SE監視機関5
SE監視機関5
「よし、うまくいった。」
空中で佐藤が捕獲銃を放り投げた時、異変が起きた。ネットに覆われて、身動きが取れない葛城の両脇の空間が歪む。
「本部より連絡。新たに2体のリバーシが出現。分裂体よりエネルギー値が高い。注意せよ。」
歪んだ空間から2体の黒い猿のような影が出現した。一体は空中の佐藤に襲い掛かり、残る一体は鋭い鉤爪でネットを切り裂く。
「なっっ!ネットを切り裂いたのか!」
佐藤に突進した猿は、佐藤の頭に向かって腕をしならせた。ひゅっ、という音が耳をかすめる。紙一重の所で鉤爪をかわすと、猿の懐に入る。MJソードを素早く引き抜き、猿の腹を連撃する。一体の猿は撃破したが、残る一体が切り裂いた穴から葛城が脱出した。
「何なんだこいつら。リバーシ同士が連携してるのか。」
リバーシ同士のチームプレイなど聞いたことが無い。ただ自分の獲物に襲い掛かるだけだ。ましてや、都合よく葛城を助ける位置に出現するなんて。混乱しながら、地面に着地すると銃声が聞こえた。見ると、残る猿型リバーシを寺田が狙撃した所だった。
「くそ、一発じゃ足りないか。」
銃弾は見事に目標を捉え、炸裂したが、敵は消えない。猿型リバーシは葛城を守るように立ちはだかった。
「くそ。この状態では撃てない。猿が避けたら後方の葛城に当たる!」
寺田は銃を構えながら、唇を噛む。今回はおかしい。こんなイレギュラーな事が立て続けに起こるなんて、いったい何なんだよ。心の中で毒づきながら、佐藤は次の策を練っていた。
しかし、その時、背後から巨大な殺気を感じた。まさか、新手のリバーシか。背筋に寒気を感じて、素早く振り返る。その瞬間、ヒュッという音と伴に、何かが佐藤の横を通過した。
「今回は大変でしたな。佐藤教官。」
後ろには老人が立っていた。
「清水会長!?」
佐藤が驚きの声をあげる。SE監視機関の中で、人間の皮を被った化け者と呼ばれている。化け物とは失礼な物言いだが、要するに規格外の強者。もう引退する年齢なのだが、その手腕は衰える事なく、引退を惜しく思う上層部の人間が引き止めたらしい。とりあえず、名誉会長という形で籍を残していると聞いた。
「佐藤教官。後は、わしに任せてくれんか。」
佐藤は了解して、リバーシの方を見ると胸に何か刺さっている。黒い刀。清水会長が愛用する黒龍。清水はすたすたとリバーシに歩み寄ると黒い刀身を引き抜いた。猿型リバーシは全滅した。残るは葛城。葛城はMJソードを構えて、切りかかろうとしていた。
「動くでない。」
短くはっきりと清水が言うと、葛城の動きが止まった。清水の瞳は葛城の視線を掴んだまま離さない。
「名も無きリバーシよ。よくもわしの大事な友をもて遊んでくれたな。」
怒気を含んだ声で威圧すると、黒龍の形状が漆黒の杖に変化した。その杖の先を葛城の腹に押し付けると、葛城の眼球が左右に忙しなく動いた。数秒間の沈黙。一瞬止まったかのような時を、するどい金切声が切り裂いた。
「ここだな。」
清水が腹から杖を離すと、それに吸い寄せられるように葛城の体から分裂体のリバーシが頭を出した。口を開き、騒音を出し続けるリバーシに目を向ける。
「うるさいのう。」
清水がそう言いながら、リバーシを引き抜いていく。リバーシの体が完全に姿を現すと、すばやく首を手で掴む。葛城はがっくりと膝を折り、腰が抜けたようにへたり込んでボー然としている。リバーシは沈黙した。
「在るべき場所へ還れ。」
そう告げると、杖を再び漆黒の刃に変化させて、リバーシに突き立てようとした。