闇の中でもがく青年4
闇の中でもがく青年4
7月。青葉の体の状態は、日を追うごとに悪くなっていた。夜はなかなか眠れず、体の疲れが蓄積し続けた。食べものを前にしても、食欲が湧かない。少し口にして、おいしいと感じることはあるのだが、だからといって、それ以上食べたいとは思わなかった。栄養を摂取しなければならない。そんな義務感から無感情に咀嚼し、消化する。もはや食事を楽しむことなど、到底出来そうもなかった。
“死にたい”そんな事を考えるのが日常になっていた。ふと気が付くと、自殺、楽に死ぬ方法、というキーワードを入力し、検索していた。風呂場や布団の中で涙を流した。自分の首を絞めてみたり、紐をボーっと眺めていた。これで首を絞めたら楽になれるのだろうか・・・。
通学の際も、死への誘惑があった。線路を眺め、そこに吸い込まれそうになったのも、一度や二度ではない。家族や周りの人に迷惑になるという考えが、私をこの世界につなぎ止める唯一の鎖だった。いや、本当の理由は死ぬのが怖かっただけかもしれない。私は死ぬ勇気もないのか、と考えてさらに落ち込んだ。周囲にはこの状況を悟られまいとしたが、やはり不自然だったようだ。
部屋をノックする音が聞こえ、いつまでも終わらないレポートとの格闘を一時中断した。
「兄ちゃん、大丈夫?顔色悪いよ。」
心配そうな顔で話かけてきたのは、妹の青葉涼である。現在、高校生一年生の妹は人懐っこく友達も多い。ムードメーカーで、妹がいると家の中が数段明るくなる。
「ああ、大丈夫だよ。まあ、少し疲れてるのかな。」
「お母さんも心配してるよ。最近、あまり食欲ないし、疲れた顔してるって。」
「研究と就活の二重苦だからね。この時期に元気なやつの方が少ないよ。俺が特別なわけじゃないさ。」
冗談っぽく笑いながら言うつもりだったが、うまく笑えなかった。そういえば、最後に笑ったのいつだっけ?顔の表情筋が強張ってしまったようだ。
「そうなの・・・。本当に大丈夫なの?」
妹の表情は曇っていたが、ご飯できたからリビングに来てね。という言葉を残して1階へ降りて行った。しばらくレポートを眺めた後、俊介も部屋を出た。
リビングの食卓には父親の青葉隆と母と妹、家族全員が揃っていた。母と妹は仲が良く、テレビを見ながら今流行りのアイドルグループについて楽しそうに話をしており、父はビールを飲みながら、肉じゃがをつついていた。俊介も座り、テレビを見ながら黙々とご飯を食べる。
「俊介。大学の方は・・・なんだ、うまくいってるのか。」
唐突に父がぎこちなく口を開いた。目に見えて暗い俊介が気になったらしい。父が近況を聞いてくるなんて珍しい。
「う~ん、なかなか大変だよ。」
そうか、と言いながらメタボ気味のお腹をさする父。それ以上答えようとしない俊介を追及するでもなく、再び肉じゃがをつつく。父はあまり俊介のプライベートに立ち入ろうとしない。
俊介の方もいつの頃からか、父とあまり会話をしなくなっていた。なんとなく、俊介は父を避けるようになっていた。何かあって、決定的に対立しているわけではないのだが・・・。そんな状態であるので、何かあっても相談を持ちかける事は無かった。父に限らず、母にも、妹にも本音を打ち明けて相談する習慣が俊介には無かった。