第一話 『 入学式 』
全てはここから!
プロローグは、今作主人公による〝記憶障害〟から生まれてしまった〝非現実的な世界〟という提から始まる。舞園創を中心に様々な出来事が起こる中で見えてくる〝真実〟に迫ったお話。横浜市内にある公立【希望ヶ丘学園】に〝入学した日〟から立て続けに起きてしまう事件。
この学園の秘密に迫るべきか。事件の本質を見極めるべきか。非現実だと決めつめてしまうか。どちらにせよ、真実は物語の中に隠されている。舞園創の夢の世界から物語を進める。
「――光が眩しい」
視界の先――辺り一面に光が射し込んでくる感覚。――次第に見えてくる〝彼〟の目の前に立つは〝幼馴染の女の子〟の記憶。
「あれ、お前何だよ?」
「…………」
「――お前は何だよ?」
次第に辺りの光が消えていくのが分かる。が、彼の記憶の次に映るものは青い景色――よく見ると此処は水の中のようだが。
彼の視界がはっきりしたのと同時に、呼吸が出来ない事に気付く!――そのまま身体が他の世界へと飛ばされてしまう感覚。夢の中で記憶を整理しているのか!?
「――今度は何処だ?」
夢の世界は続いている。次は学校の廊下へ飛ばされているようだ。記憶に映るこの廊下の景色は、彼の母校であろうか。
「夢なら覚めてくれ」
成す術の無い彼は、とりあえず廊下をウロウロしてみた。
「此処は何処だ。最近見た場所のような。最近?――昨日?――今?」
「こっちにおいで」
「え、行けばいいのか?」
彼の記憶に在る幼馴染の女の子の記憶。彼女は彼をこっちにおいでと呼んでいる。――彼女に言われた通り呼ばれた方を歩いていた道中で、見るからに怪しげなピンク色の大きな扉を見つける。どっしりと構えたその扉の周りに背景は無く、その存在感に圧倒されてしまう。その扉は【体育館入り口】と案内書きがされている。
「此処はえっと、体育館?」
僕が今まで見てきた夢の事を考えるとこの扉を開けるしかないんだよな。――それにしても、何でまたこんな訳分からない夢を見ているんだろう?――考えても仕方がない、どうせこれを開けないと終わらない。
やるしかないと自分に言い聞かせた彼は、ゆっくりとピンク色の体育館入り口の扉を押し開ける。
――扉を開けたところで気絶してしまう。彼の見る〝夢の世界〟の大半の最後は気絶して終わる。夢から覚めた時には少し前の出来事を忘れていて、覚えのない場所で目が覚める。彼の意識が夢の世界から現実の世界に戻っていく。
「――夢から覚めた?」
彼の周りには大勢の人が集まって立っている。その光景はまるで新しい何かを始めようとするかのような、見渡す限りの人!――人!――人?
「え……」
大勢の人ごみの中、さっそく視界に飛び込んできた〝例のオンナ〟。彼女と彼の間には少し距離がある。【謎のオンナ】と目が合ったのはほんの数秒ほど。彼は目を逸らす。恥ずかしいとかではない。ただ……
「シーー」
知らない女が彼に何かを伝えようとしている。人差し指を口元に置き、まるで『静かにしろ』と言っているかのように。意味が分からないので目線を逸らす彼。――彼の周りに沢山の人は居るが物音一つ無い。少し間を置いてからもう一度謎のオンナに目線戻した次の瞬間!
「えー皆さん、希望ヶ丘学園へようこそ。わたくしが学園長を務めます【菊池昭造】と申します」
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重要人物 菊池 昭造(52)
男性 身長体重情報なし 希望ヶ丘学園長
温厚で優しい人と噂される一方で……
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「皆さんにはのびのびとこの学園生活を堪能していただくため教師一同……」
「入学式?」
夢の世界から戻ってきたばかりの彼は今、自分が何故此処に立っているのか分かっていないよう。状況を理解するのに時間が掛かっていた。
「ここは希望ヶ丘学園で、今は入学式中ということか?――思い出せない」
「――え?」
隣から女性の声がした。
「何か言った?」
「あれ、お前は【ナツ】?」
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重要人物 石川 ナツ(15)
女性 身長159cm 体重46kg
趣味は歌うこと 特技は水泳
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「あ、いや別に何も」
「それより見てよ【ハジメ】――あの人がA組の担任の先生だって!」
「A組?――担任の先生?」
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重要人物 青葉 博文(41)
男性 身長168cm 体重61kg
A組の担任 辛口で生徒に恐れられている鬼教師
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「何よあの先生。何かムスっとしてない?」
「してるな」
――自己紹介をしておく。僕の名前は〝舞園 創。どうやら僕は今、この希望ヶ丘学園の入学式をやっているらしい。らしいって言ったら疑問に思うかもしれないけれど、それが真実であって。どうやら僕は今朝の出来事を覚えていないよう。
こういう事はたまーにあることで特別驚きはしないけど、その度にやってくる疲労感とストレスが半端なく押し寄せてくるわけで……不幸なことに、この症状は定期的にではなく突然としてやってくる。いわゆる【記憶障害】を抱えている事になる。そんな時僕は一人ではどうにもならなくな……るんだ……
――またも倒れる舞園創。
「はっ!――ハジメ?――ちょっとハジメ?――は……」
意識不明(舞園創)
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夢の中(舞園創)
以下十歳の頃の舞園創と創のお母さんの会話より。
「――ねえ母さん?――母さんはどうしていつも花飾りをしているの?」
「あらーハジメ、また忘れちゃったの?――お母さんはね、花飾りが好きなのよ。ハジメのお父さんがね、花飾りをしているお母さんを見て『君は花飾りが良く似合う。本当に綺麗だよ』って言ってくれたのよ」
「――お父さんが?」
「お父さんにそんなこと言われたの初めてでね」
「嬉しかったんだね?」
「そうねー。それからすぐにあなたが生まれてね」
「僕が生まれる前の話?」
「――この話何回したと思ってるのよ」
「えへへ」
――お父さんは僕が生まれた年に亡くなった。僕はお父さんをよく知らないんだ。――お父さんを知っている母さんが……羨ましかった.
『お前の記憶は此処に在る!』
夢が終わる最後の瞬間に映った見知らぬ大男の記憶。創の記憶の中で確かに見えた謎の大男。
場面移動(舞園創)
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目覚め(舞園創)
意識を取り戻した創。――目を開けるとそこは見慣れない部屋。ベッドから起き上がり辺りを見回す。どうやら此処はどこかの保健室のようだ。さっきの希望ヶ丘の入学式からすると、希望ヶ丘学園の保健室で間違いないだろう。同室に居るのは石川ナツ。
「気が付いたのね」
「――ナツ、僕は」
ナツに事情を聞かずとも、自分がどうなっていたのか理解が出来ていた。どうやら記憶障害による疲労で倒れてしまったのだろう。ナツは創の症状について詳しく知っている。そんな彼女の頷きで全てを悟ったのだ。
ナツとは幼稚園からの幼馴染で、中学の受験シーズンの頃、何となく進学に困っている創に希望ヶ丘学園を勧めてきた。彼女に一方的に連れて行かれるかのようにして、進路を希望ヶ丘学園に決めてしまっていた創。そして今に至るわけだが。
「――お母さんには連絡しておいたわよ。病院はどうする?」
「うーん、今何時?」
「昼の12時ね」
「じゃあ良いや。入学式は終わったの?」
「うん」
ゆっくりと立ち上がる創。
下校途中で創の体調に気を配るナツ。二人の最寄の駅は【有馬駅】と言う所で、希望ヶ丘学園の最寄駅から電車一本3駅で着く距離になる。その下校途中まで時間を進める。
電車内
さっそく見つけた例のオンナ。――すぐにあのオンナに気が付いた創。オンナは創らを尾行していたかと思う位に同じタイミングで同じ車両に乗り込んできたのだ。
この時創は、〝ある記憶〟を頭の中で探していた。彼が謎のオンナに対して引っ掛かる事、それは彼女とはどこかで会ったような気がする。思い出せそうで思い出せない非常に気持ちの悪い感覚だった。その時、創と謎のオンナの様子を見ているナツが一言。
「知り合い?」
「分からない」
もしかしたら今朝に何か話したのかもしれないと思った創は、記憶の断片を辿ってみたが彼女に行き着くことはなかった。創が今朝に話でもして勝手に忘れているのだろうか。
「ちょっと行ってくる」
謎のオンナの元へ歩いて行く創。以下創と謎のオンナの会話。
「えっとあの、ひょっとして今朝とかに僕と喋ってたりする?」
「…………」
「ああごめん。実は今朝の事忘れててさ!――ね、寝ぼけてたみたい!――だから悪いんだけど君の事を覚えてないんだよ!」
「…………」
赤いマニキュアに赤いヒール、赤の口紅を塗っている。――しかし何で創の質問に答えないんだ。黙り込んだまま創を見つめる謎のオンナ。後に登場する彼女の目的は一体。
「――聞こえてる?」
「――かま」
「え?」
『カマガハエテル!』
謎のオンナに意味の分からない言葉を投げられた創。――そうしているうちに駅に着き、電車のドアが開いた。その直後に謎のオンナはわざわざ創の体にぶつかるようにして電車を降りる。ドアが閉まった。女は窓越しに創をゆび指して笑い始めたのだ。創らの乗る電車が発車し、謎のオンナが視界から消えてしまう。
「何今の、ハジメ?」
「――意味分からない」
何なんだあのオンナ。僕はあいつと何か話してたのか?――思い出せない。おもいださない。オモイダシタクナイ?
思い出したくない!?