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ソウル  作者: 宮川心
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闇の中でもがく青年1

 闇の中でもがく青年1

 

「行ってきます。」


 青葉俊介はいつもの調子でその言葉を母親の青葉美紀にかけ、大学へ向かった。自宅のある浅間市から、同じく市内にある浅間駅までは自転車で5分かかる。その駅から電車を乗り継ぎ1時間45分で、清水駅に到着する。清水駅から10分歩くと、青葉の通う瀬戸大学に到着する。


 瀬戸大学は有名な大学であり、全国で知らぬ者はいないだろう。偏差値もそこそこあるが、高嶺の花という程でもない。中堅の私立大学といった所か。キャンパスは全部で2つある。一つは都心にあり、文系の学部が集合している水野市にある水野キャンパス。そして、もう一つは青葉の通う理系の学部が集合している清水キャンパス。清水キャンパスの周囲はビルがほとんどなく、都心よりも落ち着いた雰囲気である。大学の正門に到着すると、4本の桜の木が訪問者を出迎えてくれる。


 青葉は瀬戸大学の応用生物学部に所属する4年生である。大学に到着すると掲示板を確認し、連絡事項が無いことを確認する。もう卒業に必要な単位は残すところ必修の研究室における研究活動と講義のみであるので、掲示板の情報はほとんど必要ない。


「おう。おはよう。」


 声をかけてきたのは同じ研究室に所属する桜井歩である。おはようと覇気のない返事で答えると、連れだって研究室へ向かう。この学年になると、まず研究室に直行する人がほとんどである。彼も真面目な学生で、卒業に必要な単位は研究室に関するものだけのはずだ。道中で就職課の掲示板の前で立ち止まる。


「どう、就活は順調に進んでる?」


 桜井は心配そうな顔で尋ねた。メディアで散々、就職難と叫ばれる時代である。4年生の4月、この時期は就活生にとって一つの山場である。早ければ内定が出て、喜びと安心に浸る者もいれば、このいつ終わるかわからない焦りと不安にもがき、苦しむ者もいる。前者は満開の桜を見て、自分の未来を想像し、心を躍らせるだろう。しかし、後者は満開の桜の色彩など目に入らない。満開の桜の下で、目を輝かせて未来へ歩む新入生を見て、ため息をつくばかりである。こんなはずではなかったのに。もちろんこの時期に落ち込むのは早計だが、気楽にどんと構えるのは難しい。


「なかなか、難しいね。」


 なんとなく気楽な調子でそう答えたが、青葉の心は沈んでいた。


「そうだよね。大変だよね。」


 と答える桜井は大学院に進むことを決めているので、気が引けるのか、余計なエールを送らない。へたな詮索をして、爆弾を踏むような事はしない。その後、他愛のない会話をしながら研究室へ到着する。


 “遺伝学研究室”なんとも簡潔なネーミングのその研究室は、安藤義彦教授がまとめている遺伝子の機能を解析する研究室である。安藤義彦教授は真面目で厳しいが、学生と真剣に向き合ってくれる人である。その為、学生が成長できるようなカリキュラム作りをしており、人気のある研究室である。青葉は第一希望にこの研究室を選び、運よく希望通りに配属された。4年生になる直前の春休みに、教授と面談して研究テーマを決定。4月に研究室のガイダンスを済ませ、順次研究を開始した。

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