第二十九話 『 和装無双 』
黒幕サイドの意地!
とある建物内の情報処理室より。和装女子によって自分が配置した部下4人を瞬殺された博打組の幹部の一人、横峯悪魔はターゲットを〝爾来也伊吹〟一人に絞る。ダイス組の面子にかけてやられっ放しのまま引き下がる訳にはいかない。彼女が次に出した指示は、ダイス組の全戦闘員26人が力を合わせてプレイヤー爾来也一人を至急回収するよう伝える。冷静さを無くしたのか、その口調も荒くなる。
「それは良いから、つべこべ言わずにさっさと爾来也を捕まえなさい!」
部下達へ繋がる通信機に向かって怒鳴って命令している横峯悪魔。
「1時間だ。1時間以内に回収を済ませなさい!」
「だ、ダイス様?」
「私の気が変わらないうちに捕まえろって言ってるのよ!」
部下達に命令しているダイスの元へ近づいてくる一人の人物。情報処理室の入り口前に立つある人物が小声で呟く。
「ウソつき……」
場面移動
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同時刻のプレイヤー達
高橋未来・椎名葵
希望ヶ丘学園校門前にて黒スーツの男らに襲われた所を爾来也伊吹に助けられる。二人は男らから逃げるため、急いで学園内に引き返す。高橋と椎名が気にしている事、それは爾来也伊吹の安否だ。何度も後ろを振り返りながら走って校舎へと入って行く。急いで階段を上がり、先程校門前で繰り広げられていた闘いがどうなっているのか確認する。校門前には既に黒スーツの男4人が倒れていた。そこに爾来也の姿は見当たらない。
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舞園桜雪
何者かの部屋のベッドで眠っている桜雪。点けっ放しのテレビに点けっ放しのラジオが流れていて、開けっ放しのドアに脱ぎっ放しのTシャツ、閉まったカーテンの隙間から陽が射している。雰囲気からすると一人暮らしの男の部屋に見えるが。
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石川奈津・未来
黒の車から降りる未来と彼の帰りを待っていた石川奈津の二人が待ち合わせ地点で合流する。周りには黒スーツを着た男ら数人が二人を囲んでいる。見た所、ボディーガードと言ったところか。
「お帰りなさいませ、未来様」
「あれ、待っていてくれてたのかい?」
微笑みながら石川に近づいて来る未来。彼女の真正面まで来た所で足を止め、何をするかと思えば石川の頭を撫で始めた。次に彼女の長い髪を耳にかけてあげる。
「さぁ、夢の世界へ行こうか」
恥ずかしそうな素振りを見せてから黒スーツらに車を出すよう合図する石川奈津。黒スーツらに続いて二人が同じ車に乗る。これから何処へ行こうというのか。
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菊池昭造・早乙女薫子
希望ヶ丘学園1年B組の隣にある空き教室にて。
教室内には過去に文化祭や体育祭などで使った物がダンボール等に入れられて保管されていた。一見物置部屋のように思えるが、二人が急いでダンボールの箱を退かしている。菊池学園長が最後の大きなダンボール箱を退かすと現れたのは錠で閉められた地下へと続く扉を発見するが、希望ヶ丘学園に地下など存在するのだろうか。以下二人の会話。
「此処に地下へと続く階段がある」
そう言ってポケットから錠の鍵を取り出す菊池学園長は、すぐに床の扉を開けようとする。そこで共に行動していた希望ヶ丘学園の問題生徒、早乙女薫子が待ったを入れる。
「本当にこの先にアンタの言う実験の舞台へ続く道があるの?」
「既に行方不明になっている生徒らはきっとこの先で閉じ込められているに違いありません。君の兄弟である〝光君〟や〝一號君〟がプレイヤーとして選ばれているのだとしたら、この先に居る筈です」
「ほ、本当に大丈夫なのかよ。敵と遭遇しちまったらどうするつもりさ?」
「今更引き返すつもりはありません。此処から先に何があるのか私にも分かりません。引き返すなら今しか無いですね」
「…………」
錠の鍵を外して地下へと続く扉を開ける。中がどうなっているのか確認したいが暗闇で何も見えない。見えるものと言えば、下へ続くハシゴが一つ。この先に何があるのか!?
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舞園創・堂島和雄
凛の運転する車の後部座席に座る二人は、マスクにサングラスを着用し、帽子を深々と被った怪しい身なり。黒幕サイドから逃げるようにして、遠くの街まで移動している最中の創と堂島和雄。その車内に沈黙が続く。
ダディの死、石川ナツが行方不明だという事実を知った舞園創。部下である桜雪が行方不明である事、息子の快跳が殺されていた事実を知った堂島和雄。彼らは今何を思っているのだろうか。
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爾来也伊吹
希望ヶ丘学園付近の通学路にて。ダイス組の部下4人を瞬殺した爾来也は、人目の多い場所で騒ぎを起こしてしまった上に博打組に手を出してしまった事実をしっかり受け止め、次の追っ手に狙われるのを分かっていた。
何処か目的の場所に向かって走っているというよりは博打組から逃げている様子。辺りを確認する事無く正面を向いたまま敵の動きを警戒しながら走っている。逃走している爾来也の動きは軽く、とても着物を着て草履を履いているとは思えない速さで先を行く。黒スーツの男4人との戦闘時に使われた日本刀は、腰にかけていた鞘に納められいる。
数分後早くも追っ手の車が一台、爾来也の背後に迫ってやって来る!
後ろを振り向く事も無く、敵の鳴らす音を頼りに目標との距離をイメージさせて攻撃するタイミングを計っている。ゆっくりと鞘から日本刀を抜いてから、走るペースを落としていく爾来也。敵との距離が百メートルまで接近したところで足を止め、迫る車の方を振り向く!
迫る黒の車から体を乗り出している新手の黒スーツの人物。男の左手に見える拳銃を確認してから日本刀を強く握り締めて、渾身の斬撃を発動しようとしたその時!
キュルルルルル――爾来也の背後に聞こえる別の車のスキール音!――黒幕サイドの追撃の手の込みよう、挟み撃ちに遭ってしまう!
一瞬で状況を把握した爾来也が何をするかと思えば、着物の右袖口から手を引っ込めて肩山を捲って着物から肩を露出させる。次に左手に持つ水瓶を日本刀で切り割る。中から大量の水が出てきて、日本刀に水分が付着する。ここで敵との距離50メートルまで接近、次の瞬間!
宙を舞う爾来也!――その高さ2メートル弱!――空中に浮かんだまま日本刀を振り回し、渾身の斬撃技を発動させる!
『熱 凍 水 滸 剣ッ――八万乱舞ッ!!』
日本刀に付着した水が一面に飛び散る!――その水は目で追いかける事がとても不可能な速さでその勢い故、水が刃以上の凶器と化して両サイドの車を一気に貫く!――両サイドの車に刃と化した水の数百が命中、ほんの一瞬だった。走行しながら大爆発を起こし、横転してしまう追撃車!
着地してから両車を確認する。車内はどちらも無残な事になっていた。男らの安否は不明。車から離れた爾来也がため息をついてから日本刀を腰にかけてある鞘に納める。
辺りを見回してから時間を確認しようと携帯電話の画面を見てみる。彼女の和装的なイメージとは程遠いその携帯は、綺麗にデコレーションされており、幾つもストラップを付けられている今時の携帯電話のようだ。すぐに携帯電話をしまってその場を後にする。
炎上している黒の車、その車内にて意識のある黒スーツの男が残り少ない力を振り絞って車から出ようとする。右手には通信機。
「ダ、ダイズ様。ご、ごうじわげありまぜん。米本班、田中班、共に全滅じまじだ」
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横峯悪魔
唇を噛み締めたまま黙って通信機を握り締めている、その表情は怒りと憎しみ。通信機を手に取って次の指示を出そうと口を開きかけた、その時!
ピーーー!
何者かが情報処理室を訪れたのか、入り口から呼び出し音が鳴る。入り口に待ち受ける人物はピエロメイクをしている〝スマートリー〟のようだ。どういう訳か、スマートリーの表情が険しい。頭に血が上っているようだが……右手に持った拳銃を隠して横峯悪魔が情報処理室入口ドアのロックを解除するのをまだかまだかと待っている様子。
入り口の扉はすぐに開いた。情報処理室へ入室するスマートリーは、カツンカツンと足音を立てて悪魔の女の背後に立つ。
「…………た……」
道化の様子がおかしい!
★エピソードⅢは以上となります。
重要人物生存者残り28人(29人)




