第二十五話 『 博打組 』
黒幕サイドの追撃が続く!
逃走した時間、約10分間。場所は天野のセンター街途中新状2号線。状況は黒幕サイドが乗っていると思われる黒の車が、創を回収するべく全速で追撃している。敵は拳銃を所持、すでに3発が創の乗る逃走車へ撃ち込んでいる。こんな状況にも関わらず気絶をしてしまっている創。無理も無い、黒幕サイドが仕掛けた〝麻薬〟に似た粉が体内に蓄積してしまったために、身体の機能が奪われたのだろう。
彼の車に飾ってある娘のぬいぐるみの数々の一つに『ダディーいつもありがとう(ハート)』と書かれたステッカーが貼られたぬいぐるみ発見。創を助けてくれている運転手の名が分からない今、彼の呼び方を一旦【ダディ】とする。――とその時、追跡車から次の1発が撃ち込まれる!
「ひぃっ!――ちくしょー!――何者なんだあいつら!」
気絶している創の額には大量の汗が出ている。次の銃弾がすぐに撃たれると確信しているダディは、左右に揺れ動きながら全速で走行している。
序々に接近して来る黒の追跡車が真後ろまで近づくと、何の躊躇も無くリアバンパにぶつかって来る!――揺れる車内に運転手ダディはパニック状態。何度も何度もぶつかって来る追跡車が次の銃弾を撃ち込む!――パアアアン!
「っう!」
ダディの左肩に貫通する銃弾。敵の射程距離が近づいてしまい、逃げ場の無い状況。ハンドルがぶれて右に急カーブしてしまう。その先にある建物の柵にぶつかってしまったため、強制的に停車してしまった。
黒の追跡車も停車してから相手の様子を見ている。ダディの乗る白の車から人が出て来る気配は無い。黒のスーツを着た4人の男が追跡車から降りて、ダディと創の乗る車へ近づく。
ふと周りを見ると、この一部始終を目撃している街の人々がこちらを見ている。お構いなしと言ったところか、黒のスーツの男4人は、逃走車の車内を確認してからドアガラスに銃弾を一発撃ち込む!――その音にダディが驚いた様子を見せる。彼は無事のようだ。
「出ろ」
銃口を向けられたダディは、慌てて車から降りる。
「両手を頭に」
ダディの所持品を確認している一人の男。その間にもう一人の男が、気絶している舞園創を車から引きずり出す。一人は通信機を片手に誰かを会話しながら黒の車に引き返す。
「はい、被験者は無事回収出来ました。申し訳ありません。目撃者は多数います。手間取ってしまいました」
「それで、1人目に加担した男は消しておいたのかしら?」
「いえ……」
「消しなさい」
通信先の〝女〟に命令された黒スーツの男が、所持品を確認する男に手で『殺せ』と合図を送る。次の瞬間、ダディの頭部に銃弾を撃ち込む!
意識を無くして床に倒れてしまうダディの頭部右こめかみから大量出血。
「…………」
即死だろうか……
「さっさとズラかるぞ」
黒のスーツの男4人は舞園創を担いで黒の車に乗り込もうとしたその時!――通信先の女からある警告を聞かされる。
「ぐずぐずするな。25人目の男が向かって来るぞ」
「え?」
少し距離の離れた場所から車のスキール音が響く。よく見ると一台の車がこちらに向かっている!
和雄が拳銃を片手に狙う先、先ほど創とダディを追っていた黒の追跡車!――荒れた運転をするのは凛と呼ばれる女の子!
和雄の車を確認した黒スーツ4人組は銃弾を撃ちながら黒の車に乗り込む。
「しつこい奴らだ」
「良いからさっさと殺せよ!」
「やってるが当たらないんだ!」
「運転を代われ。俺があいつの息の根を止めてやる」
「馬鹿言ってんじゃねぇ!――あいつは取引先の大事な被験者の一人だ。殺すような事は絶対にあってはならねぇだろ!」
黒のスーツ4人組は車内で揉めている。堂島和雄から逃げるようにして車を発進させる中、一人の男が通信先で指示を出す女に今の状況を伝える。
「噂をしてたらさっそく嗅ぎ付けて来ました」
「君らは奴から逃げる事だけ考えてなさい。あんまりモタモタしているようなら、今度は警察がお前らを嗅ぎ付けてしまうわ。そうなれば私達のミッションも失敗に終わってしまう。しかし釈様の命令にミスは許されないの」
「しかし【ダイス様】……このままじゃ」
「しかしもお菓子もないわ!――【トランプ組】の頭が独自で動いて1人目被験者の回収に失敗した。その獲物は今、私達の手元にあるのよ?――今こそ【ダイス組】の意地を見せ付けてやるのよ」
「は、はい!」
ダイスと呼ばれる通信先の女とそれを取り巻く【ダイス組】と呼ばれる新たな組織の名。やはり4つのギャンブルコードネームで呼ばれる人物らを中心に、少なくとも四つの組織に分かれているようだ。一つの大きな組織で繋がっているのか。
今分かっているのは〝ダイス〟〝トランプ〟〝スロット〟〝ルーレット〟。彼らは一つにまとまった大きな組織の幹部達のコードネームなのだろうか。ダイスの言うトランプ組の頭を指している人物。恐らく彼は、廃工場にて麻痺状態にされた創と取っ組み合いになった小柄の男の事であろう。
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ダイス
場所は30人の被験者をモニターで監視する空間〝情報処理室〟。その部屋のモニターを眺める謎のオンナ。彼女は第一話の希望ヶ丘入学式時に創の前に現れ、『カマガハエテル』と意味の分からない言葉を残したオンナ。コードネールではあるが、彼女こそ4つのギャンブルコードネームの一人の〝ダイス〟と呼ばれる女の正体なのだ。
「ノルマは5人……ミッションは必ず成功させなければ」
ダイスの携帯が鳴り、応答する。相手はピエロメイクの人物スマートリー。以下2人の会話より。
「やーいダイスちゃん★――チョウシはどうかね?」
「――用件は何?」
「トランプがプレイヤーのヒトリにやられたよん」
「1人目によね」
「ナンだ、シってたのか。ならハナシはハヤい。ヒトリメのヒケンシャカイシュウミッションをトランプグミからキミらにヘンコウするコトになったんだ」
「手柄を横取りするのは私の最も得意とする事よ。これを見逃す手は無いと思って、既に1人目を手中に収めている段階よ」
「あ、そうなの!?」
「――あの御方の伝達?」
「そういうコト。トランプのニノマイにならないようキをツけてくれたまえ」
「分かっているわ」
二人の会話で分かった事は以下の二点。
・あの御方=ドン釈が4つのギャンブルコードを持つ人物らの上司
・4つのギャンブルコードを持つ人物らは、ドン釈の束ねる組織の幹部
彼らの狙いは〝ある実験計画〟を実行に移す事。そのために必要とされるのが被験者計30人になるのだが、現在その被験者達を回収しようと動き出しているようだ。1人目に選ばれた舞園創もある実験の対象者として回収を目的とされている他、残りの被験者達も同じ被害に遭っている可能性が非常に高いと思われる。
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篠原すみれ
とある建物内にて黒幕サイドから逃亡するすみれ。1日の間で、今に至るまでの経緯を説明すると、彼女がまず狙われたのは命そのもの。
黒幕サイドと深く繋がりを持つ第零話に登場した男に退場するよう言われ、拳銃を向けられる。しかし、その場に居合わせていた探偵の路瓶孫が出す〝ある条件〟を聞かされた男は、すみれの命を奪う事を保留した。だが、解放する事は現段階では無理だと言って亀谷を含む計3人を拘束した。
黒い車に乗せられる際に逃亡したすみれは右肩に銃弾が一発貫通する。それでも全力で逃げるすみれを見逃した男。それから数分程で新手の追跡者が2人現れる。追跡車は、黒いスーツを着た男2人。彼らを撒いたすみれは、自宅マンションに向かい、無事着いたのだが、自宅入り口ドアで待ち伏せしていた黒スーツの男2人がすみれの前に立ちはだかる!
「はあはあはあはあ……」
自宅マンションの屋上で身を潜めるすみれ。右肩には大量の血が流れていて、尋常じゃない汗の量を流しており、見るからに苦しそうな表情をしている。
「…………」
このままだと奴らに捕まるのも時間の問題か……自分の立場が危うくなるかもだけど、この状況は打破出来るかしら。
携帯を片手に持って何かに迷っているようだが。――とそこで目線を反対側に向けると非常用階段を見つける。
「…………」
連絡はまだか。此処から逃げられるかもしれない!
迷わず非常用階段を下るすみれ。
バタバタバタバタバタバタ――!すみれのすぐ傍右側で激しい音が響く!
「え、ヘリコプター?」
不意に現れたヘリの内部から拳銃を構えた男。
「――っ!!」
引き返そうと必死に走り出したすみれ!
「撃て」
「はい」
パーーーン!――すみれの右足に貫通、そのまま床に倒れ込んでしまう。転がって移動し、屋上にある壁を使ってヘリに乗る男の射程外へ回避する。
「うううう……」
携帯をいじるすみれ。助けを呼ぼうと最後の希望を通信先に託そうとしたその時!――屋上への入り口ドアが勢い良く開けられる。
「早くこっちへ来て!」
「え?――あっ……由香里!」
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重要人物 篠原 由香里(15?)
女性 身長160cm 体重48kg
希望ヶ丘学園の新入生にして不登校生徒
偽名【戦場むくろ】についての詳細は不明
桜ヶ丘学園襲撃事件を起こした張本人
重要人物10人目!
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「早く!」
苦しそうな表情を浮かべながら由香里の居る屋上入り口へ走るすみれ。
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ヘリ内
ヘリコプターを操縦する男と何者かと通信をしている男の計2名。以下通信先の相手と話をする黒スーツの男の会話。
「彼女は……戦場むくろ!――何故此処に居るんでしょうか!?――〝ボス〟」
「…………」
「彼女は戦場むくろ殺害事件の際に回収済みだった筈です。その彼女が何故、姉の自宅に居るのでしょうか!?」
「そうか……フフフフフフフフフ」
「ボ……ボス?」
「たった今ルーレット組に応援を頼んでおいた。差し支えなければ奴らに手柄をやりたい」
「…………」
「お前らトランプ組じゃ、この事態の収拾がつけられないだろうよ。だから一旦退いとけ。察が来るのも時間の問題だ」
「ボス…………」
通信相手は4つのギャンブル組を束ねる親玉と言ったところか。会話の中でドン釈との繋がりは見えてこなかった。ただ一つ分かったのは、この組織の名称【博打組】。4つのギャンブルコードを持つ博打組の配下が計5つだということが判明。ギャンブルコードネームを持つ彼らこそ、博打組上層部の五人という事だ。
しかしそんな中で異質な存在感のある〝彼〟。
「お前らは自分の出来る事から全力で取り組めば良い。ゲームは始まったばかりなのだよ!――残り17人!――プレイヤー共は何時まで逃げ切れるかな!?――フフフフフフフフ!」
既に13人が黒幕サイドに回収されてしまっているのか。創が気絶している以上、被験者回収のお話はここまで。物語は3日後、希望ヶ丘学園の臨時休校が解除され、学園生活が再開される日、舞園創が目を覚ました場面より。
舞園創――彼が次に目を覚ました時には何処に居るのでしょう。黒幕の実験体にされてしまっているのか、もしくは病院へ送り込まれているのか、警察に保護されているのか、それとも……
魔の手から逃げるプレイヤー達!
※後書き
5つの組に分かれたギャンブルコードを持つ5人の幹部とその部下達をまとめて〝博打組〟と呼びます。




