第ニ十一話 『 石川ナツ 』
ここからエピソードⅢに入ります。少しずつ動き出す黒幕サイド。
有馬駅連続殺人事件の一部始終!
時間を少し遡る。有馬駅連続殺人事件が起こった後、主犯の戦場貞子が逮捕される。その数日後、戦場貞子の双子の妹である可能性が高い戦場むくろが殺害されてしまう。その後、探偵の路瓶が事件を捜査していく中で気付いた一つの接点。〝二つの事件の犯人は同一人物〟もしくは〝同一の組織〟であるという事。その中で、裏の組織と深い繋がりを持つであろう石川ナツの、有馬駅連続殺人事件の夜の真実。
有馬駅連続殺人事件
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時刻は午後11時12分
大量の血を浴びた石川ナツの体は真っ赤に染まっている。此処はどこかのトイレであろうか。片手に血の付着した折り畳み式の大形ナイフを持つ。足元には鉄バットが落ちている。そこに倒れている一人の若者の男。
「――ハアハアハアハア」
辺りを見回しながら、所持している大きめのバッグにナイフと鉄バットをしまってから上着とジャージのズボンを脱いで、それも一緒にバッグの中に入れる。ポケットから通信機を取り出して何者かと通信を始める。通信相手は男性のようだ。意識不明の男を残し、大きめのバッグを持って何処かへ歩き出すナツ。以下石川ナツと通信先の男性との会話。
「こちらは処理済みです。目撃者は1人もいません」
「…………」
「――あの、本当にこれで良いんですよね?」
「――彼は死んだのかい?」
「いえ、意識を失ってはいますがこのまま病院へ送り込めば命に別状は無いかと」
「――よくやったね。救急車は君が呼んでくれるかい?」
「はい」
「僕はもう逃げ切れそうも無いかな」
「応援は5分程かかりそうですが……どうしましょう」
「要らないよ。大丈夫、僕がいなくても計画は遂行されていく。予定通り篠原を有馬に捨て置くからさ」
「分かりました」
通信を終えるとどこかのビルから外へ出るナツ。建物前に停まる一台の黒い車。ナツがナイフと鉄バットを入れた大きなカバンを車内に放り込むや否や、その場を後にする黒い車。ナツも先程居たトイレに戻る。
「人が刺されました……助けて!」
携帯電話で救急車を呼ぶナツ。通話を切ってポケットにしまうのと入れ替えに、何やら粉薬の入ったプラスチック容器を取り出す。
――トイレに到着し、その粉薬を大量出血して意識の無い男の口に流し入れる。口の中に粉薬を含ませてから男の鼻を摘んでペットボトルの水を流し入れる。その間に誰かから着信。発信者を確認してから通話に出ることなく携帯を地面に置く。発信者は舞園創だ。
――とそこへ次の着信。何者かの着信に出るナツ。
「――ちょっとナツ!?――これはどういう事だ!――何で俺が、警察に売られなきゃならねぇんだ!?」
「…………」
「――お前、この俺を裏切ったのか!!――答えろ!?」
通話を切るナツ。通信機を耳に当てる。
「こちら石川。たった今戦場貞子こと〝篠原すみれ〟が警察に包囲された模様」
「了解。F塔を破壊する」
遠くから爆発音が響き渡る。
「そろそろね」
トイレの入り口まで歩いて、何をするかと思えば何かの装置の紐を引っ張る。――ピー。何かが作動した効果音が鳴る。とその時、舞園創から着信。
「しつこいわね……ふう」
深呼吸をしてから電話に出るナツ。以下舞園創と石川ナツの通話内容。
「ナツ!」
「ハジメ!――亮介が、亮介が!!」
「亮介?――おい、おいナツ、どうした!――今自宅に居るんじゃないのか?」
「いや!」
「おいナツ、ナツ!?」
「…………」
「おいナツ、頼むから答えてくれ!――お前は今何処にいて亮介がどうしたんだ?」
『――私は今……有馬駅にいて……亮介が……刺された……』
見事に被害者を演じる石川ナツ。携帯を肩と耳で挟んで通話を聞きながら、最後の後始末の作業に取り掛かる。通信機に何かのタイマーの装置を取り付けてからタイマーをセットし、トイレ入り口外に投げ捨てる。入り口ドアを閉める際に更にもう一つの装置……それは見るからに爆破装置のようだ。爆弾をトイレ入り口に設置する。慣れた手付きで爆弾を仕掛け終えてから再びトイレ内に戻る。
――鏡を見ながら、自分の体をペーパータオルで拭き、血が付着していないか確認をする。使用済みのペーパータオルを便器に捨てて流す。深呼吸を一回してから倒れた男の状態を確認する。熱、出血具合、息、脈、鉄バットで叩いた箇所の具合。体に血が付着するが、それは恋人の頭を抱えた際に付いた血だと処理するつもりでいる。
――大量出血しながら倒れている人物……その正体は【路瓶亮介】!
少し時間を進める
「石川さん、もう少しの辛抱です!」
ナツの要るトイレの入り口先に仕掛けられた爆弾のような物がある。爆弾処理班の警察官が、石川ナツと亮介の救出に手間取っている様子。それはそう時間は掛からずに解除に成功した。ナツの片手に携帯電話。通話が繋がった状態。相手は舞園創。
「もしもし」
「こっちに来ちゃ駄目だからね!」
「え?」
「私と亮介は警察に無事保護されたわ!……ご、ごめんなさい!――気が動転してあなたを巻き込むところだったわ!」
「――入り口にある爆弾はもう解除してあるんだな?」
「よく分からないけど無事だからお願い!――今すぐ引き返して!」
そこへ、割って入る警察官。
「石川さん、ちょっと変わってくれるかな!――ハジメ君だね?」
「はい」
「良いかい、殺人犯はまだ逮捕された知らせが届いていない!」
こうして有馬駅連続殺人事件の被害者として警察に保護される石川ナツ。被害者の男は亮介。
場面変わる
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未来
警察数人に包囲されている未来。絶体絶命の状況にも関わらず、不気味に微笑む未来。
「クックックックック」
「お前は完全に包囲されている!」
「――有馬駅連続殺人事件の容疑の疑いでお前を連行する!」
ポケットから何かを取り出す未来。その行動に危険を予知して拳銃を構える警察官達。次の瞬間!――〝何か〟を頭上へ投げ捨てる未来!
「!!!!」
――通信機が……空中で爆発!
「貴様ぁ!!」
警察達が一斉に走り出し、未来を押さえ込む。頭を地面に押さえ付けてから両手に手錠を掛ける!
「午後11時46分逮捕!」
「クックックック」
場面移動
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石川ナツ
少し時間を進める。場所は神奈川留置場【Seatの間】より。警察に逮捕された未来と、彼の面会を希望した石川ナツの会話より。
「そういう事ね。あの探偵の名前は例の路瓶の父親なんだ」
「はい。彼の目的は恐らく私達に対する復習です。放っておいても差し支え無いでしょうが、あの御方は目障りだとおっしゃってました」
「――あんまり人を殺すと足跡辿られちゃうよ?――良いさ様子見で。僕が許可する」
「承知しました」
「彼も懲りずにまた此処へ訪れるだろうね。彼には計画の一部を話してしまおうかと思うんだ」
「――と言いますと?」
「〝戦場むくろ殺害事件計画〟についてね。一言だけ警告してみる」
「…………」
「クククククク……」
時間を進める
有馬駅連続殺人事件より少し日付を進める。場所は戦場むくろ自宅にて。そこには体中をロープでぐるぐる巻きにされて、身動きが取れないでいる人物が横たわっている。悲痛な叫びが響いているが、粘着テープで口を塞がれているせいで何を言っているのか分からない。――〝それ〟を通り過ぎる石川ナツ。電話機の前でしゃがみ込むと同時にパチッという効果音が聞こえ、それを見ると電話回線が切断されていた。
「…………」
戦場むくろ自宅でロープで巻かれた人物の正体は!――
石川の目的は一体!?
※後書き
最終黒幕ドン釈には部下が存在します。組織の正確な大きさは作中で明かされていませんが、少なくとも5人以上になります。




