!!――イケメン発見ほな行ってくるくるくる!」
「――変な奴だな」
「うん」
「――良いなあ、早口」
「高橋……」
少し時間を進めて。創らは教室に着いた。どうやら今日は教室内では何も起きていないようだ。
「ふう……」
ため息をついた創はすぐに自分の席に着く。ふと横を向くと堂島と目が合う。
キンコンカンコーン――チャイムと同時に担任の青葉先生が教室に入室した。
青葉先生を見ながら心の中で呟く創。『先生、昨日はありがとう』しかしどうしたものか、青葉先生の様子がおかしい。何か思い詰めているように見えるが。生徒達は皆自分の席に着席していた。しばし沈黙が続く。
「セーンセイ?」
椎名葵が先生を呼んでみるが反応は無い。
「青葉先生?」
「――ああ、では朝のホームルームを始める。が、その前に皆には報告しておかねばならないことがある」
様子のおかしい青葉先生にポカーンとして見ている生徒達。
「実は、君たちのクラスメイトにして不登校少女の戦場むくろさんの事なんだが……」
戦場むくろという名前を聞いた瞬間背筋が凍った。ほとんどの生徒達がそうであろう。次に聞く先生の言葉は、彼らにはとても信じられる内容では無かった。
『戦場さんは昨日……亡くなった』
青葉先生の発言に驚きを隠せない生徒達!――と同時に一人の男子生徒が立ち上がる。堂島快跳だ。
「何だと!?」
青葉先生から聞いた言葉を真に受ける事が出来ない創はナツを見る!
ナツもきっと同じことを考えているに違いない!――だって戦場むくろは……あの時の足音は戦場むくろの足音なんだろう?
「先生、その話本当なんですか?」
「ああ」
「く、詳しい話を聞かせてくれ!」
堂島が先生に問い掛ける。
「私から説明出来るのはこれだけだ。以上、本日のホームルームは各自自由行動とする」
そう告げて教室から出て行ってしまった青葉先生。すぐに青葉先生を追いかける創!
「青葉先生待って下さい!」
「――ハジメ君。君は石川さんと高橋さんを連れて放課後に職員室まで来てくれ。話はそれからだ」
「――分かりました」
ナツと高橋も既に廊下にいた。
「先生、何て言ってた?」
「僕ら三人は放課後職員室に来るようにだとさ」
「そう」
創ら三人は昨日戦場むくろの自宅を訪問している。きっと昨日の出来事について何か聞かれるのであろう。
「パトカーですね」
廊下から窓の外を見下ろすと、校門前には二台のパトカーが停まっている。
「――どういうことだ……」
戦場むくろが死んだ?――何で?――何処で?――どうして?
創の頭の中は、戦場むくろが死んだ現実に対する疑問で埋め尽くされていた。どうしてだろうと考えているうちに過ぎる悪い予感。戦場むくろの自宅で聞こえた女性の声。彼女の助けてと訴える言葉を創は聞いていた。気が動転してしまい、目を背けてしまった悪夢。戦場むくろが死んだ。つまりあの女の声の正体は……
「彼女は助けを求めていたんだ……」
どう動く舞園創!?
※後書き
台詞の名前表記を無しに変更したので、名前表記が残っているようでしたらご指摘お願いします。