第二十三話 『 被験者回収 』
電話の相手は……
場所は引き続き廃工場にて。創とマーカマ、そして赤西堅也の3名が今は使われていない廃工場にて希望ヶ丘学園の生徒、堂島快跳の死体を発見する。3人の食い違う意見を他所に、死体の所持していた携帯電話が鳴る。マーカマは罠だと言って通話に出る事を止めるが、赤西はその電話に出る。肝心の電話の相手は画面を見るに『青田向日葵』という人物からの着信のようだが……
「あ、もしもし」
「…………」
様子を探るように黙って電話に出る赤西。相手は若い女性の声。
「御免なさい。さっき着信に気付きました。昼過ぎまで寝てましたわー」
「…………」
「あの、堂島君?」
「――もしもし」
「――どうかされたんですか?」
「悪いが訳あって堂島は電話に出れない。青田向日葵さん?」
「――え、あ、はい」
「申し訳無いが後でニ、三お話を伺いたいので折り返しても良いですか?」
「――あ、はい。構いませんが?」
「――事情は後でお話します。すみません」
「――ごはぁぁ!」
青田との通話を切る際に彼女の〝咳〟をしたような音が聞こえた。創が赤西の元へ歩み寄る。二人は青田向日葵の電話番号をメモしている。これ以上この場に居るのは危険だと判断し、警察と救急車を呼ぼうとしたその時!
――何かが落ちる音。と同時に何かが噴き出した音が響く!
「何の音だ。ん……」
「ごはぁぁぁ……」
「ごはぁぁぁ……」
苦しそうな声を上げ、倒れてしまう創とマーカマ!
「舞園君!――君!――うっ!」
白い煙を吸った途端、激しい頭痛と共に倒れてしまう赤西。
「がはぁぁぁぁ……」
「ち、ちくしょう……またか……」
一気に身体の自由を奪われる3人。創は意識がもうろうとする中で最後の力を振り絞り、携帯を片手に助けを呼ぼうとする。既に痙攣した手は思うように動かない。
「こんな所で……だおれでる場合じゃなび!」
通話ボタンを押すが、指が思うように動かず番号はデタラメになっている。辺りを見回し状況を確認する。
「二人とも……聞ごえますか……」
――返事は無い。マーカマと赤西は既に意識を失っている。
「あれば……」
薄っすらと白い煙を噴射している、野球ボール位の大きさの鉄球。
「どういうごどだ!――ぼぐの障害じゃないのが!?――お、おいマーガマさん!――コートの人!――返事をじでぐれぇ……」
希望ヶ丘学園内に侵入した際に創の身に起こった原因不明の身体の痺れと同じ感覚で、身体の自由を奪っていく。薄っすらと見える白い煙を噴き出す鉄球が原因か。
「――まざが……」
僕達の他に誰か居る!?――その人物による仕業!?――待てよ……そうなってくると、此処にはまだ犯人が残っているのか!?
「――ハアハアハア……」
辺りを警戒する創。既に全身の自由が利かず、意識を保つ事でさえ厳しい。意識が遠のく中で鉄球を見た創は一つの〝真実〟に気付く。倒れないよう意識を集中させていた創が今まで気付かなかったもの。
「――ううぅぅ」
――この〝匂い〟この感じ、僕が意識を失う際に嗅いできた匂い……ま、間違いない。記憶障害を抱えている僕は、意識を失っている原因が自分にあるのだとしか考えていなかったが……もしも、もしもそれが何者かの仕業なのだとしたら!
「ででごいちくじょおおおぉぉぉ!」
意識を保つのが限界の様子。――ゆっくりと目を閉じる創。
カツッカツッカツッカツッ――何者かの足音。〝小柄の男〟がやって来る。
「フンフフンフフンフフン♪」
その男は何者かと通話をしているようだ。
「やりやしたよ旦那!――例の男を含めた3人の捕獲に成功しやした!――はい、はい。ええそうです――キヒヒヒ――はい、有難う御座いやす。此処で待機してれば良いんすね?」
「…………」
「ええ、3人共意識を失ってやす」
創の真ん前で立ち止まり、腰を降ろす小柄の男。気絶しているのを確認してから通話をスピーカーに設定する。小柄の男と通話相手の理解出来た範囲の会話内容は以下の通り。
通話相手は創らを実験の被験者とした回収を目的とし、4人の部下に指示を出している様子。その一人が創らの眠る廃工場に現れた小柄の男。実験内容や目的はよく分からない。計4人の部下と思われる人物を動かし、29人の〝プレイヤー〟と呼ばれる被験者達を回収している最中のようだ。通話相手の会話より4人の部下は次のコードネームで呼んでいた。
【トランプ】 【スロット】 【ダイス】 【ルーレット】
小柄の男は〝トランプ〟と呼ばれていた。
通話相手から次の指示が来るまで待機するよう命じられ、通話は切れた。創の真ん前で腰を下ろしていたトランプと呼ばれる小柄の男。何をするのかと思えば創の髪の毛を掴んで、頭を持ち上げるようにして気絶状態を再度確認する。
「――ケッ、こいつよく見りゃ涙を流してやがる」
少しの沈黙が続く。と、次の瞬間!――ぱっと目を開いた創がトランプの腕を掴む!――最後の力を振り絞る創!
「づがまえだぁ!!」
「貴様っ!」
掴まれていない方の腕を伸ばす小柄な男、トランプが創の首を絞める!――腕を離そうとしない創!
「ごおぁぁにがざねぇ、ぶっごろじでやるッ!」
「このクソガキィィ!」
必死に抵抗する創は、必死に掴んでいたトランプの腕を離し、首を絞める奴の手を掴む!――トランプの握力が弱いのか意外にも簡単に外れた。
「――ガハッ……ハアハアハアハア……ば、話は全部ぎがぜで貰った、お前らのもぐできは一体何なんだ!?」
「良いから大人しくしときんしゃい!」
「ぶざげるな!」
両者一歩も引かず床に倒れながら掴み合う。そこへトランプの腹部を思い切りキック!――見事に命中し、相手に隙が生まれる。このまま攻防が続けば不利になるのは自分だと判断した創は、とっさにその場から逃げ出す。
「ま、待ちやがれクソガキ!」
「はあはあはあっがはっ」
片足を引き摺っている。全身では無いにしろ、身体の痺れは治まっていないよう。フラつきながらもただ逃げる事だけを考えて全力で突き進む。
「はあはあはあはあ……」
あんな危険な奴らに捕まる訳にはいかない!――あいつらが何者かは知らないが、今まで僕達を狙ってきていた事件の黒幕で間違いない!
完全に気絶していなかった創は、トランプとスピーカー先の通話相手の会話を全て聞いていた。1階へ続く階段を見つけ、下りようと踏み出したその時!
「逃げられると思ってんのか!!」
創の背後から突進してきたトランプ。階段に転落しないよう手すりにつかまる創――胸倉を掴まれ階段に突き落とされそうになった創は、相手の足を引掛ける次の瞬間!
バランスを崩したトランプが階段の段差で足を踏み外す!――そのまま一階へ続く折り返し地点まで転落……
「ハア……ハア……ハア……ハア……」
「………………」
動く気配の無い小柄の男、トランプ。逃げるなら今しか無いと判断し、全力で一階まで下る創。そのまま出口へと一直線したいところだが、どこが出口なのか分からないようだ。
「ぐぞっ!――でぐじはどっじだ!」
口元が痺れていて呂律が回らない。指先が痙攣している。
後ろを振り返ってトランプが追って来ていないのを確認しながら、廃工場の出口を探す。しかしなかなか見つからない。
「ハアハアハアハアハア……」
ポケットを確認する。携帯を使いたかったのだが、身体中が麻痺して倒れた際に助けを呼ぼうとポケットから出していた携帯を2階に置きっ放しにしてしまったようだ。助けが来ない今、謎の組織から自力で逃げ切るしか無い!
創、逃げ切れるか!?
※後書き
創らを狙う組織のコードネームは、全てギャンブルゲーム等でよく使われる道具を使っています。皆さんギャンブルはお好きですか?




