14人目
次は14人目、青葉博文!
――彼は怖い夢を見ている。とても思い出したくない過去……実際に経験したあの忘れることの出来ない悪夢。いや、忘れてはいけないだろう忘れる事が出来ないであろう出来事。苦しそうな表情を浮かべる青葉。眠っているようだが酷く魘されている。体中の汗が尋常ではない量で流れていて顔色は真っ青だ。――と、その時!?
「ハッ!」
目が覚めた。
「……ハアハア……」
青葉はリビングのソファーで眠っていたようだ。服装はスーツ。どうやら仕事から帰宅してそのまま眠ってしまったよう。彼の目覚めたリビングには息子の仏壇らしきものが置いてある。
仏壇に置いてある息子の写真を見つめる青葉。
次第に表情が険しくなっていき、目から涙を流す。
しばらくして息子の写真から目を逸らす。
台所へ走り出す青葉。何をするのかと思えばキッチンから果物ナイフを取り出している!――その果物ナイフを、震えている左手で右手の手首に近づける……
5年前
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季節は夏。当時36歳の青葉先生とその息子、龍太郎6歳。二人はある人物を待たせている最中に見つけたある物で足を止める。以下青葉と息子の会話より。
「お父さん、ねぇねぇ!」
「ん?」
「これ見てよ、大変だよ!」
龍太郎が青葉に見せたのは裏返しになって弱っているカナブン。
「これはカナブンだね、かなり弱っているみたいだ」
「どうしよう、カナブン死んじゃうの!?」
「うーん……」
「僕がこのカナブンを助けてあげたい!」
「そうだね、助けてあげよう」
裏返しになったカナブンを表に返してみる青葉。
「これでもう大丈夫だ」
「――うん」
「さあ、母さんがお待ちかねだろうからもう行くよ」
青葉の言葉が耳に入らない龍太郎。少しの間、龍太郎は弱ったカナブンを観察する。何となく待ってあげるべきだと思った青葉は、龍太郎を暖かく見守る事にした。
「――うーん、なんかまだ元気ないね?」
「そうだね」
「――うーん」
時計を見る青葉。
「龍太郎?」
「あ、うんごめんねカナブンさん。僕もう行かないと」
「――ふふ」
龍太郎は優しい子だな。龍太郎の通ってる幼稚園の周りの同年代の男の子は皆、外で遊ぶ戦いごっこがブームになっているというのに。外で戦いごっこをすると気付かないで虫を踏んじゃうなんて言い出してさ。――そのままの優しい龍太郎ですこやかに成長してくれよ?
「お父さん、このカナブンオウチに連れて行って良い!?」
「ああ良いよ」
「やったぁ!」
弱ったカナブンを両手の平に乗せる龍太郎。
「行こうか」
「うん!」
時を進める(1年後)
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とある場所
当時37歳の青葉先生とその息子、龍太郎7歳。以下青葉の記憶により曖昧な表現となる。青葉と息子、龍太郎の会話より。
「龍太郎龍太郎!」
「お父さんゴボォ!!」
「お父さんにつかまれ龍太郎!」
「おおぼおうざああん!!」
溺れている龍太郎。その体はすぐさま水中へと沈んでしまう。
「龍太郎龍太郎!」
水の中で溺れている龍太郎を潜って救出しようと試みる。
「ゴゴポゴオオ!」
「ゴゴオウウザアブン!!」
手を伸ばして龍太郎を引っ張り出そうとする青葉。龍太郎も必死に手を伸ばす。二人の指先が触れたところで龍太郎が水中で泡を吹き出してから更に奥まで押し沈められる。
「ギュブルゴダロウギュブルゴダロウ!」
「ゴゴ……オウウザア……ブン!」
「ギュブルゴダロウギュブルゴダロウ!」
「ゴオオオオ……アバ……」
青葉を見つめながら沈んでいく龍太郎は、目を開けたまま意識を失ってしまう。青葉が死にもの狂いで手を伸ばし続けるが、龍太郎には届かなかった。
何度も何度も潜って捜索を続ける青葉。だが、ついには龍太郎の姿さえ見当たらなくなってしまう。黒い闇に乗り込まれたかのような息子の最期。息子を助けられなかった自分を今でも許せずにいる青葉は、自身で身体中を痛めつけていた。
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場面は戻る
果物ナイフを右手首に近づけている青葉。果物ナイフを持つ左手の震えが、次第に強まっていく。
泣き叫んでから果物ナイフを投げ捨てる!
今度は絶叫した。
「なぁ、龍太郎……お前を助けられなかったお父さんを、恨んでいるかい?……グスン……お父さんな……お父さんな……」
しばらくの沈黙が続く。
「――もう限界だ……グスン……誰か助けてくれ」
また少しの間の沈黙。
「――誰か私を殺してくれェ!!」
数分後。彼が少しずつ落ち着いてきたように見て取れる。
「グスン……龍太郎?――本当はね、お父さん死ぬのが怖いんだ」
自宅の電話が鳴る。が、しかし着信を無視して天井を見上げる青葉。
「しにたい」
電話は鳴り続ける。仏壇には龍太郎と思われる写真の他に、女性の写真も置いてある。
「ダレか……ダレか……」
「何でも良い、息子を返してくれ。お願いだ……返してくれ」
サイドストーリーⅠは以上になります。
6人目と14人目はサイドストーリーで紹介されたので、重要人物確定しました。




