第四話 『 有馬駅連続殺人事件 』
エピソードⅠに入ります。舞台は有馬駅連続殺人事件の一部始終より。
ナツの身に一体何が!?
ひたすら有馬駅を目指して走っている創。右手には携帯電話、ナツとの通話は一旦切り、警察に通報してから再度ナツの自宅に電話する。ナツの母親に自分の知る限りの全てを手短に話し終えると、母親から要求されたのは以下の内容。
『娘をお願いします!――何処でも良いのでなるべく遠くへ逃げてください!――私も有馬方面に向かいます』
車を用意してくれるらしい。早い話が創とナツを拾い、そのままナツ母の車に乗せてもらうという事だ。
ナツ母がパニック状態になってしまったのは僕のせいだ。連絡はするべきではなかった。くそっ!
「ハアハアハア……」
こんな時間まで亮介と何で有馬駅にいるんだよ!――それに、亮介が刺されただって!?――そ、そんなバカな話は絶対に、くそっ!
ナツに電話。
「ハジメ!」
「良いかナツ、俺の話をよく聞け!――お前のすぐ傍に犯人がいる」
「…………」
「ナツ、聞け。亮介はすぐに救急車に運ばれるからお前はとにかくそこから離れろ!」
「え?」
「お前はとにかくそこを離れるんだ、良いな?」
「――い、嫌だ!亮介を置いていけない!」
「くそっ!」
ひたすら走り続ける創。――とその時、救急車の音がかすかだが聞こえてくる。
「救急車!――よし、ナツ聞いてるか?」
「うん」
「お前の近くに救急車は来ているか?」
「来てない」
創は腕にしている時計を見る。ナツの叫び声を聞いてから5分が過ぎている。
「警察はまだなのか!」
「誰もいないわ」
創は、ナツとの電話を無言で切り、警察に二度目の連絡をする。すぐに現場に向かっている警察官との通信を始めた。
「君は……」
「場所の特定はまだなのか!?」
「それは……場所の特定までは出来たんだがその、彼女の居ると思われる場所に入る方法が見つからなくて」
「――どういう意味だよ!」
「複雑に入り組んだ建物内から電波を受信されているもんで、手間取っている」
「ナツは何処かの建物内にいるのか!?」
「駅ビル地下のトイレに閉じこもっているようだが」
「駅ビルの地下?」
『爆破装置が仕掛けられていて、こちらも動くに動けないわけで』
「――爆弾?」
発信先の警察の周りで人の叫び声が聞こえ来る。その際に何か〝大きな物〟が落ちるような音がした。
「何事だ!?――くそっ、ハジメくん!――君は、余計な事はしないでくれ、後は我々に任せておけば良い!」
通話が一方的に終わる。
「なんだなんだよ……ハアハア……」
爆破装置が入り口に仕掛けられているだって?――ふざけるな!――そんな異常事態にナツが立たされているってのか!
――悪夢は突然現れる。それはまるで未来を予知したかのような微笑みを帯びた邪悪な濁り。絶望的に暗くて先の見えない螺旋階段。あの日登った幼い頃の彼のような。
そうこうしている間に有馬駅が見えて来る所まで来た創。そこで不意に携帯電話が鳴る。連絡相手はナツからだ。
「もしもし」
「こっちに来ちゃ駄目だからね!」
「え?」
「私と亮介は警察に無事保護されたわ!……ご、ごめんなさい、気が動転してあなたを巻き込むところだったわ!」
「――入り口にある爆弾はもう解除してあるんだな?」
「よく分からないけど無事だからお願い!――今すぐ引き返して!」
「石川さん、ちょっと変わってくれるかな!――ハジメ君だね?」
「はい」
「良いかい、殺人犯はまだ逮捕された知らせが届いていない。ハジメ君は今どこにいる?」
「有馬駅の前にいます」
「君はすみやかに駅から離れるんだ、良いな?」
「は、はい!」
ひたすらに走った。ただただ走った。殺人犯が怖いとかではない。怖くないと言えば嘘になるけれど、それ以上にナツが救出されたことで興奮状態になっていたのだ。
「ナツ、良かった!」
良かった。良かった。――ん?
足を止める創。
「ハアハア……ハ……」
一台の車が創の目の前に停める。その車から〝誰か〟が降りてきた。
「ハジメ君!」
さっそくナツ母が駆けつけて来たみたいだ。
「ナツは、ナツは何処にいるの!?」
「ナツは……ハアハア……警察に保護されました!」
ナツ母は笑みを浮かべ僕の体を強く抱きしめた。
「ナツは無事なのね!?」
「はい、もう大丈夫です!」
――本当に無事で良かった!
その後ナツ母の車に乗せてもらい、有馬駅を離れた創。亮介は有馬市の神田病院へと送られた。ナツは事件後も警察による事情聴取で厳しい一夜を過ごした。その日結局犯人の逮捕は出来ずに終わったらしく、有馬市は恐怖と絶望の夜を過ごすこととなる。この事件をきっかけに、有馬駅連続殺人事件は連日ほとんどの情報機関から大きく取り上げられる事となる。
数日後……
『有馬駅連続殺人事件。主犯は戦場貞子(15)容疑者。動機は特になく無差別殺人という警察の見解』
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重要人物 戦場 貞子(15)
女性 168cm 43kg
赤いマニキュアをしていて爪は長い 背中に刺青が彫られている
刺青柄は、コンパスと定規で三角マークの形をしていて
その中央上に人の目があるものだった(後に挿絵で紹介)
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上記重要人物情報は後に主人公の舞園創も手に入れます。
次の日の朝。有馬駅連続殺人事件に僕らが巻き込まれてから、既に5日が経っていた。今日からナツも登校する事になっていたので、創はナツとの待ち合わせ場所に向かっていた。待ち合わせ場所に着くと既にナツが居る。
「あれ?」
「おはよう」
「早いじゃん」
「うん」
「それじゃー行こうか」
創は迷っていた。事件について聞きたい事は沢山あるのだけれど、彼女は事件に巻き込まれてひどく傷付いたに違いない。そういきなり話を振ってあげては可哀想だと思っていた。でも、ナツには亮介が事件に巻き込まれた事について一言物申しておきたいことがあった。
「亮介は大丈夫だ」
「――うん」
事件が5日が経った今も意識を取り戻していない亮介。どうやら頭を鉄の塊か何かで強く叩かれたらしい。その後、主犯である貞子率いるキチガイ集団に刃物で2回腹部を刺されたようだ。キチガイとも言い切れない。爆破装置と言い、人数が数十人という団体であり、何よりも今まで警察の目をごまかしてきた事実。普通じゃない。ニュースでもやっていたが、暗殺の術も身に付けているその部下がほとんどだったとの事。事件の被害者は十人以上にも及ぶ大規模な事件として、ニュースを通じてお茶の間の興味を集中させていた。
「ごめんね」
「何でお前が謝るんだよ」
「うん」
「悪いのは殺人を犯した犯人の方だろ」
「そうじゃなくって私……色々巻き込んじゃったよね。色々心配かけてしまって……御免なさい」
「なあ、僕も帰りに神田病院に寄ってもいいかな?」
「え?」
「亮介に渇入れてやんないとな」
「うん、ありがとう。亮介もきっと喜ぶと思う」
電車を降りて学校までの道を歩いている最中に高橋と出会った。高橋には、有馬駅の事件について創とナツが体験したことをナツが学校を休んでいる間に説明してある。
「おはよう高橋」
「お、おはようございます!――い、いい石川さんもおはようございます!」
「おはよ。それと私の呼び方〝ナツ〟で良いわよ!」
「ナツ……さん」
「さんいらなーいっ」
ナツは高橋の頭を軽く触ってポンポンさせた。
しばらく三人で適当な会話を繋ぎ止めては放して……繋ぎ止めては放して……そんな会話を繰り返していた。とにかく少しの沈黙に耐えられなかったのだ。特に今日はナツを全力で気遣うつもりでいる創。しばらくしてからナツは突然に例のニュースについて話し出したのだ。
「ねえ、今朝のニュース観た?」
不意にナツが言ったニュースを聞いて創らは寒気を覚えた。〝有馬駅連続殺人事件〟被害者数十人。
主犯は戦場貞子(15)動機は特になく無差別殺人という警察の見解であった。その主犯の戦場貞子には双子の妹がいた。妹の名前は明かされていない。だが、今朝の朝刊に記されていた大きな記事有馬駅連続殺人事件の裏のページに、小さく貞子の双子の妹も事件の関係者である可能性が高いとみて注目されていた。
戦場貞子が今回の犯行に及んだ際に連れていた部下達の二名の逃亡を許している。今だその二名の行方が掴めていないという内容から、双子の妹が事件に関与していた可能性は十分にありえるとされていた。他にも細かな内容が書かれていたが、そっと朝刊を閉じた創。
本日の学園生活は〝ある人物〟の〝ある噂〟が広まっていた。
『有馬駅連続殺人事件主犯である戦場貞子の双子の妹は、希望ヶ丘学園、新入生の1年A組の中にいる』
という信じられない噂が……
創らが教室に入って目にした光景は、とても信じられるものではなかった。その光景を見た創は、思わず声を上げる。
「な、何してんだ……お前ら!」
1A教室で一体何が!?