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コロシタノダレ ~悪夢の学園と落とした記憶~  作者: まつだんご
―エピローグ― 試験(序章)
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第三十話 『 始まりの合図 』

 掘り出される思い出


 試験のエピローグになる舞台は、黒幕サイドが被験者ら30人に仕掛けた〝ある実験〟開始日より3日前。後に登場する舞園桜雪の忘れられない過去と黒幕サイドが大きく動く1シーンより。


 以下桜雪の夢の中で掘り起こされる桜雪の両親との会話の一部より。かぎかっこで表示されない台詞は、桜雪が正しいと思う気持ちを言葉にしたものとし、彼女自身が本音と感情をコントロール出来ないでいる夢の中での葛藤より。


「――ねぇ?」


 考えてもごらんなさい?――人は死ぬから生きるのよ?――人は死ぬ事が無ければ生きる希望なんて与えちゃくれないわ。無に返る事を恐れ、回避しようとするのが生物の本来あるべき形・思想・姿・宇宙・あなた。例えるなら、人は誰かと出会い、様々な情報を取り入れ、それを活かした経験を積み重ね続けて変化をしていくわ。それだけ世の中に変化を求めているのよ。生物は案外単純なものなのかしらね。


「そういう難しい事を考える余裕も無いわ」


 ――この世に永遠に生き続けるものなど存在しない。自分がいつか死ぬ事を知っているという事は、天から授かった素晴らしい送り物なのよ。それに逆らおうだなんて辛いだけだという事は、自分自身が一番よく理解している……そうよね?


「それでも虚しい気分なの」


 人は変化していくわ。甘んじてそれを止めるケースは無い。生物の異常を知っているのなら改善するべきだわ。だって人間には〝器に成る歴史〟があるもの。それとも……今の自分を受け入れるのに時間が掛かりそう?


「虚しいだけ……」


 無理しなくても良いのよ?――でもね、人は生きているからこそ死ぬ覚悟も出来るのよ。それだけ賢くなったから。それだけは分かってね?――生きているから血が流れるの。それとも、その流れにも逆らうつもりなのかしら?――何故そんな事を考えてしまうの?


「それは……」


 ――この数日間の私に、血は流れていたのを覚えていないの?――そんなのおかしいわよ。だって、この瞬間にも私は呼吸を続けるわ。命を繋げているのが分かるでしょう。数日前のアナタが分からないでいるだけ……そうでしょ?


「――あなたはダレ?」


 ごめんなさい。あなたの心の傷の元凶である記憶が割り込もうとしているわ。


 過去のトラウマである記憶が割り込んでくる。夢の景色が一変する。此処は桜雪の自宅。彼女の目線に立っている大きな男と細身の女性。以下桜雪と桜雪の父親、桜雪の新しい母親との会話。夢の世界により曖昧。


「え?――お父さん?」


 『君は花飾りが良く似合う。本当に綺麗だよ』

 お父さん?――綺麗な女の人も一緒だ


 『君は花飾りが良く似合う。本当に綺麗だよ』


「違うのお父さん」


 『君は花飾りが良く似合う。本当に綺麗だよ』


「そうじゃないの……私ね?」


 『君は花飾りが良く似合う。本当に綺麗だよ』


「やめて!」

 お父さん?――どうして私の話を聞いてくれないの?――ねぇお父さん?


 『あら〝アナタ〟がそんな事言うなんて。明日は雪でも降るのかしら?――でも素直に嬉しいわよ。あなたのギャップって本当魅力的』


 桜雪の父親の横に居る女の人が父親を抱き寄せる。


 『自分に正直でいたいだけだよ』


 『あら〝桜雪ちゃん〟いたのね』


「ねぇ、お父さん!」


 『桜雪。お父さんとお母さんは外出する。カレーが冷蔵庫の中にあるから〝ハジメ君〟と一緒に食べなさい』


 『ごめんねー桜雪ちゃん、おばさんとお父さん……今夜は帰らないかもしれないの』


 『そういう事だから、ハジメ君の面倒を頼むぞ』


 『あーらアナタ、ネクタイ曲がってるわよ?』

 どうしてお母さんはいないの、どうしてなの?


 『君は花飾りが良く似合う。本当に綺麗だよ』


「お父さん!」


 『君は花飾りが良く似合う。本当に綺麗だよ』


「行かないで!」


 『君は花飾りが良く似合う。本当に綺麗だよ』


 『あら〝桜雪ちゃん〟いたのね』

 や、やめて………


 『君は花飾りが良く似合う。本当に綺麗だよ』

 『あら〝桜雪ちゃん〟いたのね』

 お願い、やめて!


 『君は花飾りが良く似合う。本当に綺麗だよ』

 『あら〝桜雪ちゃん〟いたのね』

 『そういう事だからハジメ君の面倒を頼むぞ』

 『ごめんねー桜雪ちゃん、おばさんとお父さん……今夜は帰らないかもしれないの』

 『自分に正直でいたいだけだよ』

 『あら〝桜雪ちゃん〟いたのね』

 『君は花飾りが良く似合う。本当に綺麗だよ』


 『あら……?』


 『ま・だ・い・た・の・?』


「ぃやああぁぁあぁあぁぁ!!」


――――――――――――――――――――――――――――――


「はっ!」

 目を覚ました【舞園マイゾノ桜雪サユキ】。体中汗をかいているみたいでシャツが湿っている。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 ――私ったら……また〝あの夢〟を見ていたのね。――あれ、此処は?


 周りを見回す桜雪。見知らぬ部屋のベッドで眠ってしまい、過去のトラウマの夢を見ていたようだが、この部屋のベッドで眠るに至る出来事を覚えていない。


 視界がぼやけて見えるその部屋には、点けっ放しのテレビとラジオが流れていて、開けっ放しのドアに脱ぎっ放しのTシャツ、閉められたカーテンの隙間から陽が射している。部屋の雰囲気から見ると一人暮らしの男の部屋のように思える。


 何かを思い出したのか、急いでベッドから離れてからポケットに手を入れ、〝ある物〟が無い事を確認してから自分のバッグを探す。桜雪のバッグはベッドの傍に置いてあった。すぐに中を確認して携帯を取り出すや否や、辺りを警戒しながら誰かに電話を掛けていた。


 しかし発信相手は通話に出ない。部屋にある時計を見て、時間を確認してからため息を一つ。


「はぁ……」


 微かだが部屋の外から物音がする。その音は次第に大きくなっていき、誰かが桜雪の居る部屋に近づいて来ているのが分かる。最悪の事態を想定して、部屋の入り口付近に隠れて戦闘体勢を構える。


 ――近づく物音。それは明らかにダレカの足音。――唾を飲む。緊迫した空気。足音が止む。入り口のドアが開かれ、ダレカが姿を現そうとしたその瞬間!


 ――ダレカの腕を掴みながら足を引っ掛ける。床に頭を打ち付けたダレカの背後に回り、首を絞めつける!


「ダレッ!」


「うごごごご!――じょ、何」


「――ん、あなたは!」


 見知らぬ部屋に現れた男は【早乙女サオトメ一號イチゴ】。首から手を放して、腕を掴み直す。


「ごいでええぇ!」


「どういうつもり!?」


「お前!――な、何しでんだ!――もう起ぎでも平気なのか?」


「良いから私の質問に答えなさい。あなたは何者で、どうして私が此処に居るのよ!」


「な、此処は俺のウチで、俺は【早乙女一號】っつーもので、どうこうしようだなんて訳分かんねー事は特に考えてねーよ!――良いからさっさ離してくれ!」


「――あなたが早乙女一號なの?」


「は?」


 掴んでいた腕を離してその場でしゃがみ込む桜雪は、不思議そうに早乙女一號と名乗る男の顔をマジマジと見る。


「だぁもぅてめぇどういうつもりだゴラ!――人が親切に道端で倒れていたお前を此処まで運んでやったってのに、こんな仕打ちはねぇだろ!」


「ん?」


「倒れた勢いで頭でも打ったんじゃねーか。やっぱ病院で診て貰った方が良いと思うぞ!」


「――その言い草だと、私が病院へ行くのを拒んであなたに保護して貰うよう頼んだみたいね?」


「実際そういう状況だろうが!」


「…………」


「――んで〝和雄カズオさん〟とは連絡取れたのか?」


「どうしてあなたがそれを?」


「――はい?――お前、何言っちゃってんスか。本当に倒れた勢いで頭打ったんじゃねーか。すっ呆けてねぇで頭打った箇所見せてみろ!」


「ちょっと来ないで!」


 よく分からない桜雪と一號のやり取りをモニターで監視する横峯悪魔。周りは薄暗く、その部屋には桜雪と一號の他に何人もの人物が幾つものモニターで映し出されている。モニターの数はざっと30台はあるだろうか。


 そこへ一人の人物が彼女の元へやって来る。


「ただいまなのにゃ~ん★」


「ご苦労スマートリー」


 監視カメラで30人の行動をチェックしながら会話を続ける。以下スマートリーと横峯悪魔の会話。


「シャクちゃんからレンラクきた~?」


「まだよ」


「そっか~じゃあシカたがないね。シャクちゃんのごイシだものねーん★」


 さっそくおかしな状況になっている。


 どういう訳か、拳銃を右手に構えるスマートリー。横峯悪魔の頭部を狙っている。


「キミは〝エスケープチケット〟をカクトクデキなかった。しなかったんじゃない、デキなかったんだよね」


「――冗談はやめなさいスマートリー」


 エスケープチケットと呼ばれる物を手にしていない横峯悪魔に対し、引き金を引こうとしているスマートリー。


「ジョウダンならイいんだろうけど、ジョウダンでもナンでもないんだ★キミをココでマッショウする。それがシャクちゃんのごイシであって、【フレームデッドゲーム】を【ハジめるアイズ】になるんだよーん★」


「釈様のご意思ですって?――突然何するのかと思ったらつまらないハッタリかますのね?」


「キミはシャクちゃんのイチバンミジカなソンザイでありながらー、シャクちゃんのコトをよくワかっていないようだねー」


「まっ!待ちなさいっ!!」


「ウソツきはキラいなのん……」


 横峯悪魔に『嘘つきは嫌い』と言い捨てるスマートリー。予想外な表情を浮かべ、スマートリーと一瞬目が合った横峯悪魔。抵抗しようと動き出そうとした次の瞬間!


 パアアアアアアン!

 銃声が響き渡る。


 ほんの一瞬の出来事だった。横峯悪魔の頭部に銃弾が貫く!――身体ごと銃弾の勢いに持っていかれて背中から床に倒れ込む。


 眉間にシワを寄せたまま、じっと彼女の死に様を見ている。即死だろうか、想像していたよりも出血はしていない。銃弾を撃ち抜かれたおでこ一箇所から赤色とは少し違った血液が流れ出す。 


 黒幕の実験実行日より1日前

――――――――――――――――――――――――――――――

 希望ヶ丘学園では


 希望ヶ丘学園校門入り口に停められている数十台の戦車。戦車には大きな積荷が乗せられていた。中に何が入っているのか不明だが、一台につき、人が3、4人潜り込める位の大きさ。その車内や周りに居る人間は皆、軍事服を着ている。少し離れた所で数十人が集まって点呼を取っているようだが……


「20人目、菊池昭造!」

「第四部隊で完了!」


「次、12人目、亀谷妙子!」

「第七部隊で完了!」


「次、28人目、青田向日葵!」

「こちら十六部隊で完了!」


「次、1人目、舞園創!」

「…………」


「舞園創はどうした!?」

「み、未回収です!」


 何も聞かされていない下校中の生徒達は、それらを不思議そうに見ている。とその時!


 校内放送。ぴんぽんぱんぽーん♪


「希望ヶ丘学園生徒の皆様へご報告致します。本日午後六時より、我が学園内を閉鎖致します。生徒の皆様は、すみやかに下校して下さい」


 戦車に積まれた荷物の中の様子を見ている軍人。中には何が……


 中にある物……あれは、あいつは、あの人は!


 数十台あるうちの一台の積荷で意識を失って眠っている人物は、何と『椎名葵』と『青葉博文』、そして『高橋』の姿まである!


 この希望ヶ丘学園で、午後六時から何が始められるのだ。良い予感はしない。ただ、軍人らの話を聞いて、一つ分かった事は……


 被験者は現段階で27人回収済みだという事。その中に舞園創と堂島和雄の両名は、今も逃亡中である事。そして何よりも、捕まえた彼らをある実験に強制参加させると言っていた。


 被験者らの意識が戻る様子が無い。このままでは取り返しのつかない事になってしまうであろう。しかし、彼らがこの日目覚める事は無かった。


 実験開始当日

――――――――――――――――――――――――――――――


 零日目を迎える30人の運命

 ※目次から脱出編へアクセス出来るよう配置しました。

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