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コロシタノダレ ~悪夢の学園と落とした記憶~  作者: まつだんご
◆サイドストーリーⅡ
28/43

21人目

 21人目、鎌倉カマクラ雲人ユクト


 時は鎌倉カマクラ雲人ユクトの中学3年生までさかのぼる。場所は鎌倉の自宅より。当時、鎌倉は学校では優等生とされていて、成績も学年トップで有名だった。鎌倉家は、両親と妹と母方の祖母の5人暮らし。そして今晩も鎌倉雲人は1人、自分の部屋にこもり受験勉強をしていた。部屋は綺麗に整頓されていて特に目立つものはなく、本棚には歴史の資料や本などが並べられている。


 時間は午前1時。そろそろ就寝しようとキリの良いところで机の上の物を片付ける。一旦部屋を出て歯磨きをしている所へ鎌倉の妹と居合わせた。


「――あれお兄ちゃん。まだ起きてたのー?」


「うん」


「夜遅くまでお疲れ様」


「――別に勉強していたわけじゃない。気になる深夜アニメを観ていただけだ」


「ふーん。別に勉強してたのなんて聞いてないけどね」


「………………」


 場面は鎌倉の通う学校へ移る。静かに1人座って次の授業を待つ鎌倉。クラス内では毎度お馴染のヒソヒソ話が鎌倉の耳に入っていた。


「ねぇ、見てよ鎌倉の奴。なに真面目ぶって次の授業の教科書出してるのかしら」


「勉強以外には興味ありませんってか。さすがは学年一の優等生様」


「それもそのはずよ。だってあいつは私達とは目指す学校のレベルが違うもの。一つの事を極めてこそ、本当の天才が存在し得るってことかな」


 鎌倉は生徒達の間で一目置かれているようだ。というよりは避けられてる?――何も気にしていないと言わんばかりの鎌倉。自身の腕時計を気にしている。


「きっとあれよ。内申書の事を常に考えながら学校生活を送っているのよ」


「あれで顔が整ってたらいいんだけどねえ?」

 

 『僕は勉強しか取柄の無い人間だ。僕は優等生でなくてはならない』


 ひたすら勉強に明け暮れる毎日。たまにいっそ逃げ出したくなってしまう。両親に期待され、学校でも優等生で有名な鎌倉は、そんな自分を早く変えてしまいたいと願っていた。ただ今じゃない。今投げ出したらこれまで努力してきたことを全てドブに捨てる結果になってしまう。だから良い高校、良い大学に行って学力で結果を残す必要がある。何をしたいのかは学生生活が終わってからでも遅くはないだろう。


 『今はじっと耐える時期なんだ…。』


 時は来た。今日は受験校の合否発表の日。合否発表の会場へ向かった鎌倉。


 会場には大きなボードに合格者の名前が受験番号順に並べられていた。


「――421……421……421……え!?」


 そこに鎌倉雲人の名前は無かった。


 それはすぐに鎌倉の通う学校内で話題になっていた。鎌倉はどうしたらいいのか分からず落ち着かない様子。いつものクラスメイトの連中のヒソヒソ話が聞こえてくる。


「何が学年トップの優等生だ。ただの真面目ぶってるチキン野郎じゃねえか!」


「散々俺達の方が間違っているとコケにしておきながら何て様だ!」


「なんつーかあいつの顔ってよ、成功者って感じしねーよな?」


「ああ。ここぞという大事な場面で失敗するタイプの人間だわ」


 自分のしてきた事を全て否定されている鎌倉。体が震えているようだ。


「ガタガタガタガタ……」


 鎌倉の自宅にて。


「うわああああぁぁ!!」


 部屋で大声をあげながら暴れている!――鎌倉の母親と妹が止めようとするが……


「ちょっと雲人お願い、落ち着いて!」


「うるさい!――僕に指図をするな!!」


「お、お兄ちゃん……」


 そこへ父親が帰宅してきた。


「良いからてめぇらこっから出てけ!!」


 鎌倉の異変にすぐに気付いた父親が、急いで鎌倉の部屋へ向かう!


「どうした、おい!」


「何でお前が来るんだよ!――タイミングの悪い奴だな!」


「何だと?」


 鎌倉の母は、鎌倉雲人の豹変ぶりにショックを受けたのかその場で涙を流してしまう。


「おまえ、母さんを泣かせるとは何て親不幸もんだ!」


「うるせー!――良いから僕の事は放っておいてくれよ!」


「お前!――父親に向かってその態度は何だ!」


「頼むから出て行ってくれ!!」


 パッチイイン!――父親にビンタをされる鎌倉!


「――何すんだ」


「頭を冷やせ、バカ息子が!」


 妹と母親が部屋から出て行く。


 それに続き父親も鎌倉雲人の部屋を出て行こうとしたその時!


「待てよ」


「――何だ?」


「お、お前らは僕のことなんて何も分かっていないんだ。何が父親だ、何が母親だ。ふざけるなと言いたいのは僕の方だ!」


「――どういう意味だ?」


「僕は……高校受験に全ての時間を費やしてきたんだ。何故だと思う?――どうせ分かんねーだろ!」


「………………」


「最初は悪い気はしていなかった。アンタらに雲人は真面目に勉強していて?――学年トップで?――行く行くはアンタの会社の後継者にでもなって?――何不自由なく生きていける環境で??」


「何が言いたい?」


「塾も一番有名なところをわざわざ選んでもらって??――学歴に傷が付かないように、僕の反抗期を押さえつけるような真似をして?」


「なにか不満でもあったのか?」


「あったさ、あったあった!――だってアンタらは何も気付いちゃくれないじゃないか!」


「お、お兄ちゃんもうよそう、ね?」


「お前は黙ってろ。んで、お前はこれからどんな言い訳でパパを言い包めるつもりだ?」


「なに?」


「どうせまたろくでもない事なんだろう?――何に悩んでいるのか知らないが、お前にはこれからやるべきことがまだまだ残っているだろう」


「うるせえ!!」


「――なっ!――まだそんな口を利くつもりか!?」


「だったら教えてやるよ。アンタらが今までどんな息子を育ててきたのか……」


 鎌倉の身体は小刻みに震えていた。ぱっと目を見開き、何かを伝える覚悟をした!


『雲人はなぁ!――〝性同一性障害者〟なんだよ!!』


「――ッ!!」


 学年でもトップクラスの学力をもち、優等生と言われる鎌倉雲人は、自分が性同一性障害であるという現実を着々と受け入れる覚悟でいた。学生生活を終えると同時に障害を理解して貰える環境で生きていきたいと、勉強をしながら強く願っていたのだった。それらの悩みを今の今まで両親にすら相談出来ないでいた。鎌倉家の飾り物のように優秀な〝鎌倉雲人〟を演じてきたのだ。


 これを期に鎌倉雲人はどこか吹っ切れたようでいた。次の日に学校を早退し、帰宅することなく〝歌舞伎町〟に足を踏み入れたのであった。


 『現状を変えたい。でも今じゃない。時期を待つんだ!』


「もう無理だ。僕は……いやあたしは!」


 『今まで積み重ねてきたものを、無駄にしてしまう結果になるんだぞ?』


「分かってる……」


 『それでも良いのか?』


「もう10年も自分に嘘を付いて生きてきたんだ。これ以上自分を否定してまで真面目に生きていこうだなんてあたしには耐えられない!」


 『どうするつもりだ?』


「あたしは……」


「あたしの抱える障害を武器に変えてみせるわ。誰よりも自分のために!」

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