SE監視機関6
SE監視機関6
「私を覚えてる?」
唐突に、リバーシの口から透き通るような美しい女性の声が漏れた。その声を聴いた瞬間、清水は青ざめた。
「まさか・・・。いや、そんな・・・。」
震える声でそう言うと、リバーシが女性の声でケタケタ笑い始めた。暫く笑った後に沈黙し、清水をじっと見つめると口を開いた。
「良かった。覚えてるみたいね。私の事、忘れないでね。まだ、終わっていないから。まだ、終われないから。」
その言葉を最後に消滅した。清水はしばらく立ち尽くしていたが、思い直したように膝を折り、葛城の肩に手を置いた。
「葛城君。もう大丈夫じゃ。わしの声が聞こえるか。」
優しく問いかけると、葛城の見開かれた目から涙が溢れた。体が小刻みに震え、声もなく、泣き続けた。
「よく頑張った。よく耐えた。遅くなってすまなかった。苦しかったじゃろう。」
佐藤が駆け寄る。
「佐藤教官。至急、彼女を医療班の待機所までエスコートしてくれるかの。リバーシは全て除去できたはずじゃから、もう心配ないと思うが、まずは精密検査をしてくれ。わしはこのまま残って、残存リバーシの撃退と周囲の調査を行う。」
佐藤は慎重に葛城を背中におぶると、足早に医療班の下へ向かった。数十秒間走り続けると、無線から連絡が入った。
「本部より連絡。リバーシの全滅を確認。ポイントA周囲の調査終了、問題なし。本作戦は終了とする。負傷者1名、佐藤教官が護送中、現場付近で待機中の医療班は早急に処置せよ。」
仕事が早いな。あの人のレベルまで到達するのに、俺は何年かかるかな。いや、あんな高みへいけるのだろうか。いったいどれほどの訓練を積んだのか。清水さんが来なければ、どうなっていたかわからない。まだまだ未熟だな。
「ご迷惑をかけてすいません。佐藤教官。」
消え入りそうな声が背中から聞こえてきた。
「あんまりしゃべるな。体力を消耗するぞ。それにお前が謝る必要はない。そうやって全部責任を背負い込もうとするのはやめろ。お前の悪い癖だぞ。」
謝るのは俺の方だ。すまなかった。全く、ここぞという時に部下を守れない上司など、上司でいる資格はない。
「なんか佐藤教官の背中、安心します。」
「うっ、やめてくれよ。恥ずかしい。」
佐藤は恥ずかしさを紛らわすように、先ほどのリバーシについて考えを巡らせた。あのリバーシの声、私も覚えている。忘れられるはずがない。新井愛華。もし、この推測があたっていれば、何かが起ころうとしているのは間違いない。いや、既に起こっている。今日のイレギュラーな事態が偶然の重なりではないとすると・・・。もっと力をつけねば。佐藤はある決意を固めた。