第十二話 『 迎え撃つ男 』
銃弾の行方は…
拳銃の銃口から白い煙。沈黙が流れる……
不審者Aが銃弾を撃つ際に突然現れた黒いロングコートの男。鍵が掛かっていた会議室をどうやって解除したのかは分からない。不審者Aは会議室のドアの鍵が解除されて突然現れたそのコートの男に驚いて、銃弾を一発その男へ。だが、黒いロングコートの男は入り口のドアに隠れて銃弾をかわしていた。
黒いコートの男は会議室入り口に隠れたまま動かない。しばらく沈黙が続いた。そして不審者は再び通信機を口元に近づけて……
『〝例の男〟と思われる人物が現れた』
創は何が起きているのかさっぱり分からないまま、パニック状態のせいか呼吸困難になってしまっている。
高橋も相変わらず意識を失ったまま。創はこの状況を打破出来る方法を頭の中でイメージしている。しかし身体が動かない。痺れ?――体全体がマヒしている感覚。謎の仮面男と黒いロングコートの二人の沈黙の間が怖すぎて目線をそらす創。
「だがばし……うう」
再び手を伸ばす創。が、やはり高橋に後もうちょっとの所で届かない。
「――了解」
不審者Aは通信先の相手に何かを了解した。
――不審者Aは突然走り出して会議室の窓を目掛けて銃弾を一発!――そのまま窓硝子を割って外へ飛び出す。すぐ後を追いに会議室に入室する黒いロングコートの男。
――と、黒いロングコートの男が創を見て足を止める。何者かは知らないその男は、創の顔や体をマジマジと見た。
「――何だ、おべぇは……」
「撃たれたのか?」
「う、うだれでない!」
黒いロングコートの男はそのまま立ち去ろうとした。
「ま、までよ……ハアハア。な、ナズがろうがへででいっだきり……もどっでごない」
「…………」
「な、なにもどがば知らないが……ナズをだのまれてくれないかっ!……ハアハア」
黒いロングコートの男は少しの間、不審者Aの逃走した窓の外を眺めて
考えている様子。
「だ、だのむッ!」
残り少ない力を振り絞り、ズボンの後ろポケットから財布を取り出す。
「ぞのしゃしんにうずってる……ハアハア、だ、だのむ!」
「――え。これは……」
黒いロングコートの男はその写真を受け取った。そして頷いてくれた!
「わ、悪い」
シーン移動
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B塔内2F廊下
不審者Bとくまおの攻防が続く!
「くっ!」
不審者Bは通信機を取り出している。路瓶は必死に起き上がろうとするが、不審者Bによる攻撃で足の自由を奪われているようだ。すぐ傍に不審者Bの所持していた拳銃が落ちている。
くまおの右ストレート!――不審者Bは一歩後ろに下がりそのパンチを回避し距離を計る!――距離をとったまま通信機を耳元に置く。
「どうしました?」
余すことなくくまおの渾身のパンチが不審者Bを狙い撃ちをする!――と同時に壁蹴りで宙に浮いた不審者B!――不審者Bの反撃の蹴り一発!
「うっ!!」
一瞬フラついたくまお――そして壁蹴りから着地した不審者B――それはとても人間技とは思えないものであった。今度はくまおが一歩下がり距離をとる!
「何ですって!?」
「――ん?」
「り、了解しました」
不審者Bは通信機を耳から離して右ポケットにしまう。
数秒の沈黙が続いたその時!――不審者Bは突然くまおとは反対側へと走る!――くまおもそれを追いかけようと走る。とその時、背後から路瓶に止められる。
「待て君、そこの拳銃を私に渡しなさい!」
拳銃を見るくまお。なおも走り続ける不審者B。そこでくまおが一言。
「悪いが俺から見れば貴様も不審者同然。何者か分からない今、貴様に拳銃を渡すわけにはいかない」
そう言い残したくまおは、拳銃を持って不審者Bを追いかけて行った。
「ま、待て、君!」
不審者B逃げる――くまお追いかける!――だが、不審者Bの逃走先に待ち受けていたのは……黒いロングコートの男が不審者Bの逃走先で待ち構えている。
「っち!――次から次へとッ!!」
黒いロングコートの男はポケットに手を入れたまま不審者Bがこちらに向かってくるのを待っている。しかし!――不審者Bが何かを投げた。それは一気に緑の煙となって視界を奪う!
「煙球!!」
一瞬にして広がる緑色の煙によって不審者Bを見失うロングコ-トの男。それはすぐに薄れていく……次第に奪われた視界が戻る。そこに不審者Bとくまおの姿は無かった。
シーン移動
――――――――――――――――――――――――――――――
B塔内1F階段前
走るのを止めるくまお。煙球が投げられた後もそのまま後を追っていたが不審者Bは見当たらなかった。くまおは不審者Bに蹴られたアゴを指で掻く。
「かゆいものだ」
シーン移動
――――――――――――――――――――――――――――――
A塔内1F会議室
「ハアハアハアハア」
ゆっくり体を起こす創。体に感じた麻痺が次第に和らいでいくのが分かる。足元をフラフラさせ、歩くのも覚束無い状態で高橋の元へ歩く。
「お、おい、高橋、高橋!」
「――――う!」
「――た、高橋!」
「――まいぞの君?」
「良かった、気が付いた!」
「あれ、私は一体何を……」
自力で体を起こす高橋。
「話は後だ!――とにかくここは危険なんだ。高橋はどこでも良いからこの学園から逃げるんだ」
「危険?――え、どういう事ですか?」
「説明している時間は無い。僕はナツを探しに行ってくるから、お前は此処から逃げろ!」
シーン移動
――――――――――――――――――――――――――――――
B塔内2F廊下
誰かの足音が聞こえる。足音を立てている人物は、倒れている路瓶の元へと近づいている。〝黒いロングコートの男〟のようだ。
「う、うぐっ、誰だ?」
「――この女を捜している」
そう言うと、ポケットから写真を取り出す黒いロングコートの男。その写真には舞園創と女の人が2ショットで写っている写真だった。
「その子は誰だ、何か用でもあるのか?」
「ここに写っている男子生徒による頼まれ事だ。ナツという女子生徒の身柄を確保したい」
「ハジメ君の頼まれ事だと?」
「彼は会議室で倒れていて身動きがとれない様子だった」
「その前に聞かせて貰おう!」
「――えっと、立てるかい?」
黒いロングコートの男は路瓶に手を差し伸べた、が。
「触るな!」
「…………」
「貴様は何者だ。見たところここの生徒ではないように見えるが?」
「俺は……」
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重要人物 赤西 堅也(21)
男性 身長171cm 体重61kg
黒のロングコートに黒のハット着用
重要人物29人目!
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シーン移動
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C塔入り口前にて
創の言葉に耳を貸してくれない高橋とやむを得ず一緒に行動を共にしている創。その間、高橋の意識がない間に起きた出来事を説明したのだが、その出来事というのは本人さえも理解不能でしかない内容だった。
「ナツは何処にいるんだ?」
「A塔にはいらっしゃいませんでしたね」
そこへ、遠くから男の人が創に声を掛ける。
「ハジメ君に高橋さん!」
「あっロビンさん!」
足を引きずりながら創らの元へと歩いて来る路瓶。
「こんな所に居たのか。どこにも見当たらないから心配したじゃないか」
「ロビンさん、何があったんですか?」
「どうやら不審者2名は既に学園の外へと逃亡したみたいだね」
「足……どうされたんですか?」
「ああ、こんなもの大したこと無い。ちょいと無茶してな」
「不審者にやられたんですね?――何者なんですかあいつ。いやあいつら?」
「分からない……」
「あの、ところでナツは何処にいるんでしょう?」
「それが見かけておらんのだよ。石川さんが廊下に出た直後に聞こえた女子生徒の悲鳴は、てっきり石川さんによるものかと思ったのだがどうやら違うみたいだし……」
「そんな……」
「とにかくこれから探して回ってみる。此処は危険だ。君達は速やかに警察に保護して貰うんだ」
「…………」
すでに警察の応援は来ているようだ。生徒達の身柄を確保する役割と、事件の捜査にあたる役割、引き続き不審者を追跡する役割に分かれていた。とその時!――路瓶の携帯が鳴る。
「もしもし。――何、本当か、今行く!!」
路瓶は通話を切り携帯をしまった。
「石川さんが見つかったようだ!」
「本当ですか!」
創らは急いでナツの元へと向かった。場所はB塔1Fの女子トイレ。
「な、ナツッ!!」
意識を失っている石川ナツ。
ナツの身に何が起きたんだ?
警察に事情を全て話してからナツを背中に抱えて校舎の外へ向かう創。
「ハジメ君、体の具合はもう平気なのかい?」
「はい。色々とご迷惑をお掛けしました」
「それは良いんだが……」
「路瓶さん、これ僕の連絡先です」
創は、あらかじめ書き記しておいた自分の連絡先のメモをロビンさんに渡す。
「うむ」
「必ず連絡下さい、待ってますから」
「分かった」
「では」
ナツを背中で抱えたまま高橋と共に救急車の元へと歩いて行った。少し進んだ先で突然遠くから路瓶に呼び止められる!
「ハジメ君よ!」
「?」
「黒いコートの男からの連絡だったよ!」
「え?……会ったんですか」
黒いコートってあの人のことだよなぁ?――本当にナツを探してくれていたのか。
「彼が石川さんを見つけてくれたんだ!」
「あの人が……」
フラッシュバック
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A塔1F会議室
「な、なにもどがば知らないが……ナ、ナズをだのまれてくれないかっ!……ハアハア」
「…………」
「だ、だのむッ!」
黒いロングコートの男はその写真を受け取った。そして頷いてくれた!
フラッシュバック終了
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場面戻る
「ああ、ごめんごめん。君を引き止めるつもりじゃなかった。彼には私からお礼を言っておくよ!」
「す、すみません。お願いします!」
お礼は自分で言いたかった創。だけど今優先すべきはナツの安否の確認だ。ナツの付き添いで彼らも急いで病院へ向かう。救急隊員に誘導されて救急車に乗り込む創と高橋。石川ナツを乗せた救急車が発車し、サイレンが鳴り響く。
――数分後、救急車内にて。高橋はナツの手を握っている。以下創と高橋の会話。
「特に怪我した様子ではないよな?」
「そうみたいですね」
「変な薬でも飲まされたか?」
「…………」
「くそっ!」
「舞園君?」
「どうして僕はあんな危険な事態だっていうのに体が麻痺したんだ。お前が意識を失って、ナツが廊下へ向かって、女子生徒の悲鳴が聞こえて。校内放送で不審者がいると聞いて!――ぼ、僕はッ何も出来なかった!――僕は……誰も守れないただのクズ野郎だ!」
「――そんなに自分を責めてはいけないですよ、舞園君」
「でもッ!」
「私には聞こえてました。舞園君が私を呼んでくれている声が。突然闇に堕ちた私に、度々光を当ててくれたのは舞園君なんだよ」
「聞こえてたのか?」
「うんっ。だから舞園君が傍にいてくれて私は救われたのよ」
「こんな僕でも少しは力になれたのかな?」
「そうね。それよりも謝らなきゃならないのは私の方。あんな事態なのに気を失っていたなんて……」
「…………」
「迷惑掛けたよね、ごめんね」
高橋の僕に対する言葉遣いから敬語が少しずつ無くなっているのに気付いた。少しは打ち明けてくれたのかと思い、悲しみと同時に少しだけ嬉しかった。――救急車は進む。
場面移動
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希望ヶ丘学園近くの歩道へ移る
カツカツと足音が目立って聞こえる。風が静かに通り過ぎる。ポケットに手を入れて舞園たちの乗っている救急車の向かった方角を見ている赤西。
「厄介なものだ。彼らは、まだ未成年じゃないか」
赤西の独り言。創から預かっている写真を見てため息を一回。
彼は何者!?




