28人目
28人目、青田向日葵!
※名前の紹介はあったが、実際に登場するのは今回が初となる。
時は希望ヶ丘学園入学式の当日までさかのぼる。時間は午前8時、場面は青田の通学途中となる。始まりの時、桜満開の季節に15歳青田が通学路を歩む。期待と不安を胸に。
忘れ物はない?
スカート長すぎたかな?
友達出来るかな?
担任はどんな人なんだろう?
学校は綺麗な方だったよね?
ちゃんと間に合うかな?
――少し不安の方が強いようだ。
「あら、あの制服」
青田を抜かして前を早足で歩いていく、希望ヶ丘学園男子生徒の【早乙女一號】。
「あの人希望ヶ丘学園の生徒ね……先輩かな?」
何となく〝彼〟を目で追いかける私。何となく私も早足になる。
彼は携帯をポケットから取り出し画面を見ている。それだけ歩くペースも遅くなるわけで、青田もそれに合わせて歩くペースを落とす。彼が心強く感じていた。不安で胸が押しつぶされそうな私と同じ方向へ向かう彼に。――とその時!
「え……」
彼は携帯の画面に集中してしまい、歩くのを止めてしまう。その場に立ったまま動かなくなってしまった。
「――えええ」
抜かしたくない。抜かしたくない。抜かしたくない。
彼を追い抜いた青田。
「………………」
また1人で歩かなきゃいけないんだよね。い、嫌だな…おうちに帰りたい。――って初っ端からこんな調子で大丈夫なのかしら。で、でもやっぱり不安だよ。中学のみんなは希望ヶ丘学園なんて遠すぎるとの事で……誰も頼れる友達がいないんだもの。
「なーにをブツクサ言ってるんだい?」
「うわっ」
たった今追い抜いた早乙女が青田に話掛けてくる。
「うお、どうした?」
「――え。な、何か?」
「お前顔色悪いぞ。朝に悪いモンでも食ったんじゃないのか?」
「――は?」
「お前のその制服……希望ヶ丘学園の生徒だろ。ひょっとして新入生とか?」
「はい」
「おおおおぉぉ!」
「きゃぁ!」
早乙女一號は青田の両手を思い切り握り締め、こう言った!
「俺も希望ヶ丘の新入生なんだ。早乙女一號って言うんだ!」
な、何この人。初対面でいきなり手を握ってくるとか馴れ馴れしいにも程があるわ。かっこいいと思って見てたけど、さすがにこれは無い……
「ちょっと待ってな!」
――突然カバンを下ろしてその中を漁り始めた早乙女。それは大きな物でカバンからすぐに出して見せる。
「これこれ!」
「――うん、バスケットボールね?」
「あそこ見てみ!」
早乙女のゆび指す方向にはバスケットゴールが設置されている公園。
「うん、バスケが出来ますね?」
「へっへっへ!」
「――よく分からないですが先に行かせてもらいますね」
「今何時だ?――まだ8時10分じゃないか!」
何か嫌~な予感。ここは振り向かずに早々と退散っと!
「30分位、あの公園で遊んでも間に合うだろうな!」
「…………」
気にせず先を歩く青田向日葵。
「ちぇ……行っちまうのかよ」
心が痛むがここは青田向日葵!――己にムチを打ってでも先を行け!――今日は希望ヶ丘学園初日の入学式。ここは大人の対応で軽く流して……というか無視してでも学園を目指すべし!
「――ふう」
少し歩いてから振り返ってみる。彼の姿は見当たらなかった。
「あの人……通学中なのに1人であの公園で遊ぶつもり?」
気付けば足を止めている青田。
「何となくバカっぽそうよね、あいつ。――こんなの遅刻するパターンよね」
どうしても気になってしまう青田は、歩いてきた道を引き返してそっと公園を覗いてみる。
「え!」
青田の目に映ったのは、真剣にバスケットボールと遊ぶ早乙女の姿だ。その表情は真剣そのもの。何かをイメージしながらドリブルしているように見える。
「――此処だぁ!!」
パ……シュパッ!――それは見事なシュートだった。それを見ていた青田はの様子が変わる。
「か、格好良い」
ひたすらシュートを続ける早乙女。それを隠れて見ている青田。通学路で他の生徒に見つからないように隠れながら、早乙女を観察する青田。
――とうとう20分の時間が経ってしまった。この20分間の間に妙な関係になっていた早乙女と青田。時計を見て慌ててボールをカバンにしまっている早乙女。
「私も早く行かないと」
青田は早乙女一號にバレないように先回りをする。
「格好良い人見つけた。さっきまでの不安が嘘みたい!――私、絶対に希望ヶ丘学園生活を充実させてみせる!――もういじめられてた頃の自分にさよならしないとね!――だから、だから早く恋がしたい。一生懸命に恋をして、合間に勉強して。バイトはどうしよう、部活で良いのがあったらバイトは短期ので良いや!――とにかく何かありがとう。勇気をありがとう!」
独り言をブツブツと良いながら走る青田向日葵。その表情はとても清々しい。
――この直後に出会う大好きな人。通学路を走っている最中に通り過ぎる〝本命〟との初対面!
「――え!」
思わず振り返る青田向日葵。その瞬間、時が止まったようにも思えた。その人物は重要人物の【?? 未来】という男。この瞬間から、青田の心の中心に立つ人物。青田の青春。
「………………」
時間がスローになっているのを感じる。
私は、私は何なの!?――ついさっき出会った早乙女君にドキドキしていたのに。今度は完全に一目惚れ?――えっと、学園の生徒ではなさそうね。
綺麗なツヤのある銀髪。白の長袖に紫のデニム、透き通る蒼い瞳にどこか悲しそうな瞳。か、格好良い……
青田を不思議そうに見つめる未来。
「――あの!」
「ん?」
一瞬にして止まっていた時が動き出したかのように我に返ってしまう青田は、自分が彼に話し掛けてしまった事を瞬時に後悔してしまう。
「――あ、あ、あ、ご、ごめんなさい!」
つい言葉を掛けてしまった青田。赤面してその場を後にする。
「何だい?」
振り返る青田。青田を不思議そうに見つめる未来。
「わ、私のバカバカバカバカ!!――は、恥ずかし過ぎる」
『こんなの初めて!こんなの』
「どこの誰かも分からない男の人に……ただ純粋に恋をした私」
『一目惚れなんて初めての経験!』
「そうね……私自身自分の事がよく分かっていないみたい」
『早乙女君はどうするの?』
「それが吹っ飛ぶほどにただ見つめて好きになったのよ!」
『彼は希望ヶ丘の生徒じゃないのよ?――もう二度と会えないかもしれないよ?』
「そうね……」
『高校生活始まって早々難しい恋をしちゃったみたいね?』
「私は……」
『あなたが人を一目惚れするだなんて思わなかったよ』
「うん。だからよく分からないけど、とにかく!」
『本当にこんな事で良いの?』
「早く学園に行かないと本当に遅刻しちゃう!」
「彼の事を知りたい、知ってもらいたい!……これが一目惚れ?」
サイドストーリーⅡは以上になります。
亀谷妙子、鎌倉雲人、そして青田向日葵は重要人物確定しました。




