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コロシタノダレ ~悪夢の学園と落とした記憶~  作者: まつだんご
◆サイドストーリーⅡ
27/43

12人目

 12人目、亀谷カメヤ妙子タエコ


 緑が広がり自然豊かで綺麗な水が透き通る島、その名は蛇邊島だべとう。沖縄諸島に位置し、燐島は伊江島になる。島の中心には大きなフェカ山が存在し、その山の南北の島の端と端に位置する蛇神寺へびがみでらが二ヵ所ある。


 今夜は蛇神寺で"ある儀式"を行なわれるわけになるのだが、それにしても今夜は様子がおかしい。最近では島人の皆が長年疑問に思っていた〝一つの矛盾〟が話題になっているが、その矛盾こそが〝ある儀式〟事態に対する不信感であった。


 島人達が抱いている【ソマツの儀式】への不信感

 ・蛇神寺は二ヵ所存在する。

 ・儀式に必要なもの:1蜜柑の御供え 2生贄 3踊り子

 ・蛇神様は複数存在しない

 ・生贄とは若い女の舌を切り差し上げる(生死は問わない)

 ・踊り子は男女問わない。が、踊りの中心には必ず女性を配置する

 ・ソマツの儀式を行う際は、蛇神寺南北どちらでも構わない

 ・ソマツの儀式とは、島の中心に位置するフェカ山を称える島の文化


 ここで一つの矛盾が生まれた。近年のソマツの儀式ではフェカ山を称えるのではなく、どこか恐れ多い蛇神様を称える儀式に変わっているようなのだ。


 『蛇神はいつの時代よりこの島に災いをもたらそうと生まれた疫病神だ』


 今夜はソマツの儀式が行われる。そして今夜も1人の若い女の舌を切り落

とさなければならないのだが、その対象者が亀谷カメヤ妙子タエコになる。場面は長老が亀谷の家を訪れたところから始まる。以下亀谷と長老の会話。


「妙子……時間だべ」


 重い足取りで儀式が行われる蛇神寺へ向かう亀谷。道中ではたいまつや火薬、提灯ちょうちんなどで道筋に灯かりが灯っている。


「のぅ長老様?」


「ん?」


「うちが舌切っだら、今度こそ蛇神はこんの島ざっと去てくれっと?」


「それは分からぬ……すまげろ」


「長老だ謝るごっとじゃねえべや。悪いのは蛇神のやっちゃ!」


「声を張っで蛇神の悪口を言うんでね」


「でも!」


「どでしだを切られるが不満か?」


「そうでねぇけど……どうせ舌切ったら蛇神の悪口もいえんべ」


「…………」


 次第に見えてきた蛇神寺。島人たちは儀式の中心を囲って正座しながら待機していた。その光景を目の前にした亀谷に恐怖が押し寄せて来る。


 蛇神寺にある鐘の音が響き渡る。儀式は始まったようだ。長老は亀谷の元から離れ、亀谷は一人儀式の舞台へ立っている。やがて島人たちが儀式の歌を静かに口ずさむ。と同時に踊り子が舞台の袖から登場し、踊りを始める。その中心に立たされている亀谷はそっと目を閉じる。


 寺から何者かが現れる。その人物は蛇神様の守護人の【カン】という男。寺から出てくるや否や早々と亀谷の元へ歩いてくる。


「やぁ蛇邊島の皆さん!――今夜も張り切っているようで何よりだ!」


 島の皆は、冠の話を聞きながら正座したまま地に頭を擦り付けていた。よく見ると冠の右手に拳銃が見えるが……


「さぁ今宵も私と蛇神様のために踊るんだ!――パーティの始まりだ!」


 そう言って拳銃を天に向け銃弾を撃つ冠!――パアアアアン!

 どことなく脅えているように見える島人達。それを見かねた冠が一言。


「てめぇら、何シケたツラしてやがるんだ!――これから蛇神様を称える儀式をおっぱじめようとしてるのによ!――それとも何だ、蛇神様に不満でもあるって言いたいのか?」


 中心で高々と声を張る冠、その周りは異様に静かな様子。


「ん?――ほぅ。お前が今夜の生贄の女か。」


 亀谷に近づく冠。亀谷は冠を睨み付けている様子。


「何だお前……その目は」


「………………」


「言いたいことがあるなら言ってみろ。聞いてやらなくもないぞ」


「――へ、蛇神様は今日も姿現さんべか?」


「――ん?」


「何度も何度も生贄捧げてるべさ。なして蛇神様は姿を現さぬだべか?」


「ふっふっふっふっふ。何を言うかと思えば虫ケラ風情の女が。まだそんな事を言っているのか?――良いかお前ら!」


 島人達に言い聞かせる冠。


「蛇神様はてめぇらのようなゴミとは住む次元が違うのだ!――だから蛇神様と対面したいだなんて大それた事をぬかすのはもうやめやがれ!――良いか虫ケラども!――それでも不満が解消されないなら、今日からこの俺様が蛇神様だと思うんだな!!」


 またも天に銃弾を一発!――パアアアアアン!


 銃声を聞き、なおも脅える島人達。だが……今の話を聞いた亀谷は、今まで噛み締めてきた怒りと憎しみを抑えるので一杯の様子。


「なんだお前」


「おかしいべそんなん」


「ん?」


「あ、あんたは!」


 だべ子が話し出そうとしたその時!――離れた場所から亀谷に言葉を投げる長老。


「妙子、やめるべ!」


「っ!」


 冠という男は、蛇神様なんて空想の神を作り出し、それを島人にとって崇めるべき存在であると教え、脳裏に叩きつけ、拳銃を右手に何年も脅してきたようだ。蛇邊島出身ではないとのこと。


「まあ良い。お前のような威勢の良い女は嫌いではない。俺も丁度お前のようなマヌケな女の舌を欲していたところだ。おい、そこの虫ケラ!」


 傍で正座していた数名の島人が冠に呼ばれる。


「お前らで良い。さっそく始めろ。生贄になる舌を切り落とせ!」


 儀式の舞台に上がる4人の島人。ひどく脅えていて足取は重そうだ。


「さっさとしろ!」


 銃弾を一発!――パアアアアン!

 1人の島人の足が撃たれた!――その島人はそのまま倒れこむ。


「っがああああ!!」


「あーあーあーあーうるせーよ、大げさな奴だな。さっさとはけろ!」


 それを見た島人は、早々に亀谷妙子を押さえ込み生贄の準備を始める。


「すんませげろ妙子……こんな事なしててしまっで」


 1人の島人が小声で話す。


「悪いのはおめぇと違うべ。さっさとせなまだ犠牲者増やすで」


 3人の島人が亀谷を押さえ込み、1人の男が大剣を亀谷に向ける。


「冠様?」


「さっさとやれ」


「く、すまぬ!」


 呼吸の音がはっきりと聞こえる程辺りは静かで……生贄を見守る島人達。舌を出す亀谷に大剣を持った男が近づき、そのまま大剣を亀谷の舌に当てる。


「――くそぉ!」


「やれ!」


 ――パアアアアアン!――さっさとやれと言わんばかりの銃弾を天に一発!


「うおおおおおおお!!」


 亀谷の舌を、切り落とそうと決心した島人が叫んだその時!――小声で何かを話す亀谷。


「がせ!」


「え?」


「離すべ!」


 亀谷が突然暴れ出した!


「冠の〝パンパン〟は7発撃っでもう〝ガラ〟だべ!」


「!!!!」


「――ん?……おい、何をしている。さっさとやらんか!」


「…………」


 小声で会話を続ける亀谷。


「あんにゃろーが弾を込める前に!」


 一気に走り抜ける亀谷!――島人の持っていた大剣を奪い、向かうは冠の元!


「うおおおおお!」


「お前っ!」


 拳銃を向ける冠!――目の前まで接近して来た亀谷妙子!


「しねえええええ!!」


 チャカッ!――冠の所持する拳銃の不発音。


「!?」


 ――周りは沈黙……儀式の舞台は見る見るうちに赤い血で染まっていく……亀谷も、全身に冠の血を浴びて真っ赤に染まっていた。


「ハアハアハアハア」


 倒れこむ冠。――島の皆は目の前の光景を見入るばかりで、何が起きたのか状況を把握出来ないでいる。


「え?――え?――え?」


 次第にざわつき……それはすぐに歓声へと変わった!


「うおおおおおぉぉぉぉ!!!」


「冠が死ぬど!」


「見でろあそこ、冠が倒れてんでな!」


「い、一体どういうこった!」


「おめぇだ!――妙子のやっちゃやりだべさ!」


「――妙子が」


「――おおおお……何と……」


 舞台に上がっていた島人のみんなにも涙が流れていた。


「お、終わったんだべ?」


「ああ……」


 だがそこへ現れたのは、冠に部下10人の黒スーツの人物ら!――彼らは拳銃で島人達を狙って構えている。


「こ、こうなっては事態は止まらんべ!――お、おめぇたち!命懸けだべや!――あやつらを捕らえるんべさ!」


「!!!!」


「妙子!――おめぇは早く逃げるんだべ!


 長老に言われるがまま亀谷が逃げようと走り出す。長老は亀谷に船が停船している場所を教え、外へ逃げるように言った。亀谷は戸惑いながらも船を探しに走り出した次の瞬間!


 パパパパパパパアアアアンン!――連続して銃声が鳴り響く。


 銃声を聞いて振り返る亀谷。その光景は……自分の同士達が次々と射殺され血を流し倒れ、悲痛の叫びが聞こえ……


「――うううああ……あああぁぁ!!」


 泣き崩れる亀谷。


 『妙子、おめぇは蛇邊島の島人のみなべ最後ど希望を与えでくれなすっだ女神様だべ!――誰もおめぇを恨んじゃいねぇ。だから必ず此処から逃げてくんれ!』


「――ウチは……女神様なんかでねぇ」


 『あそこに船があるべ。おめぇはわしらの最後の女神様だべ!――死んだらいかぬ!――おめぇが死んだらわしらは!』


「逃げるくれぇなら……いっそ」


 当時13歳の亀谷妙子は1人、涙を流して未知の世界へ旅立った。


「ウチは……」


「必ず戻るべ。〝パンパン〟手に入れであんにゃろーら復讐だべ!」

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