エピローグ 黒い正義3
エピローグ 黒い正義3
寺田修は、一人でカラオケルームにいた。一人カラオケを楽しみに来たのではない。スマートフォンを取り出すと、耳に押し当てた。
「寺田です。葛城里美に異常は見られません。順調に回復しているようです。」
「そうか。報告ありがとう。」
無機質な機械音で返答がある。
「先日、深夜の公園での暴行事件の件ですが、関わったのはあなた方ですよね。いつになったら、私も参加させて頂けるのですか。」
いらだった口調で問いただす。
「あせるな寺田。君は表舞台から我々の支援をしてくれている。君の支援があるからこそ、我々は目的を果たせるのだ。決して軽視しているわけではない。同じ志をもつ大切な仲間だ。」
「まだ信頼できないという事ですか。」
スピーカからため息が漏れる。
「確かに君を100%信頼してない事は認める。しかし、信頼関係とは時間をかけて構築するものだろう。逆に問うが、君は信頼するという言葉を、軽々しく使う相手を信頼できるか。」
「いえ。できませんね。」
「そうだろう。焦りは禁物だ。私が信頼に足る人物かどうか、君もじっくりと考えなさい。それに、我々のやる事は汚れ仕事だ。君のような前途ある若者がやる事ではない。もちろん、我々は信念に基づいて行動しているし、後悔などしていない。だが、自分は正義の味方だとは思っていない。この戦いに正義はない。勝者もいない。我々は外道だ。それは忘れてはならない。しかし、自分の行いが外道だとわかっていても、我々はその道を歩み続ける。」
寺田の胸が熱くなる。
「わかりました。全ては亡き新井智弘さんの遺志を継ぐ為に、ですよね。」
「その通りだ。同志よ。あの事件から全てが始まったのだ。亡き友の為に、我々は立ち止まるわけにはいかない。新井愛華の居所が判明したら、すぐに知らせてくれ。」
「お任せ下さい。」
建物から出ると、闇夜に浮かぶ満月が輝いていた。寺田は満月を見ながら笑みを浮かべた。やっと、ここまできたな。今宵も執行されるであろう黒い正義に、思いを馳せる。
ここまでお付き合い頂いた皆さん、ありがとうございました。次回は解説を挟んで、ソウル2に入ります。これからも、よろしくお願いいたします。