SE監視機関3
SE監視機関3
空を飛ぶように、屋根から屋根へと走る黒い集団は、誰一人遅れる事なく目標付近に到着した。屋根の上に全員が待機するのを確認し、連絡を入れた。
「T1から本部へ。ポイントA外周の待機場所へ到着。」
佐藤教官は報告しながら、スコープで目標A1を視界に捉えた。T1部隊が集合している場所から、300m離れた位置の公園内に目標A1がいた。
目標A1は人型で身長約170cm、標準的な体型で黒いマントに身を包み、手には大きな鎌を持つリバーシだ。表情は確認できないが、獲物を探して周囲を探索している様子だ。
「T1とSET4の配置完了。SET2は目標A1への攻撃を開始。」
その無線を合図に、公園の物陰に潜んでいたSET2の隊員が狙撃する。銃弾は正確に目標に命中したようだ。目標のリバーシの輪郭がぼやけていく。
「さすがです。これで任務完了ですね。」
訓練生の一人がそう囁いた瞬間、本部から異常を知らせる無線を受信した。
「全隊目標を注視!。目標から複数と思われるエネルギー源を探知。」
「こちらSET2、目標の分裂を確認した。数は30体。」
佐藤教官は無線からの情報を聞きながら、目標をじっと観察した。目標は複数体に分裂した。黒装束に鎌を持った特徴を維持しているが、それぞれ身長は30cmのミニチュア版だ。しかも、背中に黒い翼を持ち、ちょこまかと動きまわり、不気味な笑い声を響かせている。
「こちらSET2、分裂体は我々の位置を察知した模様。こちらに向かっています。俊敏で銃弾を当てる事は困難です。全隊員はMJソードで応戦せよ。」
「こちら本部、分裂体の内19匹がSET2の包囲網を突破した。T1とSET4もMJソードで応戦せよ。SET4はT1を囲むように展開し、T1の防衛を最優先とする。T1はバディを組み、向かってくる目標のみに注意せよ。自分の身を守る事に集中し、SEPの確認を怠るな。」
慌ただしく交錯する無線に、T1隊員の顔に緊張が走る。皆がMJソードの柄を握ると、佐藤教官は声をかけた。
「命令通り、自分の身を守ることを最優先事項とする。自ら敵を討ちに行くなよ。」
釘を刺した所で無線が入る。
「こちら本部。SET4の防衛網を9体が突破。佐藤教官はT1から離れるな。T1に接近した敵のみを攻撃せよ。他2名の教官は突破した9体の迎撃に迎え。」
連絡が入ったと同時に2名の教官がスタートを切る。9体もの敵を2名で殲滅するのは難しいだろう。敵は小さく、俊敏。しかも、ばらけて襲ってくる。
「こちら本部。T1部隊に5体が接近!」
上空の敵は本部からの連絡前に目視できている。5体まとめて上空から鎌を振り回して突っ込んでくる。佐藤教官は2本のMJソードの持ち手を握った。敵のSEPはそれほど高くない。軽くスピードのある斬撃で瞬時に消す。斬撃のイメージを浮かべて、上に飛ぶ。敵に突っ込むと2本のブレードが雷鳴を轟かせ、鋭い線を描く。くそ、2体逃した。すばやく下を見おろし、怒鳴る。
「葛城。後ろに2体!全員葛城をフォロー!」
訓練生の葛城里美に2本の鎌が襲い掛かる。葛城は必死にMJソードを振り回し、1体の分裂体を捉えた。斬撃をもろに受けた分裂体は、形状を保てなくなり消滅する。
「伏せろ!」
バディの寺田修が声を上げ、葛城が伏せたと同時に、背後にいた分裂体を薙ぎ払いにかかる。しかし、刃は空を切った。葛城が振り返って寺田を見上げた。
「前だ!」
寺田の声に反応し、すばやく前を向く。しかし、既に悪魔が持った鎌が葛城の胸に深々と刺さる。その瞬間に葛城の体が糸の切れた人形のように、倒れ込む。