第十六話 『 マーカマさん 』
不安そうな創たち…
場所は有馬駅付近より戦場むくろの自宅までの道中。創は、ナツと高橋と共に路瓶さんが待ち合わせ場所に指定した戦場むくろの自宅へと向かっていた。
路瓶さん一体どうしたんだろう。どこか様子がおかしかったみたいだったな……そういえば、ナツは路瓶さんのことをあまり良く思ってなかったんだったな。息子が有馬駅連続殺人事件の被害者の1人だと知って同情するように僕達に賛同してくれたけど。
それにしてもだ。昨日の今日で何で一昨日の出来事を再現する必要があるんだ。だいたい3人でなくてはならない理由は何だ。路瓶さんは昨日の希望ヶ丘に突然現れた道化の仮面の不審者と接触してるんだよな。ナツが倒れた事も知っている彼が、昨日の今日に再現を頼んでくるなんて。真相は本人に直接聞くしかないけど、確かに不審な流れだよな。
「えっと……ハジメ君」
高橋が話を切り出す。
「その、さっき路瓶さんに言っていたお伝えし損ねた事って何です?」
「あぁ……僕はまだ、路瓶さんにも2人にも隠してることがあるんだ」
「え?」
「ちょっとハジメ。それってどういう意味よ!」
「まぁ聞けよ。僕らが戦場むくろ宅へ行った日のことなんだけど、最後に僕は人の声が聞こえたって言ったよね?」
「そういえば、それでハジメはしばらくの間むくろさんの自宅に突っ立ってたわね」
「ああ。今思うとおかしくないか?――だってあそこには既に戦場むくろが死んでるはずなんだぜ。誰かの声なんて聞こえるわけがない」
「確かに」
「そんでここからはお前らに言いそびれてた事だけど……それは微かにだけど間違いなく女の声だった。その女は僕に『助けて』と言ってきたんだ」
「えっ!」
「僕はあの黒い家に不気味さを感じて、更に不気味な声が聞こえたもんだから、逃げるようにしてむくろ宅を後にしたのだけれど……戦場むくろ殺害事件を知って僕は分からないでいたんだ。だっておかしいだろ?――それだとあの声の人物って一体誰なんだよ!……あの日戦場むくろは死んでいた。そして女の声。以上の事から今回の戦場むくろ殺害事件の被害者は……」
「被害者がむくろさん1人とは限らないという事ですね」
「そういう事だ!」
「なるほど」
「何でそれを早く言わないのよ!」
「それは……」
「ハジメは別に何もやましい事があるわけでもないのに、別に隠さなくたって良いじゃない!」
「隠してたわけじゃない。言うタイミングが無かったんだ。路瓶さんから、戦場むくろの自宅訪問の出来事を再現してくれと頼まれた後、まずは路瓶さんに現場で話すつもりだったんだ。その直後に学園内に不審者が現れたろう?……あれで完全に言いそびれたんだよ」
「何でむくろ宅へ行った帰り道に相談してくれなかったのよ?」
「あの時はただただ怖くて……真実として理解するのに時間が掛かったんだ」
「…………」
「あの日、僕は自分のことで頭がいっぱいになっていた。軟弱なのは身体だけじゃないんだ、くそっ!」
その場で立ち止まって、拳を強く握り締める。
「――女の人の声を無視してしまった自分に罪悪感を感じているのね?」
「でもそうなると事件の見方が変わってきますね」
「うーーん」
「その女性がむくろさんの事件と何か関わりがあるのは間違いありません。ですが、私たちはまず足音を聞いていますよね?」
推理のスイッチが入る積極的な高橋。
「そうだな」
「もし、その足音の正体がその女の人であれば辻褄は合うのですが、ハジメ君が女の人の声を聞いたのは私と石川さんがむくろさんの玄関を後にする時ですよね」
「つまり?」
「つまり、ハジメ君の聞いた女の人の声と、私たちが聞いた2度の足音が同一のものであると指し示す鍵は〝音が聞こえた場所〟だと思います」
「音が聞こえた場所……うーん、確かに足音は2度聞いて、2度目で足音を立てた謎の人物が2階に移動したのは間違いないだろう。でも……」
「女の人の声は上から聞こえてきました?」
「…………」
記憶を辿ってみる。――脳裏に焼き付いたあの言葉、あの瞬間。ハッキリ思い出してその真実は変わらなかった。
「――1階からだな」
「ハジメ、それ間違いないの!?」
ナツが創に問いかける。
「間違いない。それも玄関先すぐの左の部屋から聞こえてきた」
「そんな!――明らかに足音が聞こえてきた場所と違うじゃない!」
「そうなんだ」
「つまりどういうことよ?」
「あの家には戦場むくろの他に、少なくとも2名がいたことになる」
「2人!?」
「考えられる可能性と言ったら、犯人と被害者Bがいたのか、犯人が2人以上いたのか、もしくは戦場むくろの他に2人の被害者を合わせた合計3人の被害者がいたって事だ」
「待って!――そうとも限らないわ!」
高橋が待ったを入れる。
「え?」
「私たちが足音を2度聞いた時間と、ハジメ君が女の人の声を聞いた時間の間には、それなりの〝時間経過〟があった筈!」
「時間経過?」
「その間に起きた出来事といえば……ハジメが倒れたのよね」
僕が倒れた?……そうか、少しとはいえあの時の僕は完全に意識を失ってしまった。つまり2つの音にはそれなりの時間が経過していたという事になるのか。――そう考えると色々な可能性が生まれてくるな。
「ハジメ君が意識を失ってから、目が覚める間に経過した時間はえっと……2~3分くらい?」
「そうね。あの間は確か、むくろさんの玄関のドアを開けっ放しにしていたのよね」
「2~3分か。足音の人物が2階から1階の玄関先の左の部屋に移動するには十分な時間だな」
「電話回線の件もそうだけど、犯人は計画的かつ用意周到に事件を進行している可能性が高い。以上のことからハジメ君の聞いた女の人の声さえも、私達に不特定人物の居場所を誤認させたい理由があったとすると……」
「その女の声の人物は犯人。または共犯者の可能性が極めて高いということになるよな?」
「はい」
「え?――っていうことは犯人は女の人?」
理解が追いついていけない様子のナツ。
「そうとも限らないんだけどな」
「どういう事」
「他にも可能性があるってことだ。予め録音テープか何かをセットしておいて、それを流していただけなのかもしれないしな」
「今回の事件の犯人なら有り得るかもですね」
「どちらにしてもだ、そもそも僕たちは犯行現場と思われる戦場むくろの自宅を何も捜査していない。それだけに色々な可能性は見つけられても、答えに辿りつけないんだよ」
――それにしても高橋の奴、普段の高橋と事件の推理をしている高橋とのギャップがすごいな。
例の戦場むくろ宅の〝黒い家〟へと続く山道下の階段到着まで時間を進める。
「またこの山道を登るのか。それにしてもやっぱり警察が来ている感じはないな。パトカーが見当たらない」
「不自然ですね。まだ事件が起きてから〝2日〟しか経っていないのに」
「あの探偵はもうむくろさんの家に着いているのかしら」
「連絡しとくか」
路瓶さんに電話をしてみる。が、電源が入っていないようだ。
「繋がらないという事は、既に電波が無いむくろさんの家に着いてるのかもしれないですね」
「そうか、この上には電波が無いのか」
山道を歩く3人。
今回は、ナツも創らのペースに合わせてくれている。何か手がかりになるようなものは無いかと頭の中を巡らせていた創は、最近の出来事を少し整理してみようと思い、2人と距離を置いて歩いていた。
やっぱり気になる高橋について。僕はまだ彼女の身体の重さについて何も聞けていないんだったな。ナツは何か知っているのであろうか。うーん……これまでの出来事の中で、高橋は僕らと行動を共にしているわけだが。別に事件に関係しているとは思っちゃいないけど、高橋について簡単にまとめてみるか。
Q7.高橋は確か……
※読者の2択(答えはチェックポイント2に記載)
『携帯を二台所持している』or『携帯を所持していない』
「――んだったな」
Q8.高橋と初めて会った日は確か……
※読者の2択(答えはチェックポイント2に記載)
『1度目の入学式前』or『2度目の入学式前』
「――だった筈」
あれ、おかしいな。僕は初めて高橋と会った後に入学式をやったわけだけれども。高橋と会話した内容といえばアドレスの件と1Aの教室の場所。その後ナツが来たのだけれど、おかしくないか?――何であの会話のやり取りが成立するんだよ……だって1Aの教室前で高橋と会話した時には……僕の記憶が正しければ……
1度目の入学式で倒れた創は保健室で寝ていた。入学式の朝の出来事の夢を見ていたのだ。でもその入学式は、創の予言か記憶障害によって2回行われたかのように勝手に錯覚しているだけの筈。
恐らく真実:1度目の入学中倒れる→高橋と初めて会う→2度目の入学式中倒れる→高橋と会話。
創の錯覚:高橋と初めて会う→1度目の入学式中倒れる→高橋と会話→2度目の入学式中倒れる
Q9.高橋と初対面した日を誤認していた。それは……
※読者の2択(答えはチェックポイント2に記載)
『初対面は1度目の入学式前』or『初対面は2度目の入学式前』
「――だと思ってあいつに〝挨拶〟をしたんだ」
Q10.僕の記憶交差によって生じるひとつの……
※読者の選択肢(答えはチェックポイント2に記載)
1日付の勘違い
2人物の勘違い
3高橋の勘違い
4記憶の勘違い
――によって会話の中で一つの〝勘違い〟があったはずだ。それとも、高橋はそれに気付いたのだけれど、あえて流してくれたのか?……僕の考え過ぎなのか?
少し時間を進めて
戦場むくろの自宅に到着した3人。
戦場むくろの自宅の周りには、既に警察が戦場むくろ自宅中の捜査している。戦場むくろの自宅左から何人かの警官が歩いている。よく見ると創らの来た道とは別に、細くて長い階段が存在していた。
「あれ、あんなところに階段があるわね」
階段下を覗いてみる。見ると、細くて長い道が続く階段先に道路が存在していて、そこに数台のパトカーが停まっていた。
「パトカーがあんな場所に停まってるぞ」
「なーんだ〝他のルート〟があったんじゃない」
「なるほどな」
「ボーヤ達ソコでナ・ニ・してるの、パンケーキなの!」
誰かに呼び止められて慌てて振り返る。見るとこちらに近づいてくる一人の警察官。
「勝手に近づいちゃって御免なさい!」
「ムムッ?」
「ぼ、僕らは戦場むくろ殺害事件について調べています!」
慌てて事情を話す。路瓶さんが此処に来ていないか尋ねてみると……その警察官は周りの警察官達に路瓶さんを見かけたか聞いて回っていた。
「あらヤダ、来ていないらしいわよ。ノンなると巻きのようね」
路瓶さんはまだ来ていないようだ。
車内へ移動
創ら3人は沈黙だった。恐らく、いや間違いなく彼らの考えている事は一致している。何となく創がそのことについて感じたことを2人に軽く聞いてみる事にした。
「な、なぁ、あの警察官の人」
「あんな格好が許されるの?」
その話をしてくれるの待っていましたと言わんばかりの返事の速さ。
「――男らしい女の方なのかもしれませんよ?」
しばらくしてからさっきの警察官が現れた。創らはこれからその警察官に事情聴取を受けるわけなのだが。【倉雲マーマレイド】と名乗るその警官は、路瓶さんを見かけた者はいなかったと告げるとさっそく本題に入る。
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重要人物 倉雲 マーマレイド(??)
男性? 身長188cm 体重89kg
職業は警察官 有名なオカマ警察としての異名をもつ
異名は【マーカマさん】 年齢と本名は不明
重要人物21人目!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
創らはこれまでに起きた出来事を全て話した。3人の話を静かに聞きながら3人の言葉を一つ一つメモをする倉雲。その経過時間2時間。
「な・る・ほ・ど・ね★今の話って警察には初めて話したのよね?」
「はい。本当はもっと早くにお伝えしたかったのですが」
運転席から創らに体を向けて、一人一人に話しを聞く倉雲。倉雲がメモに集中している隙にマジマジと倉雲さんを観察してみる創。
――僕は、オカマに対しては、さほど偏見はない。だが、この人に関してはつっこみどころがあり過ぎるだろう。筋肉ってあんなに成長するのか、どうしたらああなる。それに口紅……何色だあれは……
倉雲が創に目線を向ける。
「それでその探偵の男が、翌日に訪れてしたボーヤ達の不可解な出来事を再現してほしいと頼まれたって事ね。待ち合わせ場所が戦場むくろの自宅ね」
「は、はい。そういえば此処は電波無いんでしたっけ?」
「ん、連絡ならとれるわよ?」
「え?」
「電波が悪いのはそうだけど、個人の携帯でも可能だけど?」
「此処まで降りれば電波は正常って事ですね。もう一度路瓶さんに連絡してみます」
再度路瓶さんに電話してみたのだが、やはり電源が入っていない。
「繋がらないですね」
「とりあえず事情は分かったわ。君たちはそのクソ探偵を待っていて、そのクソ探偵と一昨日の出来事を現場でクソ再現したいのね?」
「く、倉雲さん?」
「マーマレイド。もしくは【マーカマ】ってお呼び!――苗字はあまり好きくないのよ。昨夜のオカズで言う和風ドレッシングサラダ並にね」
「――あら、和ドレがお嫌いですか?」
「嫌いだわ」
「へ、へぇ~。和ドレが嫌いだなんてそれはそれは……」
「和ドレを好んで食べるバカな連中の1人にならなかっただけ、感謝しないとね。あんなの毒液よ、ど・く・え・き!」
和ドレ大好き舞園創の心に火が灯る。
「ほう……えっとくら、マーカマさん?――和ドレによって引き立たされる数々の色鮮やかな野菜達が口の中に入れた瞬間、和ドレのステップに合わせて、まるで野菜達が踊り出しているかのようなあの感覚が分からないんですか!」
「――ええ分からないわ」
「僕の話を聞いてくれませんか!?」
「あ、あの?」
高橋が2人の話に割って入ろうとするが、止められそうも無い。
――それから約20分の間、和ドレについて議論し合う創とマーカマ。ナツの頭から〝プッツン〟と切れる音が聞こえた気がする。以下ナツ怒り爆発!
「おいアンタら!」
「!?」
「和ドレじゃないわよ和ドレじゃ!――私達は何しに此処まで来てるんだった!?――じ・け・んよ事件!――分かる?――戦場むくろの事件についてマーカマさんにお話をするためにわざわざパトカーに乗って2時間も事情聴取を受けたんでしょうが!」
「…………」
「それにマーカマさんもマーカマさんだわ!――何を訳の分からない話をしているのよ!」
「え……」
「ナメんじゃないわよ!!」
――とその時。沈黙が続いた高橋が口を開く!
「ちょっとナツ!?」
「文句があ……るん?」
「少し黙っててもらえませんか?」
「えっ」
『和ドレの続きが聞けないじゃないですか』
「………………」
ナツが、ナツが静かになった?……お、恐るべし高橋!
更に30分後事情聴取終了
「――今聞いた詳細について警察にはあたしから報告しておくわ。それと、その探偵が見えたらあたしに報告よろしく♪」
「わかりました」
「助かります」
マーカマさんは車の窓を開けて、近くにいる警官に話しかけた。
「そこのボーヤ、悪いけどこの子ら3人の飲み物を頼まれてくれないかしら?」
創ら3人は顔を見合わせていた。どうしようと言った表情か。
「ではお言葉に甘えて、冷たいお茶でお願いします」
冷たいお茶を希望する高橋。
「僕はコーヒーを」
無糖ブラックコーヒーとは、渋いね創よ。
「…………」
「ナツ?」
「だぁもう、アンタまだ怒ってるの?」
「別に怒っていないわよ。――スポーツ飲料で!」
「悪いわね。もうしばらく此処で待機していてちょーだい」
「はい」
「適当に冷たいの買ってきて!」
「――え、あ、はい!」
マーカマは、パトカーから出て行った。
――適当に冷たいの?――何のために僕たちに希望の飲み物を聞いてきたんだ。マーカマがパトカーを後にする際に渡された名刺。マーカマの連絡先が書いてある名刺で、ピンクのキラキラでデコレーションされている。ついでに本人の顔写真付き。
「――ん、これは?」
車内の運転席に置かれたメモ帳の存在に気付く創。
マーカマさんがうっかり落としたのか?
創はそのメモ帳を手に取りメモ内容を見てみる。メモ内容は……数々の事件について書かれている。
「ちょっと!」
「マーカマさんの物みたいだな」
「勝手に見ちゃだめですよ?」
「もしかしたら戦場むくろ殺害事件について、細かい情報が載ってるかもしれないじゃないか」
最近メモした内容が何なのか確認してみる。そこには戦場むくろと戦場貞子のプロフィール等の主な詳細が載っていた。プロフィールの下には〝あるマーク〟が載っているが。
そのマークとは、三角マークの形、三角内中央上には人の目があり、目の下には笑った口があった。そのマーク全体にバッテンがされている。(後々挿絵で紹介されます)
似ている。戦場貞子の背中の刺青と非常に似ている。笑った口とマーク全体のバッテンを除けば、何かを指した同一のマークで間違いない。
戦場姉妹の情報!?
※後書き
戦場貞子の刺青とマーカマのメモ帳に書かれたマークは同一のものになります。マークは後々挿絵で明かされます。




